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双極性障害とADHD(注意欠陥多動障害)と対人関係社会リズム療法

[2012.06.04]

双極性障害とADHDは40〜80%に併存することはよく知られています。またADHDは60〜75%程度でアスペルガー障害などの自閉症スペクトラム障害と併存することもよく知られた事実です。

 

双極性障害は内因性疾患であり、躁状態の程度により双極1型と2型に区別され、遺伝的な要素が見られます。3親等以内に似たような気質や双極性障害の人がいますよね。

一方、ADHDや自閉症スペクトラム障害は生来性(生まれつき)ですが、衝動性の亢進や躁的防衛を呈する事があり、双極2型(まれに1型)と併存診断されることもあります。

しかし現在の診断基準(DSM-IV-TR)では「病前性格(気質)」は考慮せず、症状だけで判断するため、双極性障害と似た状態を呈するADHDや自閉症スペクトラム障害も、双極II型や気分循環症、あるいは軽微双極型などが双極スペクトラム障害と診断されていることがよくあるんですよ。

 

摂食障害と発達障害のエントリーで書いたように、ADHDや広汎性発達障害が背景にある摂食障害は過食が主症状の非定型的な経過をとることが多いように、双極性障害とADHDは、似ていても病像が微妙に違ってきます。

こうやって見てみると、ADHDと双極性障害とは、気分の波(周期やエピソード)の明瞭性躁状態の症状の内容で鑑別できそうですよね。(図は、傳田『子どもの双極性障害』金剛出版より)

躁病エピソードにもADHDにも共通してみられる症状としては

易刺激性(イライラ感)
多弁
活力の増大
注意散漫

が挙げられています。

 

このような共通する症状によって、ADHDを双極性障害と診断する過剰診断の傾向はあるにしても、気分安定化薬が有効な点で治療的には似ており、診断が違っていたとしても治療薬に関しては大きな違いはないと言えますよね。

 

双極性障害の躁病エピソードに特異的にみられ、ADHDにはほとんどみられない症状として

高揚気分
誇大性(誇大妄想)
観念奔逸/考えの競い合い
睡眠欲求の減少

が挙げられています。

なかでも2〜3時間の睡眠でよく休めたと感じ、それでも疲れを感じないという「睡眠欲求の減少」は、自覚的にも他覚的にも評価しやすい双極性障害の指標であり、社会リズム療法でコントロールしていく刺激を考える上で非常に重要になってきます。

三田こころの健康クリニックでは、双極性障害に対する「対人関係-社会リズム療法」を行いますので、治療戦略を考える上で、双極性障害とADHDの鑑別が必要になってくるのです。
(自閉症スペクトラム障害でも双極II型に似た状態を呈することもあります。)

 

もともと。
双極性障害、とくに双極2型は、同調性や他者配慮性がテーマになってきますよね。
ADHDでは似たような気質(循環気質)を呈することもありますが、自閉症スペクトラム障害は「同調性や他者配慮性」とは対極にあります。

 

同調性や他者配慮性は、他人の顔色をうかがう小心さ、過度の傷つきやすさ(状況反応性)、拒絶への弱さ(拒絶過敏性)があり、これらが、環境への不適応の要因になるともいえますが、同時に、その人なりの『強み』でもあることを見いだすことが、双極2型の精神療法のメインテーマであることは、内海健先生が『うつ病新時代』に書いておられます。

 

他人への配慮や気遣いをしつつ、彼らが奮闘してきたこと、彼らによって支えられた人たちがいること、そして誰もそれを評価しておらず、にもかかわらず、患者に依存し、患者の気遣いを湯水のように消費してきたこと、そうしたことに共感が示されるべきである。

少なくとも、他者への尽力に役に立ったのであり、意味があったのだということを、治療者は繰り返し与えて返してしかるべきである。

双極2型では、罹病中に経験したことは、よきにつけ、あしきにつけ、その後にも刻印される。
実際、精神療法の効果は、回復後にも持続しているし、回復後も精神療法は有効である。

 

そういう感じなので、双極2型に関しては、対人関係-社会リズム療法がしっくり来ますよね。

 

ADHDの場合は、対人関係構築困難、衝動性が主症状になるため、精神療法よりも薬物療法によるコントロールが基本になります。


その中で対人スキルを構築していくためのアサーションなどの指導をすることはありますが、やはり、双極2型と異なり、ADHDや自閉症スペクトラム障害を背景に持つ双極性障害に対する対人関係-社会リズム療法の適応は、思い込み・こだわり・回避性などの要素が強い場合は困難な場合が多いのが正直なところです。

 

印象としては、ADHDのある双極性障害に対しては、変化を起こしていく対人関係療法よりも、刺激を調節して生活リズムを安定させていく「社会リズム療法(SRT)」に重点を置くことによって、対処はある程度可能になりそうだと思えます。

しかし自分の身体的・精神的への気づきが十分ではないため、明暗刺激に同調する「体温(代謝)リズムの調節」を行う時間生物学的治療(クロノセラピー)のやり方よりも、のめり込みや過集中などの「社会的同調因子」に同調している「睡眠覚醒リズムの調節」が必要で、どちらかというと行動療法的なアプローチの方が向いていると思われますよね。

 

院長

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