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双極性障害と躁的防衛

[2013.12.29]

治療者の裏ブログ『如実知自心』の『双極性障害とパーソナリティ・気質』で、双極性障害の診断に不可欠な「その人の通常の行動からの変化」は、もともとどういう人だったのか?という「人となり(パーソナリティと生活史)」を理解する必要がある、ということを書きました。

この理解のプロセスで必要になるのが、ヤスパースが提唱した「了解」ということです。
ヤスパースのいう「了解」は、追体験と感情移入のプロセスからなり、「共感」という概念に近いものですよね。

 

人間の脳は可塑性といって、環境に応答して変化する特徴があります。
「良好な治療関係の構築」という対人関係により治療に対する積極性や病識の理解など、ポジティブ・フィードバックをもたらします。
「了解」というプロセスは治療的ですよね。

対人関係療法が治療関係の構築や重要な他者との関係に焦点を当てるのは、まさにこの関係性のポジティブ・フィードバックを目指しているんですよね。

 

扨(さて)。
もともと葛藤耐性の低さという特性(trait)を持った人が

内的現実の否認
内的現実から外的現実への逃避
内的世界の人びとの無力化
抑うつ感の側面の否定
死や混沌の否定

などの防衛機制によって、対象を失ったことを否認し、部分対象関係にとどまり、抑うつ不安は感じない
状態(state)を「躁的防衛」と呼びます。

たとえば。
双極性障害に摂食障害、とくに過食症が併発した場合、躁状態あるいは定常気分(euthymic)であれば過食は減り、うつ状態あるいは不快気分(dysthymic)であれば過食はひどくなることが知られています。
過食は気分不快をなかったことにする防衛として作用していますよね。

しかし、一見躁状態にみえる「躁的防衛」では気分自体は不快気分(dysthymic)を否認しているだけなので、躁状態にみえても過食は続くという奇妙な事が起きます。

このような躁的防衛に似た状態の「妄想-分裂ポジション」への退行とも、躁的防衛とも異なる抑鬱ポジションの障害をオグデンが「自閉 - 隣接ポジション」としてまとめたそうですが、精神分析の対象関係論は専門ではないので割愛します。

 

躁的防衛は「人となり」の理解があれば了解可能ですが、双極性障害は生物学的基盤がありますから了解不能ですよね。

「共感的理解(静的了解と発生的了解)」が出来ない場合、疾患という医学モデルを用いた文脈での理解になり、これを「説明」といいます。(対人関係療法ではフォーミュレーションと呼びます。)

このような精神病理学的な理解は、実はゲノム研究という生物学的な理解ともオーバーラップしているみたいな印象を持ちました。

 

名古屋大学の尾崎紀夫教授のインタビュー記事『双極性障害をめぐる現状と課題:オールジャパン体制での研究推進が急務』に掲載されていた図を挙げてみます。

三田こころの健康クリニックで専門にしている対人関係療法では、構造化面接による症候診断で治療すべき疾患を診断しますが、同時にその人の気質や幼少期の生育歴や現在までの生活歴、愛着スタイル(対人関係様式)、コミュニケーションスタイルなど、「その人の通常の行動」というパーソナリティに関連する部分の理解を重視していますよね。

対人関係療法での診断プロセスは、図の上の「神経発達面の病理」や「感情面の病理」から、症状や疾患にを文脈として読み解いていくのですが、ゲノム研究では同じ事を生物学的に同定していこうとしているみたいですよね。

院長

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