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傷つき体験や神経発達症特性にともなう不安とカフェインの関係

[2022.06.22]

トラウマ関連疾患に対する社会リズム療法で、「不安とカフェイン、そして抗不安薬(ベンゾジアゼピン系睡眠薬も含む)による症状の悪化は、PTSDなどのトラウマ関連障害だけでなく、ASD(自閉スペクトラム症)ADHD(注意欠如・多動症)でもよく認められます。」ということを書きました。

 

引用した論文には「不安惹起性の物質であるカフェインの影響は、飲酒、喫煙に比べると見過ごしやすい」と注意を惹起されていますし、厚生労働省のサイトでもカフェインによる健康被害を啓発されています。

 

トラウマ関連疾患に対する社会リズム療法』では、カフェインとベンゾジアゼピン系抗不安薬が不安に及ぼす影響について触れましたが、神経発達症特性があり、被いじめ体験などの傷つき体験や、対人トラブルを抱える人の中には、抗不安薬の代わりにアルコールを常用される人も多いようです。

 

ASD併存例では、ASD非併存例と比べて、初診時年齢が低く、未婚で身体疾患はないが、若くしてすでに不登校、被いじめ体験、精神病様体験、自殺関連行動および対人トラブルといった負の既往を抱えていることが多い。

近藤. 背景に神経発達症があれば,いかなる治療的工夫が必要となるか. 精神科治療学 37(1): 23-28. 2022

 

怒りや対人緊張や不安を沈静化するためにアルコールを摂取し、一方、気分の落ち込みや意欲の低下にカフェインを摂取したくなることは、体験的にもわかりやすいですよね。

 

アディクションを持つ人の家族背景は複雑なことが多く、幼少期の虐待、過剰な叱責や体罰のような不適切養育、いじめ等のトラウマ体験を認めることも少なくない。

自己治癒仮説では、心的苦痛の性質と物質乱用の関係についても言及しているが、例えば、激しい怒りを鎮めるためには麻薬や大量のアルコールが、気分の落ち込みや意欲の低下には覚醒剤やコカインといった神経刺激薬が、また、対人緊張や不安に対しては、中等量のアルコールが効果的であるという。

村上. 成人嗜好性障害患者の背景に潜む神経発達症のインパクト. 精神科治療学 37(1): 81-85. 2022

 

問題は、アルコールやカフェインが気分の変動という悪循環を引き起こすことです。

 

神経発達症特性を有し、被いじめ体験や逆境的小児期体験など対人関係の傷つき体験を有する人たちが、1日400mg以上のカフェイン(マグカップで約2杯半)を摂取し、その結果誘発された気分の変動を双極性障害とかパニック障害などと診断され、なかなか治らないため、こころの健康クリニック芝大門を受診されるというケースが多くあります。

 

カフェインには血管拡張性の頭痛を抑制する効果もあると同時に、カフェイン禁断症の頭痛を誘発するという副作用もあります。

 

被害後、社会的に適応していた時期をはさんで再体験症状が悪化した患者が、過労のために推定で400mg/日のカフェインを摂取していたことが分かり、カフェイン誘発不安症が主診断となったこともある。

トラウマ被害者が適応改善のためにカフェインを摂取することは少なくないが、それによってかえってPTSDが悪化することがある。

その背景として、カフェインは気持ちを落ち着かせるという思いこみがあることや、物質関連障害の中にアルコール、大麻、幻覚剤と並んでカフェインが含まれているなどの知識が浸透していないことがあろう。

こうした疾患の治療や生活習慣の改善はトラウマの根本的な解決にはならないが、増悪因子の解消を通じて症状の改善を図ることは可能である。

金. 複雑性PTSDの診断と対応. 精神療法 47 (5): 556-562. 2021.

 

カフェインの副作用として、大量摂取で振戦、めまい、不整脈、不眠、不安などはよく知られています。

 

そのためカフェインによる不安症は、パニック発作や過覚醒症状を引き起こしやすくなります。

 

そもそもパニック障害は思春期に過呼吸発作の形で発症することが多いのですが、25歳を過ぎてのパニック発作の初発はカフェイン誘発性のことが多く、過呼吸よりも動悸や手の震え、発汗などの症状が目立ち、広場恐怖(いわゆる閉所恐怖)を伴わないことが特徴のようです。

 

さらにカフェインは不安症だけでなく、「カフェイン誘発睡眠障害」を引き起こしやすくなります。

 

熟眠感が欠如するため翌朝は眠く、またカフェインを摂取しますが、日中の不安発作やパニック発作を引き起こしやすく、明日も発作が起きるのではないか?という予期不安も重なり、睡眠障害が悪化します。

 

先に述べたカフェインを再び例に取ると、抗不安薬とカフェインの「共依存的な」摂取が生じることもある。

すなわち抗不安薬によって眠気を生じるとカフェインを大量に摂取し、カフェインで不安が生じると抗不安薬を服用するということがみられる。やがてカフェイン惹起性の睡眠障害が生じ、睡眠リズムが乱れ、生活機能が大幅に低下することにもつながりかねない。

金. 複雑性PTSDの診断と対応. 精神療法 47 (5): 556-562. 2021.

 

現在、精神科や心療内科、メンタルクリニックに通院中で、パニック障害とか不安障害、あるいは双極性障害と診断されて、抗うつ薬や抗不安薬を投与されている方は、カフェイン含有飲料の摂取量をチェックしてみてくださいね。

 

院長

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