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五月病・6月病とストレス反応

[2023.05.22]

4月に新年度が始まって1ヶ月半が過ぎ、ゴールデンウィークの連休が終わり、梅雨入りも近くなったこの時期、耳にすることが多くなる言葉が「五月病」や「6月病」です。

 

新年度の始まりが9月の諸外国では‘September blues’や、クリスマス休暇後の‘January blues’などの言い方もあるようですから、五月病や6月病は、さしずめ‘May blues’や‘Spring depression’という表現になるのかもしれません。

 

五月病と6月病

全国健康保険協会の健康情報では、以下のように説明されていました。

 

新年度を迎え、新社会人をはじめ転職や異動など新しい環境で仕事を始める人も多いことでしょう。心機一転、「よし、頑張るぞ!」とエネルギーが湧いてくるものです。

しかし、ゴールデンウィークを過ぎて一段落する頃から、にわかに「やる気が出ない」「ふさぎこむ」という症状が現れる人がいます。俗にいう「5月病」です。

研修を経て5月から実際に仕事を始めるという社会人の場合、これらの症状が6月に見られるため、「6月病」とも呼ばれます。

5月病、6月病のいずれにしても、環境の変化に伴う心身の負担、ストレスが主な原因です。

4月 未然に防ぐ5月病対策

 

上記の説明には、「環境の変化に伴う心身の負担、ストレス」という表現が出てきました。のちにストレスという用語で表現される状態を、セリエは「全身適応症候群(汎適応症候群)」と表現しました。

その中で、ストレッサーが加わったときに、「時間経過とともに生体全体にわたって発現する適応に関係する反応」を「ストレス」と名づけています。

つまり、「ストレス」は「適応に関係する反応そのもの」であるということです。

 

「5月病」の多くは一過性の症状であり、適度な休息などで改善されることがほとんどです。ただし、会社や仕事が苦痛に感じるなど、仕事に支障が出るような重症の場合は早めに医療機関を受診しましょう。
「5月病」は正式な医学用語ではありません。医療機関では「適応障害」「軽度のうつ」といった診断名がつけられることもあります。

4月 未然に防ぐ5月病対策

5月病も6月病も「適応障害」の一つと考えられていますが、5月病が急性に起こっているものとすれば、6月病は慢性的に続くものといえます。
症状としては不眠、頭痛、めまい、吐き気、食欲不振などがあげられますが、梅雨の時期の不安定な気候も影響し、なんとなく体がだるく不調を感じるなど人によってさまざまな症状が現れます。
さらに不調が続くとうつ状態となり、「うつ病」を発症してしまう可能性もあります。

6月病 〜今話題の健康ワード!〜

 

ストレッサーを測定する「社会再適応評価尺度」

ホームズとラーエは、これまでの生活スタイルを変化させる可能性があるストレッサーをライフイベントとして取り上げ、出来事の強度と持続に対するストレス反応を「社会再適応評価尺度」として測定する方法を開発しました。

 

社会的再適応のプロセスは、セリエの全身適応症候群の時系列変化と同様に、ライフイベントの長期化や、複数のイベントが重複することで、「疲弊期」へと進展する可能性が高まり、その結果、病気の発症につながっていくと考えられます。

疲憊期がイベント体験からどの程度の時間的経過を伴って訪れるかは、一概にはいえませんが、直近1年間に体験されたイベントの総得点が一つの目安として用いられています。

永岑『はじめてのストレス心理学』岩崎学術出版社

 

こころの健康クリニック芝大門では、休職中でリワークへの参加を希望して転院してこられた方に、夏目らが日本人に合わせて作成した「社会再適応評価尺度(ライフイベント法)」を用いて休職前1年、休職前3ヶ月のストレス因の累積強度を測定し、診断に役立てています。

 

「社会再適応評価尺度(ライフイベント法)」では、たとえば、配偶者の死が83点、会社の倒産74点、親族の死73点、離婚72点、夫婦の別居67点、会社を変わること64点、というように点数がつけられています。

150点以上の比較的強いストレッサーを体験した人の2人に1人が半年から1年の間に心身症になる可能性があることがわかっています。さらに、300点以上のとても強いストレッサーを体験した人のうち80%の人が近い将来に心筋梗塞やうつ病にかかる可能性がある、といわれています。

 

セリエの「全身適応症候群(汎適応症候群)」では、「警告反応期(ショック相・反ショック相)」「抵抗期」「疲憊期」という時系列に沿った反応が認められるとされています。

生活していく上では環境の変化に適応する「警告反応期」をくぐりぬけ、あらゆるストレス因に抵抗しながら(「抵抗期」)適応していきます。

 

適応障害とストレス反応

「適応障害」は、必ずしも「圧倒される」ような質とは限らない「日常のストレス因」に対する反応であり、その症状の程度や強度は通常考えられるものよりも著しい苦痛をもたらしているもの、と定義されています。加えて、「障害(disorder)」の診断に欠かせない「機能不全」が認められることも要件の1つです。

 

前出の「社会再適応評価尺度(ライフイベント法)」で見てみると、「適応障害」と診断される人は80点を超えることはなく、ストレッサーはとても少ない状態です。

昇格や抜擢に伴う配置転換など職場要因の変化に対して、性格や価値観、就業動機などの個人要因がうまく適合できずに、就業への不安・恐怖症状や仕事に対してのみ部分的に抑うつ的となる呈し、受診するに至った症候群を「職場不適応」と呼ぶ事もあります。(前掲書)

 

これらのことから、「適応障害」はセリエの「全身適応症候群(汎適応症候群)」の「警告反応期(ショック相)」に該当するようです。そのため、「適応障害」はストレス因が始まってから速やかに発症し(DSM-5では3ヵ月以内、ICD-10では1ヵ月以内)、ストレス因がなくなれば速やか(DSM-5,ICD-10ともに6ヵ月以内)に軽快する、と定義されているのだと考えられます。

 

では、上記の引用にあるように、五月病や6月病などの「適応障害」が続くと「うつ病」になってしまうのでしょうか?

 

だがそのいっぽう、メーターの針が振り切れてしまうほどのストレスではなくとも、うつ病になってしまう場合もあるらしい。離婚や転勤、配偶者の死、更年期−−これらはたしかに人生そのものに「揺さぶり」をかけてくるが、大概の人々は何とか乗り切る。そんなものを契機にうつ病になってしまうのは、つまり心の鍛え方が足りないからなのか。もちろんそうではありません。

(中略)

多くの場合は、この内因に加えてちょっとしたストレス(前述した離婚や転勤、配偶者のし、更年期等々。ストレスというよりは、人生に訪れた変化と呼ぶべきかもしれません)が引き金になって発病しますが、周囲の人たちはこの「ちょっとしたストレス」こそが直接的な原因だろうと見誤りがちです。ここがややこしいところですね。

春日『はじめての精神科』医学書院

 

問題は、さほど過酷でないストレス下なのに生じたうつ病、つまり、直近1年間に体験されたイベントの総得点が高いところに「ちょっとしたストレス因(変化)」が加わり、一見したところ「適応障害」のようにみえてしまう「うつ病」があります。

 

何十年も風雪に耐えてきた頑丈なレンガ造りの家が、そよ風で飛んできた木の葉1枚が当たっただけで崩れ落ちてしまう「最後の麦わら」と同じような発症をするこのような「うつ病」は、以前は「疲弊性のうつ病」と呼ばれたりしていました。(『うつ病と適応障害のストレス反応の違い』参照)

うつ病と適応障害のストレス反応の違い

 

つまり、セリエの「全身適応症候群(汎適応症候群)」のうち、持続する傷害性作因に対して安定して抵抗できている「抵抗期」にさらに傷害性作因が持続すると、抵抗力や適応が消失していく「疲憊期」に移行し、最初の「警告反応期」のショック相の反応が再現されます。

 

「適応障害」は「警告反応期」のショック相であり、「疲弊性のうつ病」は安定した「抵抗期」の後の「疲憊期」の反応です。つまり「適応障害」と「うつ病」の間には、安定して抵抗できている「抵抗期」があります。

ですから、「適応障害」が続くと「うつ病」になってしまうことはなく、「適応障害」と「うつ病」は似て見えても全く別の状態ということです。

 

「適応障害」では「警告反応期」の反ショック相に移行できるようにショック相をやわらげる治療、つまり環境調整が必要となります。「適応障害」に抗うつ薬などを使ってしまうと、それ自体が傷害性作因となり、「適応障害」が長引いてしまうことが考えられます。

一方、「うつ病」では「疲憊期」をやわらげる休養とともに、抵抗力を回復させるための薬物療法が必要となるなど、治療方針が全く異なりますから、慎重に鑑別して診断する必要があるのです。

 

院長

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