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トラウマと気分障害の関係

[2014.10.20]

トラウマによって感情調節不全が生じることは医学書にも記載があるくらいの周知の事実なのですが、精神科臨床では、生育歴を詳しく聞かないため見過ごされていることがほとんどで、「遷延性うつ病」や「難治性うつ病」とされていることも多いのです。
(『愛着の問題やプチ・トラウマが関与する気分変調性障害の治療』参照)

たとえば、感情調節不全の症状である不機嫌やいらだたしさは、「気分変調性障害」などの抑うつ状態でもみられるほか、「双極性障害」の躁状態や混合状態の指標ともされています。

 

感情調節不全を伴う抑うつ状態を診断する場合、躁状態に焦点をあてて診断する現在の診断の仕方は、特異性が低く、偽陽性も増えることがわかっており、双極性障害の過剰診断を引き起こしています。

このような過剰診断の問題は、気分エピソードの挿話性や反復性の詳細な評価、精神疾患の家族歴の聴取が行われていないだけでなく、投薬による治療反応性を詳しく検討されていないなど、短時間診療・薬物偏重(あるいは多剤併用)になりがちという精神科臨床の抱える問題でもありますよね。

 

もう一つ「発達障害/自閉症スペクトラム症」では、同級生からの悪口やからかい、注意や叱責を受けたこと、など、日常的に誰でも経験する出来事が記憶に固定され、繰り返し想起されるタイムスリップに伴う感情調節不全も、トラウマとみなされたり「双極性障害」と診断されていることもよく見かける問題です。

 

カナダのCANMATガイドラインでは、「PTSD」の21〜94%が「単極性うつ病」と診断され、11〜67%は「不安障害」と「単極性うつ病」と併存診断されていると報告されており、PTSD症状と抑うつ症状がより重篤で、社会的機能障害が大きく、また21歳未満に発症した気分変症性障害では、性的虐待がある場合、10年後の抑うつ状態がより重篤であるなど、トラウマがうつ病の発症や遷延化のリスクを高めている可能性が指摘されています。

 

愛着とトラウマのまとめ1〜トラウマとは何か?』で書いたII型トラウマは、長期にわたってくり返される苦痛の体験であり、「複雑性PTSD」や「DESNOS」として知られていますよね。

 

「複雑性PTSD」では、単回性PTSD(I型トラウマ)の三大症状である「再体験(フラッシュバック)」「回避・麻痺」「過覚醒」に加え、

・感情調節不全(易怒性)
・自尊心の低下(否定的な自己概念)
・自己と他者に対する認知の障害(対人関係問題)

をきたすことが知られています。

 

虐待と愛着(アタッチメント)1〜愛着(アタッチメント)の傷つき』に書いた虐待など慢性的な対人トラウマによって発症する「発達トラウマ障害(DTD)」は、「複雑性PTSD」や「DESNOS」のプロトタイプともされています。

 

発達トラウマ障害(DTD)」では、「複雑性PTSD」や「DESNOS」と同じように、「感情調節障害」「自尊心の低下(否定的な自己概念)」「自己と他者に対する認知の障害(対人関係問題)」など基本的な欠損が引き起こされるために、

幼児期〜児童期:調節障害、愛着障害、情緒障害、児童期の双極性障害
児童期〜青年期:ADHD、反抗挑戦性障害、社会的行動の障害、物質乱用、過食症、気分障害(慢性うつ病・双極性障害)
青年期〜成人期早期:パーソナリティ障害、解離性障害、身体表現性障害、自傷・自殺念慮

など、各発達段階で特異的な精神病理的な表現型として発症すると考えられています。

 

このブログや如実知自心で検索数の多い「愛着障害」は、成長に従って、気分障害(抑うつ症候群や双極性障害)を中心としてあるいはパーソナリティの問題に似た対人関係困難として表現されるということですよね。

 

つまり、うつ病や双極性障害などの気分障害、あるいは上記にあげた疾患の診断については、生育歴の聴取は必須であると同時に、三田こころの健康クリニックで行っているように発達精神病理学をふまえた包括的なアセスメントを行う必要があると同時に、その年齢に応じた治療を考慮する必要があるということですよね。(梅こんぶさんのブログ『梅こんぶの幸せごちそうさま』を参照して下さいね)

 

薬が増えるだけで、なかなか良くならない慢性のうつ病や双極性障害、あるいは過食症やむちゃ食い障害で悩んでいらっしゃる方、「愛着障害(愛着トラウマ)」かもしれないと思っていらっしゃる方は、三田こころの健康クリニックに相談してみてくださいね。

院長

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