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うつ症状が社会機能に及ぼす影響

[2022.12.19]

うつ病・うつ状態では、さまざまな症状を呈することが知られています。

 

古典的なうつ病(内因性うつ病)では、朝に気分が悪く、夕方から夜にかけて軽快する日内変動や、入眠困難や早朝覚醒、食欲低下・体重減少など、生物学的な症状を伴うことも知られています。

 

一般には、「気持ちが沈む」「やる気がでない」などの症状があれば、うつ病・うつ状態と考えられがちですが、これらの症状はうつ病・うつ状態に特異的な症状ではないのです。

 

試験に落ちたり、リストラにあったり、恋愛が破綻したり、そうした気落ちする出来事に直面すれば誰だって「うつ」っぽくなる。身体の病気を患っても、症状のつらさや経過に対する懸念から「うつ」に陥りやすい。

(中略)

上記のような落第、失業、失恋、身体疾患といった状況が解決さえすれば、うつ状態も改善するのが普通ですから、ならば治療ではなく困難状況への取り組みを優先させるべきです。たとえ困難状況の解決が難しい場合でも、時の流れが癒してくれる場合が多い。我慢が可能な範疇であるならば、さしあたっては医療の対象外ということになる。

春日武彦『はじめての精神科』医学書院

 

たとえば甲状腺疾患やビタミンB1不足、潜在性鉄欠乏などの身体疾患にはその治療が必要ですよね。

一方、反応性の抑うつ状態は一過性であり、落第、失業、失恋になど伴う抑うつ状態では、精神面に対して治療の必要はないのです。

 

ストレス反応が身体症状として表れる場合

また身体症状に関して、喉が詰まった感じがするなどの咽喉頭異常感症、胸が苦しいなどの呼吸器症状、朝の吐き気や下痢などの消化器症状といった身体症状を主訴に受診されたり、あるいは産業保健スタッフからメンタルクリニックへの受診を勧められる方も多いです。

 

特に吐き気や胸やけなどの上部消化管症状は、出社することや業務関連の不安などの心理的な要因に伴って悪化することもありますが、出社してしばらくすると軽減してくるのが特徴のようです。ストレスが誘因になっている上部消化管症状であれば出社後に増悪するはずです。

このような症状は休職してストレス因から離れたとしても、症状はほとんど改善することがありません。

 

機能性ディスペプシア、逆流性食道炎などの胃食道逆流症(GERD)、急性胃炎、過敏性腸症候群などの消化器症状(消化器心身症)は、ストレス要因の関与があったとしても、胃腸科や内科での身体疾患の治療を継続してください。

 

抗うつ薬による認知機能障害という問題

さて、うつ病の治療のための抗うつ薬の処方や、再発を防ぐために長期間の抗うつ薬投与が行われている場合、うつ病そのものが社会機能に及ぼす影響や、抗うつ薬による認知機能の低下が問題になっています。

 

さまざまなうつ病・うつ状態の症状について、「簡易抑うつ症状尺度(QIDS:Quick Inventory of Depressive Symptomatology)」を用いて調べると、「悲哀(悲しい気持ち)」「集中力/決断力」「易疲労感(エネルギーのレベル)」「興味の減衰(一般的な興味)」の項目の順に社会機能に対する影響が大きかった、と報告されています。

 

また、「仕事や社会への適応に関する評価尺度(WSAS:Work and Social Adjustment Scale)」を構成する「労働」「家事」「社会活動」「個人活動」「人間関係」の5項目に分けて検討した結果があります。

 

「労働」と「家事」では「悲哀(悲しい気持ち)」「集中力/決断力」「易疲労感(エネルギーのレベル)」が、「社会活動」と「人間関係」では「悲哀(悲しい気持ち)」「興味の減衰(一般的な興味)」が影響を及ぼしていた、と報告されていました。Fried EI et al. The Impact of Individual Depressive Symptoms on Impairment of Psychosocial Functioning.

 

うつ病の大症状の1つである「興味の減衰(一般的な興味)」と、「悲哀(悲しい気持ち)」「集中力/決断力」「易疲労感(エネルギーのレベル)」などの3つの小症状が社会機能に対する影響が大きかったという結果は、こころの健康クリニック芝大門のリワークで用いている「復職準備性評価スケール(PRRS)」にも応用できそうです。

 

社会機能障害を復職準備性評価スケールで評価する

「復職準備性評価スケール(PRRS)」は、「基本的な生活状況」「症状」「基本的社会性」「サポート状況」「職場との関係」「作業能力・業務関連」「準備状況」「健康管理」の8領域23項目について各1〜4点で評価点を算出します。

 

「復職準備性評価スケール(PRRS)」では、「B.症状」に「9.興味・関心」が、「F.作業能力・業務関連」に「16.集中力」が含まれています。

 

一方、「復職準備性評価スケール(PRRS)」での精神症状の評価は、ザックリした大雑把なもので、日常生活への影響の有無を評価しています。

 

精神症状(例:ゆううつ、イライラ、不安、やる気のなさ等)のために

① 日常生活に、週の半分以上支障がある。

② 日常生活に、支障が出ることがある。

③ 精神症状がときにみられるが、日常生活への支障はない。

④ 精神症状は、まったくない。

 

「悲哀(悲しい気持ち)」は、「ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)」では「抑うつ気分」として評価されます。

 

抑うつ気分:ゆううつ、厭世感、悲哀感を示す、泣く傾向

1.悲哀感その他が認められる。

2.時々泣く。

3.しばしば泣く。

4.極度の抑うつ傾向。

 

また、「易疲労感(エネルギーのレベル)」は、「簡易抑うつ症状尺度(QIDS)」で以下のように評価されます。

 

エネルギーのレベル

0.普段のエネルギーのレベルと変わりない。

1.普段よりも疲れやすい。

2.普段の日常の活動(例えば、買い物、宿題、料理、出勤など)をやり始めたり、やりとげるのに、大きな努力が必要である。

3.ただエネルギーがないという理由だけで、日常の活動のほとんどが実行できない。

 

順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院の馬場教授によると、プレゼンティーズムの原因の1つであるうつ病・うつ状態の認知機能障害への問題意識が高まっているとして、「認知機能障害を残存させないように、治療開始時点からそのことを意識した治療を行うこと」、「残遺症状としての認知機能障害に対し、精神科リハビリテーションを含めて治療をどのように展開していくか」という課題があると話されています。(『復職までの支援プラン(職場リワーク)の意義』参照)

 

「復職準備性評価スケール(PRRS)」で「ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)」の「抑うつ気分」と、「簡易抑うつ症状尺度(QIDS)」の「易疲労感(エネルギーのレベル)」の日常生活への影響を評価することで、社会機能障害の影響を評価できそうですよね。

 

院長

2022年の院長ブログ『聴心記』は今回でおしまいです。お読みいただきありがとうございました。

来年も、さまざまな疾患の背景に隠れたAS(自閉スペクトラム)特性、トラウマ関連障害のさまざまなことや、休職・復職など働き続けるためにクリアしなければならない抑うつや適応障害、摂食障害の治療などについて書いていきますので、お楽しみに。

年明けは2023年1月5日(木)にエントリーします。

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