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摂食障害の治療の問題〜治療からの離脱

[2015.04.13]
西園先生が摂食障害の診療の問題点として書かれた文章で
日本でも、推測される有病者に比べBN(過食症)の受診者は非常に少なく、加療中の者の数倍は有病者が存在する可能性がある。 受診率の低さを論ずる時、早期発見すれば未治療者が減ることは強調されがちだが、摂食障害については、「受診はしたが、役に立たなかった」という感想を持つ「治療離脱者」も多いことに注意すべきであろう。 西園マーハ文:治療総論—摂食障害の治療について考える—, 精神科治療学27(11); 1393-1398, 2012
と述べておられました。 『摂食障害の経過と予後』で、ある論文を紹介し、その中で、12年間に受診した摂食障害の患者さん173人のうち64%(111人)もの患者さんが短期間で通院をやめているということが書かれていてました。 これが西園先生がおっしゃる「受診はしたが、役に立たなかった」という感想を持つ「治療離脱者」も多いということなのですよね。   そういう日本の精神科医療の現場での問題については
日本における治療は、RCT(データの偏りを軽減して行った評価)による効果が示された心理療法等の治療者が少ないという問題以上に、より基本的な治療設定に問題があるように思われる。 診察時間が非常に短く、海外ではRCT(※)の対照群にもならない面接時間でしか治療者と面接していないなどである。 西園マーハ文:治療総論—摂食障害の治療について考える—, 精神科治療学27(11); 1393-1398, 2012
と、「エビデンスのある精神療法を施行できる治療者が少ない」「短時間診療」という2つの問題点を挙げておられます。 ※RCT:ランダム化比較試験 治験及び臨床試験等において、データの偏りを軽減するため、被験者を無作為(ランダム)に処置群(治験群)と比較対照群(他の治療群、プラセボ群など)に割り付けて実施し、評価を行う試験のこと。 たとえば、『なぜふつうに食べられないのか』に医療機関を受診した方の体験が書かれていました。
心療内科に通ったが、そこの医師は話をほとんど聞かず、過食嘔吐がひどいと言えば薬の量を増やし、副作用がひどくてつらいと話すと「その方が過食嘔吐が減っていい」と返答するだけであった。 (中略) こんな状態をなんとかしたいと、過食症の治療を専門にしているとホームページで謳う、都内の心療内科に通い始めたが、ここの医師も前回の医師と同様に、話をほとんど聞かずに薬を処方するだけの5分診療を行っており、四ヶ月通ったが、治療効果は全く現れなかった。 磯野真穂『なぜふつうに食べられないのか 拒食と過食の文化人類学』春秋社
おそらく医療機関に通っていらっしゃる過食症の多くの方が、このような経験をお持ちなのだと思います。 水島先生も2001年の国会質問の中で
摂食障害の治療が日本ではきちんと受けられないということの理由の第一は、摂食障害の治療には高度の専門性が要求されるということです。 通常の精神科臨床のトレーニングを受けた程度では、摂食障害を正しく治療することはできません。
とおっしゃっているように、摂食障害の治療には、内科医に匹敵する身体に対する知識および対処能力と同時に、エビデンスのある精神療法を行うことのできるスキルが必要です。 ですから通常の精神科臨床のトレーニングだけでは摂食障害の治療には太刀打ちできないのです。 エビデンスのある精神療法ということでは、たとえば、「拒食症」に対しては現在までにエビデンスのある治療法は確立されていませんが、「過食症」に対しては、認知行動療法と「対人関係療法」が治療効果が実証されています。 では、認知行動療法や対人関係療法をやっているところならどこでも大丈夫なのかということについても問題があるのです。 たとえば三田こころの健康クリニックで対人関係療法を受けて、過食症がよくなった梅こんぶさんがブログで過去に受けた治療で、「少しは過食もコントロールしないと!」「貴方は頑張ってない!!摂食症状は、甘えだ!」などと治療者から叱られて罪悪感を刺激され、「『誰も助けてくれない』と絶望して治療から離脱した」と書かれているように、『不適切な治療者による傷つき』の問題も「治療離脱者」の背景にあるようです。 (『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』『摂食障害の不安に向き合う 対人関係療法によるアプローチ』参照) それだけでなく、『対人関係療法の現状』で書いたように「なんちゃって対人関係療法」が増えていますから、結局、医療機関を選ぶには、実際に自分に合うかどうかで決めるしかないということみたいですよね。 院長
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