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愛着(アタッチメント)の思春期への影響2

[2012.09.24]

思春期の心理的自立のプロセスには、自信や希望の喪失など、さまざまな心理的な危機を伴います。

思春期の子どもは養育者に対して、経済的、物理的にまだまだ依存せざるをえない状態ですが、その養育者が子どもにとって安定的なアタッチメント対象でなかったり、子どもに対して自分のパートナー関係を投影している場合、子どもは身近な安全基地から現実世界へ踏み出すことが困難になります。

さて、前々回前回のエントリーの続きで今回は「(2)養育者のパートナーとの関係が不安定になっている」「(3)子どもにとって養育者が安定的なアタッチメント対象ではなくなっている」について。

不安定なアタッチメント・スタイルの養育者は、パートナーとの関係の中でも、不安・怖れ・不信のいずれかによって、葛藤的な関係、または冷えた疎遠な関係になっていることが多いと言われており、この事は思春期の子どもが性的な存在として自分を認識する局面で問題となってきます。

 

ちなみに。
養育者のパートナーとの関係について、パートナーのアスペルガー障害など自閉症スペクトラム障害による対人関係により、配偶者が精神的な苦悩に陥っている場合、ギリシャ神話のカッサンドラーの寓話をもとに「カサンドラ症候群」と呼ばれる場合があります。

多くの養育者は、なかば無意識的に思春期の子どもに対してパートナーの替わりの親密な関係を求めるか、パートナーへの否定的な感情を投影することがあります。

親密な関係を求められた子どもは錯覚した空想的な世界への停滞、養育者からの性的な刺激への反応の結果、衝動性の亢進、自己破壊的な行動に結びつくことがあり、また一方、養育者からの否定的な感情の投影は、自信喪失や、養育者との葛藤の膠着(代理戦争)など、いずれも自立へのプロセスが停滞してしまうことになります。

このような現実世界への心理的自立プロセスが滞ると、子どもはバーチャルな集団に居場所を持つようになり、養育者にとっては、ますます子どもの姿が見えにくくなり、不信感(および怖れ)に基づく「監視」という方法で、子どもの無力を助長し、依存性を強め、さらに自立プロセスが疎外されるという悪循環が生じます。

 

思春期の子どもの自立プロセスが停滞する要因が、養育者の不安定なアタッチメント・スタイルにある場合、

1)養育者の不安定なアタッチメント・スタイルを安定的なものに変化させること
2)養育者と子どもとの間に、自立に必要な安定したアタッチメント関係が構築されること
3)養育者がパートナーとの関係に子どもをまきこむことをやめること
4)養育者のパートナーとの関係が安定した親密な関係に変化すること

という4つのプロセスにより、問題の解消が可能と言われます。

2)と3)は家族療法、あるいは母子同席面接で行われますし、4)はパートナーや夫婦同席の対人関係療法(IPT-CM:conjoint marital interpersonal psychotherapy)などの心理療法的介入が可能ですが、いずれも養育者自身の気付きと取り組みが必要ですし、1)の場合はさらに養育者のモチベーションが必要になります。

 

この際も身近に安定したアタッチメント・スタイルの人がいて、不安定なアタッチメント・スタイルの養育者に関わり続ける事が出来れば変化も起こりやすくなると言われています。

水島先生の『対人関係療法で改善する 夫婦・パートナー関係』にも

基本的には、夫婦・パートナー関係さえよければ、それぞれの親のアンバランスな子どもとの関わり方はたいした問題にはならない。

と書いてありますから、いずれにしても、子どもの思春期のプロセスが停滞したときや、子どもがなかなか治らない心の病気を抱えているときには、夫婦関係を見直す良い機会だということですよね。

院長

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