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「うつ病」と間違われやすい「適応障害」と気分変調症

[2020.12.02]

「うつ病」と間違われやすい「適応障害(反応性抑うつ)」は、ストレス因(ストレス性の出来事)あるいはその結果が終結すると症状は6ヶ月以上続くことはない、とされています。

「適応障害(反応性抑うつ)」の中で6ヶ月を超えて症状が持続するものを、ICD-10では「遷延性抑うつ反応」と呼びます。DSM-5では「持続性(慢性)適応障害」とされます。

 

「うつ病」と間違われやすい「適応障害」と発達障害的特性』で説明したいわゆる発達障害、非障害性の自閉症スペクトラム(AS)や自閉症スペクトラム障害(ASD)に伴う「併存群」は、「持続性(慢性)適応障害」と重なる部分が非常に多いようです。

 

本人の社会適応に問題があって、慢性の抑うつ状態を呈するケースもある。

たとえば、シゾイドパーソナリティ障害や、知能の障害を伴わない自閉スペクトラム症と診断される人々は、もともと対人関係の困難さを抱えており、社会への参入後に抑うつ状態を呈することがある。

特に後者では、通常の自明な人間関係が理解できないことに加え、あまりにも融通が利かず要領が悪いために、職場で不適応を起こし抑うつ的になることもまれではない。

DSM-5を読み解く 双極性障害および関連障害群 抑うつ障害群 睡眠-覚醒障害群』中山書店

 

「持続性(慢性)適応障害」は、「持続性抑うつ障害(気分変調症)」との鑑別が非常に重要になります。

とくに「持続性抑うつ障害(気分変調症)」の中で、「性格因性気分変調症」や、以前にブームを巻き起こした「ディスチミア親和型」との鑑別が必要です。

 

抑うつ気質群と一部共通した臨床的特徴をもちながらも、生体リズムの変動やレム潜時の短縮など生物学的マーカーを伴わないタイプで、パーソナリティ障害との合併が問題となりやすい。

この場合、自己愛性、回避性、依存性などさまざまな類型がありうるが、抑うつに陥りやすい諸人格には共通した特徴もある。

DSM-5を読み解く 双極性障害および関連障害群 抑うつ障害群 睡眠-覚醒障害群』中山書店

 

「うつ病」では、入眠から夢をみているレム睡眠までの時間(レム潜時)が短くなることで中途覚醒が多くなり、脳が活性化してあれこれ思い悩む一方、身体を休めるノンレム睡眠(深い睡眠)が減り、早朝覚醒はしても身体が動かず、気分の日内変動などの生体リズムの変化が起きます。

このような生物学的なリズム失調をともなわないタイプが「抑うつ(神経症性抑うつ)」です。

 

パーソナリティ障害との合併が問題になる「性格因性気分変調症」は、「不満足な状態に甘んじることができず、攻撃性を隠蔽し、受動―攻撃的に振る舞い、精神力動的には、特に口愛性、保護のテーマ、しがみつきの欲求がみられる。時には半ば意識的に、欲求不満を体験しているのは周囲のせいだという暗黙のメッセージで、家族らを罪責的にさせて操作することもある」などが特徴とされています。(前掲書)

「性格因性気分変調症」では、外へ向かって発散する攻撃性、内へこもる逃避的、防衛機制を用いる防衛的の3つの適応機制が複雑に表出されることが指摘されていますよね。

 

もちろんこの病態では、薬物療法の効果はあまり期待できない。これを知らずに薬物療法のみに固執すると、いきおい多剤併用になってしまう。ただ患者自身は薬物療法に期待しているところがあって、新薬が出現するたびに、担当医に投与を求める。

それどころか、若年者においては、自ら抱えている対人面や仕事面での葛藤を棚上げして、薬物の作用を強調し、治らないのは治療が悪いからだと担当医を攻撃することもある。

DSM-5を読み解く 双極性障害および関連障害群 抑うつ障害群 睡眠-覚醒障害群』中山書店

 

どうみても「うつ病」ではなく「持続性(慢性)適応障害」と考えられるケースで、抗うつ薬が2種類それも最大量で投与されているケースをみると、「性格因性気分変調症」は医原性の要素もあるのではないかと考えたくなります。

 

「ディスチミア親和型」も「性格因性気分変調症」と同じように、「ディスチミア親和型の治療は、前進と後退をくり返す。そして、患者は繰り返し、自らの状態を生物学的な原因へと結びつけようという試みを行う」とされています。

 

精神科医が薬物療法に偏ると、患者さんもこの苦悩は薬が解決してくれるものと錯覚し、「刻々と変わる環境の要請に応じ、生体側の努力、環境への積極的な働きかけ」という適応が阻害されてしまいます。

このことが、抗うつ薬を処方された適応障害の改善が長引く理由なのだろうと個人的には考えています。

 

このような患者にとっては、「体力」という言葉の使用が効果的に思える。

彼らの不調を、「病い」という形ではなく、「体力」の過不足といった形に置き換えて説明をすることで、「病い=自分ではどうしようもない」、という認識を、「体力=自分でもなんとおかできるのかもしれない(せねばならないものかもしれない)、という形で患者自身の関与を引き出すきっかけとすることができるようである。

また、当然、「不調」を乗り越えて職場等へ復帰するまでのハードルの高さは、職場環境の苛酷化に伴い明らかに高くなっている。体力の回復は、レジリアンスの強化という視点からも欠かせないものなのである。

松尾, 「ディスチミア親和型」の治療. 精神科治療学27巻増刊号, p.149-152, 2012, 星和書店

 

「病い」を「体力」と言い換える上記の説明は、慢性疾患の治療には必要不可欠の考え方です。

「持続性(慢性)適応障害」や「持続性抑うつ障害(気分変調症)」などの慢性疾患の治療では、「急性期後には患者の回避傾向に焦点をあて、不必要な退行や甘やかし、治療環境への依存は避けるべきである」とされています。

ちょっと脱線しますが、気分変調症や過食症などの摂食障害のような慢性疾患に対して、「治療可能な病気に罹っている」と医学モデルを無分別に適用する対人関係療法が弱いのは、ここに理由があると思います。

 

次回からは「適切な環境調整や精神療法が不可欠」といわれる「適応障害(反応性抑うつ)」の治療について、こころの健康クリニック芝大門で行っている治療や、リワークで行っている復職支援の勧め方を紹介しますね。

 

院長

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