トラウマ・PTSDと摂食障害
ここでいうトラウマとは日常用語ではなく、医学的に定義された言葉として用います。
トラウマは、「実際に死ぬ、または重症を負う、または性的暴力を受ける出来事への曝露」のことです。
その出来事の後に、日常生活が障害されるトラウマ関連症状が1ヶ月以上持続すると心的外傷後ストレス症(PTSD)と診断されます。
トラウマ関連症状とは、主に、再体験・回避・過覚醒症状があげられます。
再体験・・・トラウマ的出来事が再び起こっているように感じる症状(解離反応としてのフラッシュバックを含む)
回避・・・トラウマ的出来事を思い出す様なこと(記憶、感情や場所、人)からの回避または回避しようとする努力
過覚醒・・・トラウマ的出来事の後に出現または悪化した睡眠障害、集中困難、過度の警戒心など
その他、気分が低下したり、自分や世界への信頼感が低下してしまうことがあります。
そして摂食障害にはPTSDの合併が非常に多いことが知られています。
その理由としては、PTSD(または複雑性PTSD)によって「こんなことが起こるのは自分が悪いからだ」と感じてしまう「否定的自己認知」の症状が、「やせなければ自分に価値はない」のように肥満恐怖に結びついてしまうこと。
そしてトラウマ記憶の侵入、フラッシュバックから回避するために、一時的な安心である過食・嘔吐をしてしまうことなどが関係していると考えられます。
実際に摂食障害の診療中にたくさんのPTSDを合併している患者さんと出会ってきました。
PTSDはその疾患の特徴から、他人に話すことができなかったり、痛みを伴う記憶を「なかったことにして」いることも多く、摂食障害の治療を半年以上くらい行った頃に「実は私にはトラウマがあるのではないかと思うのですが・・・」と御相談をいただくこともありました。
そのため、摂食障害の後ろにあるトラウマを常に意識しながら摂食障害の治療を行ってきました。
その結果、トラウマによる影響を十分に知ることによる基本的対応(=トラウマインフォームドケアといいます)と、必要に応じて持続エクスポージャー療法(=曝露療法)に準じた面接を行うことで、時間はかかりますがPTSDと摂食障害症状の両方の改善がみられることがわかりました。
当院はPTSDの専門的な医療機関、とまでは言えませんが、PTSDは摂食障害の他にも、自律神経失調の結果、身体症状を起こしやすいことが知られており、それは私の得意とする分野でもあります。
御相談を受けた場合にはその方のペースを尊重し、精一杯向き合い、回復のサポートをさせていただきたいと思います。