メニュー

過食症(過食嘔吐・むちゃ食い)からの回復と愛着関係

[2019.02.04]

摂食障害、なかでも過食嘔吐を主症状とする「神経性過食症」と、不適切な代償行為(嘔吐や下剤使用)を伴わない「過食性障害(むちゃ食い症)」からの「回復」については、残念ながら統一された定義がないのが現状です。

ある本には「体型へのこだわりが生活を乱さなくなる」、あるいは「病気が生活を乱さなくなる」などの状態を「回復した」状態と書いてあります。

 

しかし一方で、『摂食障害から回復するための8つの秘訣』には、「摂食障害の診断基準を満たさなくなったら「回復した」とする考え方があります。しかし、診断基準を満たしていなくても苦しんでいる人たちは現実にたくさんいますので、私たちはその状態を「回復した」とは考えていません」とあります。

 

「回復した」としたら、摂食障害行動を使って、日常の他の問題に対処したり、問題を避けたりする必要はなくなるのです。

キャロリン、グエン『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

つまり、拒食や過食など摂食障害行動を使わずに、日常生活の中で起きてくる出来事への対処や、自分の心の中でわき起こるさまざまな思考や感情との向き合い方がわかっていて、「安定してその状態(摂食障害の症状がない状態)でいられること」が「回復した」状態とされています。

 

回復が意味することは人それぞれです。

私は回復を、過食嘔吐行動をやめる努力を始め、根本にある精神的、感情的問題、スピリチュアルな問題の検討を行い、自分に対して正直になり、他者とつながっている感覚を得て、人生での目的に気づいていく過程としてとらえたいと思います。

しかしここで最初に必要なのは、動機づけと変化への準備です。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

リンジーさんが体験から述べられているように、「過食症(むちゃ食いや過食嘔吐)」からの回復のプロセスで必要なことは、「自分の心と向き合うこと(マインドフルネス)」、それらを「ありのままに認めること(自分に対して正直になること:セルフ・コンパッション)」、「他者とつながっている感覚を得ること(アタッチメントの安定)」、そして、「人生での目的に気づいていくこと(ライフ・ゴール)」などです。

三田こころの健康クリニックの「摂食障害/対人関係療法の専門外来」で行っている、対人関係療法の治療課題そのものですね。

 

リンジーさんはこのプロセスを進むために必要なことは、「動機づけと変化への準備」とおっしゃっています。

「動機づけと変化への準備」については、『摂食障害から回復するための8つの秘訣』の「行動変容を動機づける5段階(p.24〜)」や「回復への動機の段階:自分自身に大切な質問をしてみる(p.25〜)」を読んで、「回復への動機を認識し、探究し、強化してみよう(p.28〜)」に何度でもとり組んでみてくださいね。

 

摂食障害から回復しようとするときには、病そのものからくる感情にとり組むだけではなくて、挑戦につきものの一般的な感情にも耐えなければなりません

何かに挑戦する時には、失敗する怖さや、結果がどうなるかが予測できない怖さが伴うものです。こうした恐れからは不安感がたくさん掻き立てられるでしょう。

しかし、このような不安に耐えられるようになると、みなさんの人生は、より生きやすいものとなるでしょう。

私たちの人生が豊かなものになるかどうかは、自分自身の感情を受け容れ、それらの感情に耐えられる技術を学んでいけるかどうかにかかっていると思います。

キャロリン、グエン『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

摂食障害から回復しようとするときには、感情面でのさまざまな傷つきや失望に「対処(感情調節)」したり、「耐えられるようになる(感情耐性)」ことなど、「心の構造の再構築化(情緒的発達の修復)」を起こすことが必要になります。

それを推し進めてくれるのが対人関係、つまり「愛着(アタッチメント)関係」です。

 

すべての対人関係における相互作用は次のような2つのレベルで同時に起こっている、と考えることは治療上有用である。

一つは観察可能な、外界において2人の間に生じている相互作用であり、もう一つは一人ひとりの内的作業モデルの内部で生じており、自己表象と対象表象との間で交わされる内的な相互作用である。

外的と内的双方のレベルの中で起きている相互作用は、レベル同士でも影響を与え合う。
そしてある人の外的な行動が、他者との相互作用によって変容される時には、それに対応して内的な自己表象と他者表象にも適応的な変化が起きている。

強制的手段で一時的に従わせるのではなく、継続的な外的行動変容を起こさせるためには、まず内的な構造変容を生み出さなければならない、という原理のうえに、愛着志向療法は基づいているのである。

フローレス『愛着障害としてのアディクション』日本評論社

 

ちょっと難しいコトバが並びましたが、「内的作業モデル」とは養育者との関係から生み出される自己や他者に関するイメージのことです。「自己表象」は自分自身に対するイメージ、「他者表象」は他者に対するイメージと考えてください。

 

つまり、対人関係という「関係性(相互作用)」の中で、たとえば、むちゃ食いや過食嘔吐などの摂食障害行動を変えていこうとするときには、まず、心の中で起きる感情や感覚に気づき、それらを「最適不満度トラウマ体験になるほどではなく、本人が我慢しそれをバネにして成長できる程度の不満に対する耐性を高めること」が必要不可欠ということですね。

三田こころの健康クリニックの対人関係療法による治療では、「自分の思考・感情・感覚に気づいていること」「誰しも感じる苦痛を苦悩に変えないこと」と説明していますよね。

 

そして、「自分に対して正直になること(セルフ・コンパッション)」による「内的な構造変化(情緒的発達)」によって、対人関係において「互恵的(与えることと受け取ること)」で安定した「愛着行動(外的行動変容)」が起きてくると、対人関係の代理としての摂食障害行動を必要としなくなる、ということですよね。

これが冒頭に書いた「過食症(過食嘔吐・むちゃ食い)からの回復」ということなのです。

 

院長

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME