メニュー

家族関係とひとり暮らしと乱れた食行動

[2018.12.17]
ひとり暮らしの人にとっては、年末年始の帰省が楽しみだったり、あるいは家族との関係が負担に感じられたり、さまざまな思いが去来することになりますよね。 とくに乱れた食行動(摂食障害症状)を抱える人にとっては、家族との心的距離感はかなり大きな問題として現れることがあります。   「摂食障害はすべての感情——怒り、憤慨、秘密、恐怖、裏切り、無力感、その他多数——に対処するための一つの方法なのです。感情への対処を助けているので、摂食障害は感情障害なのです」ということからも、感情が最も活性化されやすい家族との関係は避けて通れないのかもしれません。   2012年に発表された摂食障害の対人関係療法(IPT-ED)では、「摂食障害が発症した結果、対人関係の不足と孤独感により親密な関係を築くことができない」という問題を「親密さの回避と対人関係の不足」として扱います。 これは、自分の心の中で摂食障害の部分と健康な部分の「役割期待の不一致(葛藤)」が起きた結果ですから、まず取り組む課題は「自分との関係を改善する」ことになるのです。
過食症はときとして「関係障害」と言われます。 健全な他者との関係を断絶させてしまうからです。 過食症の人は社会的な交流から徐々に退いてしまい、ついには食べ物で頭がいっぱいになり、それが何よりも優先されるような日課になってしまいます。 ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店
  『摂食障害と育てられ方は関係するのか』で、幼少期から思春期までは生育環境要因が関与し、思春期を過ぎると生育環境要因の関与が減り、個別環境要因(学校や交友関係など外の世界との関係)や遺伝的要因の関与が大きくなる(50〜80%)ことを紹介しました。 20年前には、その人の住む文化と機能不全な家庭が摂食障害の原因になると考えられていましたが、現在では、「文化、家族、性格、遺伝、生物学的要因、外傷体験など、さまざまな要因が多元的に組み合わさって発症する」ので、どれも単独では発症を予測することはできないと考えられています。   そうはいっても、「摂食障害になったのは親の育て方の影響だ」と公言してはばからない治療者(?)もいらっしゃいますし(愛着障害の治療に年老いた母親を同席させるのもこの一種)、成人して何十年も経っているのにいまだに親を責め続けている患者さんもいらっしゃるようです。
あらゆるタイプの家族が影響を受けているので、親を非難する傾向もまた時代遅れとなりました。 そうは言っても、過食症が家族それぞれの感情的ニーズ、身体的ニーズ、あるいはスピリチュアルなニーズが満たされていない、愛着が希薄な家庭でしばしば発生しています。このような家庭では、感情が言語的に表現されず、コミュニケーション能力が欠如している場合があります。 うつ、薬物乱用、摂食障害の家族歴があることもあり、現実の問題から逃避することは、適切で必要で、そうせざるを得ない、と子どもが無意識のうちに認識している可能性もあります。 (中略) 一般人口に比べて、摂食障害の既往のある親族がいる女性では、過食症のリスクが44倍になります(Crow, 2010)。 これが先天的なものなのか、後天的な(環境による)ものなのかははっきりしていませんし、いずれにしても、家族は全体の問題のほんの一部にすぎないのです。 ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店
  摂食障害(過食症)の発症要因の1つが生まれ育った家族環境にあったとすれば、「現実の問題から逃避することが適切で必要」と考えるようになった「乱れた食行動(摂食障害症状)」に悩む思春期から青年期の子どもが、親元を離れてひとり暮らしを始めると、「乱れた食行動(摂食障害症状)」は改善傾向に向かうはずですよね。 実際にはどうでしょうか?   高校進学や大学入学、あるいは社会人となりひとり暮らしを始めた「乱れた食行動(摂食障害症状)に悩む女性たち」は、多くの場合、ひとり暮らしで症状は増悪してしまいます。 つまり「乱れた食行動(摂食障害症状)」の発症要因の1つが、生まれ育った家族環境や親との関係だったとしても、「乱れた食行動(摂食障害症状)」の維持要因は別!ということなのです(←重要!)。  
ときとして、若者は大人になることを避けるために過食症を用い、親(特に子離れしたくない親)は自分が子どもの不安定さを強化していることに気づいていない可能性があります。 いつも親からの承認を必要としている「完璧な少女」は、自分自身を信じて一人で外の世界に立ち向かうための準備が不十分なのかもしれません。 これにより、初めて家を離れた大学生が最も過食症発症の危険にさらされる理由を説明できるでしょう。 ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店
  これらのことから、「乱れた食行動(摂食障害症状)」の発症要因が何であったとしても、「乱れた食行動(摂食障害症状)」からの回復や治療にとり組む場合、親の育て方のせいで摂食障害になったとか、家族環境が悪かったから過食するようになった、と原因探し・発症要因探しをするのではなく、今現在、何が「乱れた食行動(摂食障害症状)」を続けさせているだろうか?を考えていく必要がある、ということですよね。  
何事も隠さずにありのままに会話をすることにない親を持つと、子どもは対人関係技能が乏しくなります。 また、父親が物理的かつ感情的に不在であると、娘たちは「父親飢餓感」を経験し、これは自分の身体への認識、自尊心、食べ物にまつわる問題の原因になると言われています(Maine, 2004)。 (中略) 過食症の症状は、言葉では直接言えないことを表現する一つの方法です。 この場合は、「私も世話をされたい」、あるいは「真実を知ったとしても、私を愛してくれる?」のようなものでしょう。 ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店
  「乱れた食行動(摂食障害症状)」から回復するためには、(1) 自己内コミュニケーションを改善して自分自身の認識の仕方と向き合うことから始めます。 セルフモニタリングを通して、① 自分が何を考えて、どんな気持ちになって、身体にはどんな感覚があるのかをわかるようになり、② 誰しも感じる感情を避けようとして苦悩に変えず、当たり前の人間性という心の枠組みを広げ、③ 食べ物を使って自分をなだめるのではなく、自分自身が自分のアタッチメント対象になる自分への優しさを培っていくこと。 この3つのポイントに取り組み、どんな自分も認めることができる「自己受容」を高めていくのです。 自分自身と向き合いながら(2) 行動の仕方を改善しつつ、(3) 対人間のコミュニケーションを改善して人とのつながりを築いていきます。 対人関係療法よる摂食障害の治療では、この(1)〜(3)への取り組みがテーマになるのですよ。   院長
▲ ページのトップに戻る

Close

HOME