メニュー

関係障害としての過食

[2018.12.25]

以前には、乱れた食行動(過食や過食嘔吐)は、一般的にはストレスとなった出来事(いわゆるストレッサー)やネガティブな感情により引き起こされると考えられていました。

 

ネガティブな感情を引き起こす可能性のあるストレスや対人関係を避けたりすること、つまり、ストレスを回避するために対人関係を避け、社会活動から一時的に引きこもることで、乱れた食行動(摂食障害症状)が改善するか?というと、予想に反して過食や過食嘔吐はますます悪化してしまいますよね。

 

過食症とは、自分のことを批判せず、判断せず、比較も拒絶もしない親友であると考えている人もいますが、過食症は本当にそうした役割を果たしているのです。

しかし、繰り返し過食嘔吐をし、(そして回復した)人ならば誰もが証言するでしょうが、過食症は最も深い内面レベルでは私たちを育んでくれることはなく、支えてくれることも満足させてくれることもないのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

過食症(食べ吐きやむちゃ食い)が始まった当初は、過食症状はネガティブな気持ちをなだめ、麻痺させ、感じなくしてくれる役割を果たしていました。

 

彼女たちが食べ方を変えたそもそものきっかけは、人と人とのつながりをより快適なものに修正することだったのである。しかしそれは結果的に、孤立という彼女たちがもっとも望まない方向に彼女たちを誘導することとなった。

日常の食を反転させる形で行われる過食は、フローを引き起こし、それは彼女たちが不安と心配事がうずまく日常を乗り切るための術として定着した。しかし、そのフローは誰とも共有することができない。
過食は続ければつづけるほど孤立を生む、悲しい祝祭なのである。

磯野『なぜふつうに食べられないのか』春秋社

 

人とのつながりを快適にしたいという本当の思いとは裏腹に、乱れた食行動(過食や過食嘔吐)はしだいに現実に対する考え方を歪めてしまい、現実を避けざるをえないように仕向けてしまうのです。

 

過食症は、痩せてそれによって他人を喜ばせたい、人々の注意を惹きたいという間違った試みとしてしばしば始まりますが、それが他者主導の行動の一例です。
過食症の人は自分の気持ちに従っているのではなく、外的な環境に反応しているのです。

過食症は偽りの外見を維持することでその人を保護しているように思われる一方で、人々を身近に寄せつけません。
過食症の人は、おなじみの繰り返しの行動へといつでも逃げ込んでいけると知りつつ、他人と関わっているのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

神経性過食症(食べ吐き)や過食性障害(むちゃ食い)の対人関係療法による治療では、以前は「人にどう思われるかが不安で、表面的な関係しか持てない」という「対人関係の欠如(対人過敏性)」がこれまで問題領域として挙げられていました。

 

しかし、この「対人関係の欠如(対人過敏性)」は、乱れた食行動(摂食障害症状)に悩む女性の中にある、健康な部分と摂食障害の部分(自動思考)との「期待の不一致(不和)」の結果であると考えることができます。
これを対人関係療法では、過食症が発症した結果、対人関係の不足と孤独感により親密な関係を築くことができない「親密さの回避と対人関係の不足」として扱います。

 

過食症:食べても食べても食べたくて』の読者からの手紙にもこうあります。

人間関係が希薄なときや、人との関わりがないときには、飢えたように感じます。
食べ物は不安を減らして、その感情を覆い隠して暮れます。

誰かと親密な関係を結ぼうとすることだけが、このパターンを止めてくれます。
私にとっては、親しい人間関係を築くことが回復にとって必須なのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

つまり、現実の対人関係は「親密さの回避と対人関係の不足(対人過敏性)」なのですが、その裏側、つまり自分の心の中では、健康な部分と摂食障害の部分の「役割をめぐる不和(期待のずれ)」があるのです。

 

摂食障害から回復するための8つの秘訣』でも「摂食障害にではなく人々に助けを求めよう」という秘訣があるように、対人関係の土台となるものは、信頼関係、つまりアタッチメント関係です。
(『回避型アタッチメントと摂食障害』参照)

 

他人と親密になった経験がほとんどない人にとって、過食症行動を手放すのは非常に恐ろしいことです。
しかし、いったん手放してみると、人間関係での誠実さ、信頼、楽しさ、親密さ、愛情を体験できることは明らかです。

助けを求めるということに関しては、本書でも述べているように、自分をすべてさらけだし、たった一人とでも信頼し合える関係が築ければ、回復の過程で決定的に重要な要素になり得るのです。

多くの人たちがこの信頼関係を、何らかの治療やカウンセリングの中で見出します。親、恋人、配偶者、友人との間で築ける人もいます。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

対人関係療法による神経性過食症や過食性障害の治療では、(1) 健康な部分と摂食障害の部分との再交渉(自己内対話)を行うことで自分自身との関係を改善し(自分への信頼感)、(2) 感情や身体感覚が伝えているニーズに健康な部分で応え(情動調整・感情コントロール:行動の仕方を改善する)、それから、(3) 現実の対人関係の中で自己主張や感情表現をすることによって新しい関係を築いていくスキルを高める(他人との関係を改善する)、という3つの課題に取り組んでいくんですよ。

 

院長

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME