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過食症と家庭環境と対人関係

[2019.01.21]

素敵な物語』の推薦の言葉に、西園先生が「摂食障害のとても残念な側面は、精神的にいろいろ「狭くする」病気だということです。…(中略)…本書を読みながら、ご自分に月明かりのような柔らかく優しい光を当ててみてはいかがでしょうか」と書かれていますよね。

 

乱れた食行動(摂食障害症状)からの回復に必要なことは、(1) 自分の考え、気持ち、身体感覚に気づいていること(マインドフルネス)(2) 誰しも感じる感情を苦悩に変えないこと(当たり前の人間性)、そして、(3) 自分への優しさ(セルフ・コンパッション)であり、この3つは、「自己受容=深い自己肯定感」の本質でもあるのです。

 

やがて過食症の人にとっては、過食嘔吐することがあらゆる・・・・感情を処理するためのお気に入りの方法となります。そして無気力となり、他の選択肢がなくなってしまいます。
さらに悪いことに、この病気は原点にある問題を覆い隠し、増幅させてしまう、新たな複数の合併症を引き起こすのです。

例えば、他人を恐れている人は、恥ずかしい思いや過食嘔吐を隠すことによって、摂食障害を使って人との間に距離を置くかもしれません。

また、自分には価値がないと感じている人は、他のことにはほとんど興味を示さず、完璧に嘔吐ができるようになることを目指すかもしれません。

このようにして、過食嘔吐を引き起こした原因は事実上ウヤムヤにされ、ゆくゆくは過食嘔吐から生じる生々しい新たな恥辱と罪悪感の下に埋め込まれてしまうのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

過食嘔吐症状を使って感情を感じなくする「感情体験の回避」によって、他者の心の中で何が起きているのかもわからず、そのせいで人との間に距離を置く「対人関係の回避」が起こり、さらに、自分には価値がないと考えてしまってネガティブ自己評価がうみだされ、恥辱と罪悪感に埋め尽くされてしまう、など、「個人的要因(自分自身との関係)」が神経性過食症の維持因子であることを解説したことがありますよね。(『自己志向と協調性を高め摂食障害から回復する』参照)

 

過食症の患者さんの中には、自分が何を・・感じているのかさえわからなかったり、自分の感情は悪いものだと考えて、そのような感情を持っているから自分も悪いのだと思い込んだりする人もいます。

また、他人の感情を恐れて、決して誰も動揺させないようにと一生懸命になることもあります。

身体に「感じられた」感覚の体験から自分自身を切り離してしまって、空腹感や満腹感のような身体的経験にはもはやなじめなくなってしまうかもしれません。

人生における自分自身の喜びや目的とつながっていないせいで、自分の魂に栄養を与えてくれるものが何であるのかさえわからなくなってしまうかもしれません。

身体的であれ、感情的であれ、スピリチュアルなものであれ、自己・・の感覚から切り離されてしまっているので、碇を持たずに漂流しているかのように感じられるのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

過食症症状の維持因子である「個人的要因(自分自身との関係)」の根底にあるのは、「内省困難」と「感情言語化困難(アレキシサイミア)」です。

自分の心の中でどんな考え・気持ち・身体感覚を感じているのかがわからないために、それを表現する方法も持たず、また、自分が相手の立場ならどう感じるだろう?と他者の視点を取得することも難しいので、対人関係に距離を置き、一見、「対人関係の欠如(対人過敏性)」のように見えてしまいます。

 

このような「乱れた食行動(過食症症状)」に悩む女性たちの治療では、「自己主張や感情表現を奨励することによって他人と親しくなる患者の能力を増し、孤立感を減じ、新しい関係を作っていけるようにする」以前に、「内省困難」と「感情言語化困難(アレキシサイミア)」に取り組む必要があるのです。

 

過食症に苦しむ人たちの大半は、自分の感情を特定して、それについて語ることにさえ苦労することが多く、あえて自分自身を振り返ってみることが必要だと思っています。

多くの場合、これはあらゆる感情、特に「否定的な」感情(怒り、失望、あるいは家族間の葛藤)を表現する方法がわかっていなかったり、感情表出を認めていなかったりした家庭で育ったせいなのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

クロニンジャーの「気質・性格理論(パーソナリティ理論)」では、「性格」は環境や対人関係の中で学習獲得されると考えます。

アタッチメント(愛着関係)」も、生得的あるいは幼少期の親子関係によって決定されているのではなく、後天的な対人学習の中で獲得安定型に変化することが知られているのと似ていますよね。

 

上記の引用部分の「感情を表現することがわかっていない」「感情表出を認めていない家庭環境での生育」そのものが問題になるのではないのです。(←重要!)
そのような環境の中での「乱れた食行動(過食症症状)」の発症により、その後の対人学習や修正体験ができなかったことが問題であり、そのことが「乱れた食行動(過食症症状)」の維持因子となっていると考えるのです。

 

人との間に距離を置く「対人関係の回避」には、「乱れた食行動(過食症症状)」だけでなく、自分の心の中で何が起きているのかわからないこと、他者の心の中で何が起きているのかもわからないこと、自分には価値がないというネガティブな自己評価(思い込み)も影響を与えています。

 

ですから、「乱れた食行動(摂食障害症状)」から回復するために、(1) 自分の考え、気持ち、身体感覚に気づいていること(マインドフルネス)(2) 誰しも感じる感情を苦悩に変えないこと(当たり前の人間性)、そして、(3) 自分への優しさ(セルフ・コンパッション)、に取り組んでいく必要があるのですよね。

 

院長

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