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適応障害と気分変調性障害

[2013.08.05]

他の医療機関で気分変調性障害(慢性うつ病)と診断されたり、自分でも気分変調性障害ではないかと疑い三田こころの健康クリニックに対人関係療法による治療を申し込まれた人のほとんどが、「適応障害」の診断でした。

では、適応障害の方がどうして気分変調性障害ではないか?と感じられるかというと、うつ病の診断プロセスの問題が絡んできます。

 

そもそも、うつ病レベルでも、適応障害レベルでもうつ状態の鑑別診断だけではなく、背景にある性格や発達に対する評価と、いきなり薬物療法を開始せず、生活習慣の指導から始めるべきといわれています。

つまり、

1) 病像の診立て(精神病理)
2) 鑑別診断(大うつ病、適応障害、発達障害、統合失調症など)
3) 内因性の関与の吟味
4) 環境要因、性格(人生観を含む)の把握

が精神科医の役割として必要であることを、第10回日本うつ病学会総会のシンポジウムで述べられています。

身体因→内因→心因の順で病像の診立てをおこないますが(同時に鑑別診断にもなる)、一番の問題は「うつ病」「(抑)うつ状態」「うつ」という用語の混乱が、病像の診立てを曖昧にしているのではないか、という印象を受けました。

 

大うつ病、あるいは気分変調性障害(慢性うつ病)であれば、国際的コンセンサスアルゴリズムでは

・うつ病の重症度、併存疾患、自殺傾向についてのアセスメント
・患者および家族と治療同盟を確立する
・患者および家族を対象にうつ病の心理教育
・抗うつ薬の選択には、発生しうる有害作用について検討するとともに服薬重要性を強調する
・軽度のうつ病患者には、心理療法を単独療法ととらえ、中等度または重度のうつ病患者については心理療法を補助療法ととらえる

となっていますが、多くの医療機関では主症状だけで安易に「うつ病」「うつ状態」と診断し、薬物療法が行われることで遷延化を招き、軽症ながら難治な病態とみなされることで過剰な多剤併用となっていくことが問題視されています。

「適応障害」は抗うつ薬の効果が乏しく、上記のように薬物療法を選択されると容易に遷延化・難治化し、そのことが慢性のうつ状態≒気分変調性障害かも?と誤解されることにつながっているようですよね。

 

診断学的なグレーゾーンはあるとしても、抑うつ症状が2,3個当てはまり、それらの症状が、その人自身の言明か、他者の観察によってほとんど毎日、2週間以上継続していることを無視した精神科医の思い込み診断が、うつ病やうつ状態の乱発診断と薬物偏重主義に繋がっているようです。

逆に、中高年で病前の適応が良好なメランコリー親和型性格(几帳面、熱心、良心的、他者配慮的)の人が呈する軽症の内因性うつ病の初期段階では、大うつ病性障害の診断基準を満たさなくてもうつ病と診断されるべきですが、診断基準を満たしていないから病気ではないと治療を受けられないこともあるそうです。

 

また、うつ病あるいはうつ状態では「励ましてはいけない」ことが金科玉条のように言われ、うつ病・うつ状態なら、まず「休養」ということで安易な休職を勧められる場合も少なくないようです。

病状次第(これも診立てのプロセス)では、多少の辛さはあっても、仕事や家事を続けながら生活リズムを整えるように背中を押すことも必要(『激励禁忌神話の終焉』参照)で、それが、その人の自己愛を過剰に肥大させない範囲で他者から評価されたり認められたりするコンプリメント体験になり、レジリアンス(快復力・回復力)を引き出す機会に繋がるよう心理社会的アプローチができる精神科医や医療機関を選ぶようにしてくださいね。

院長

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