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習癖(クセ)になった乱れた食行動がいろいろ狭くする

[2018.04.16]

不安を感じたときに、人によって食べる量が減ったり、あるいは逆に食べる量が増えたり、摂食量が変化することが知られているんですよ。

 

不安が強くなり、食べ物が喉を通らなくなってどんどん痩せていく状態は、厳密には「拒食症(神経性やせ症)」ではなく、「回避・制限性食物摂取障害」の下位分類「食物回避性情緒障害」と呼ばれます。

 

逆に、摂食制限をしている人では、慢性的に食べることをガマンしてしまっているため、不安を感じると食べる量が増えてしまうのです。

それだけでなく、不安という感情を感じないようにすることで、さらに心理的な負荷がかかり、爆発的に食べてしまうことになります。これが「エモーショナル・イーティング」と呼ばれる状態です。

 

不安のような明確な感情でなく、本人に知覚(認知)されないような感情刺激であっても、食べる量に影響してしまいます。

ですから、対人関係療法による「過食症」や「過食性障害(むちゃ食い症)」の治療では、まず、過去24時間の出来事からそのときの感情を振り返ってもらうのですよね。

 

二日酔いや、覚せい剤が体から抜けた後の倦怠感が長引くようになり、パチンコや性風俗、買い物、過食用の食べ物の購入で失う金額が、インターネットのゲームやセックス、自傷行為に没頭する時間が増えていく。

やがて無断欠席や欠勤、成績や仕事・家事能力の低下、借金の発覚などといった形で、普段の生活や学業、仕事、家事に影響が出始める。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

ネガティヴな感情を感じないようにしようとする感情体験の回避の行動パターンが繰り返されると、そのパターンが次第に自分にとって慣れ親しんだものになってきます。

 

こうして異変が周囲に気づかれてしまう時が、アディクトがアディクションに裏切られる臨界点である。

それまで何とかアディクションの力を借りることで、周囲に気づかれずに本音の感情を覆い隠すことができ、我慢と努力を続け、周囲の期待に応え続けてこられたのが、同じアディクションによって周囲の期待を裏切り、周囲から非難を浴びることになってしまう。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

感情体験の回避という行動パターンが習癖から嗜癖へと移行して、乱れた食行動に悩む女性たちは「過食(むちゃ食い)」や「過食嘔吐(食べ吐き)」がクセになったと感じるようになります。

そうなると、乱れた食行動に悩む女性たちは、感情体験の回避行動と自分を同一視するようになります。

「私は過食症だ」「自分はダメだ」など。

 

だらしがない、我慢が足りない、責任感がない、などと周囲から叱責されると、アディクトはその場ではうそをついてアディクションの存在を隠そうとする。

そして叱責されたことで心の中に湧き出てくる自責感、劣等感、屈辱感、不安、不満、怒りなどの本音の感情に、再びアディクションの力を借りて蓋をしようとする。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

「私は摂食(食行動)の問題を持った人間だ」と、自分の行動パターンを自分自身と同一化してしまうと、それが自分のアイデンティティになったかのような、一種の感覚的心地よさがあります。

 

アディクトははじめ頼りたかった「人」に裏切られ、今や頼りにしていた「物」にも裏切られている。

それでも、ほんとうに苦しい時に「物」はかつて自分を助けてくれた、という記憶は残っている。「人」に助けてもらった記憶は、ない。

だからこそアディクトは「物」に頼り続ける。「今度こそ、うまくいくはず」とみずからを奮い立たせながら、失敗を繰り返すのがアディクトのジレンマなのだ。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

しかし、「食べる物」や「食べる行動」に頼り続けようとするこの感覚は、「私」と「私以外」を分離・断絶し、ますます「孤立・孤独」を深めてしまうのです。

 

たとえば、「摂食障害に罹っているのだから仕方がないでしょ!」というふうに。
このように考えてしまうと、一歩間違えば、摂食障害のほうがあなた自身よりも強いと思い込んでしまうかもしれません。
しかし、実際には摂食障害はあなたの一部なのですから、あなたよりも強くなるはずはないのです。
摂食障害の持つ力とは、すべてあなたから注がれているのです。

(中略)

ですから、「摂食障害がそうさせた」ではなく、「私の中の摂食障害の部分がそうした」と表現してください。
摂食障害の部分にも自分で責任を持つということは、摂食障害があなたにしてくれていることに興味を持ち、耳を傾け、それを見つけ出すということでもあるのです。

コスティン&グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来では、「摂食障害があなたにしてくれていることに興味を持ち、耳を傾け、それを見つけ出す」ことを、「摂食障害の力をもらい受ける」と表現していますよね。

 

簡単に言うと、ネガティヴな感情をなだめるという摂食障害行動の持つ力をもらい受けるために、出来事を振り返り、そのときの「気持ちを感じることで気持ちに圧倒されなくなる体験」をしつつ(マインドフルネス)、そのような「体験の仕方をした自分自身(当たり前の人間性)に対して優しく接する(セルフ・コンパッション)」、ということですよね。

 

院長

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