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発達障害やトラウマにともなう気分変動の治療

[2022.03.22]

うつ病・双極性障害など気分障害と発達障害特性』や『双極性障害と発達障害特性(ASD/ADHD)』で解説したように、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如/多動症)など発達障害(神経発達症)では、高率に気分障害を合併しやすい(50%以上ともいわれます)ことが知られています。

 

そもそも「自閉スペクトラム症(ASD)の鑑別診断として、(1) 注意欠如・多動症 (2) 統合失調症 (3) うつ病 (4) 不安症 (5) 強迫症 (6) 解離症 (7) パーソナリティ障害などがある。いずれの疾患も鑑別するうえで重要な疾患であるが、これらの疾患は自閉スペクトラム症に併存しやすい疾患でもある。鑑別と併存の両方を念頭に置きながら、その患者を理解するうえで最もふさわしい診断を行うべきである」とされています。(『日常診療における成人発達障害の支援:10分間で何ができるか』)

 

診断プロセスに対する注意喚起がされてはいますが、「カテゴリー診断の弊害とも言うべき、気分障害や双極性障害の診断をめぐる混乱で、特に発達障害とトラウマの既往の見落とし」が指摘されています。(『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』)

 

実際には、うつ状態やうつ病(あるいは適応障害)と安易に診断され、「薬物療法に効果と副作用があると同様、うつ病患者にとって、休職もメリットとデメリットの双方をもたらし得ることを、意識しておく必要(日本うつ病学会治療ガイドライン)」があるにも関わらず、効果のない抗うつ薬による治療が延々と行われているのが悲しい実情です。

 

日本うつ病学会の「日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.大うつ病性障害」には、以下のように記載されています。

 

「症状に基づく操作的診断基準は、原因別である伝統的診断体系に比較して、原因を考慮した治療につながらない」といった批判がある。確かに、症状による診断に依拠する結果、診断の妥当性が低下し、1 つの診断区分に多様な病態が混在して、治療方針が立ちにくい。

(中略)

精神疾患の診断基準は定型発達を基本としたものであり、神経発達症者でそのまま適用すると判断が困難な場合も少なくない。したがって、神経発達症者を対象として併存疾患を診断・評価する際はいくつかの点に注意する必要がある。

すなわち、①神経発達症と併存疾患の症状の重なりや類似性、②神経発達症の特性による症状のマスク、③言語的コミュニケーションによる表出の問題、④言語的コミュニケーションによる理解の問題、⑤自己の状態に関するセルフモニタリングの問題、などが注意点として重要である。

 

しかしながら、「うつ病や双極性障害をめぐる診断の混乱に対して、発達障害というキーワードだけでは解明が不十分で、さらにトラウマの影響を考慮することが必要である。(中略)発達障害の成人例で難治性の気分変動を有する場合、愛着の深刻な障害や、子ども虐待などの既往が認められることも普遍的である」というさらなる指摘もなされています。(『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』)

 

うつ状態や躁状態などの気分変動を認める場合には、その背景にある「発達障害(神経発達症)」の特性だけでなく、トラウマによる影響も考える必要があるということです。

 

自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如多動症(ADHD)併存が認められ、それに加えて、不安定な家庭状況の中に育ち、被虐待歴があり、愛着障害の要素も同時に認められる、いわゆる発達性トラウマ障害(van der Kolk, 2005)あるいはトラウマ系発達障害(杉山ら、2021)と呼ばれる」状態に対しては、どのような治療を行えばよいのでしょうか。(『テキストブックTSプロトコール』)

 

抗うつ薬、抗不安薬はなるべく用いないほうがよい。抗うつ薬は気分変動を増悪させ、抗不安薬は意識水準を下げ抑制を外すので行動化傾向を促進してしまうからである。

(中略)

抗うつ薬の服用による医原性の増悪にはもっと注意を払う必要がある。気分変動が強くなれば、子どもへの加虐が増悪し、さらに自身の自殺企図が増す。

(中略)

バルプロ酸ナトリウム(デパケン)の相当量を服用している成人をしばしば見かけるがぼんやりするだけで無効である。

(中略)

一方、抗不安薬は子どもも大人もほぼ禁忌と言ってよい。

(中略)

さらに大量の抗精神病薬の処方も好ましくない。こちらもぼんやりするだけで無効だからである。薬が入っているうちはぼんやりしているが、減らせば元に戻るだけで何ら治療にならない。

杉山『テキストブックTSプロトコール』日本評論社

 

トラウマ関連疾患に伴う不安と社会リズム療法』で、抗不安薬とカフェインの「共依存的な」摂取について解説したことがあります。

 

トラウマ関連障害に対しては、「治療に用いられる通常量の処方を行った場合、たとえば抗うつ薬の処方によって気分変動が悪化する、抗不安薬の処方によって意識水準が下がり行動化傾向が促進されるなど、副作用の方が目立つ状況となる」ことが指摘されています。(『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』)

 

「発達障害基盤の精神科併存症に対して、一般の成人量の処方を行うと、副作用のみ著しく出現し薬理効果は認められない、ということが少なくない」(前掲書)ため、杉山先生は、少量処方と漢方薬による治療を推奨されています。

 

炭酸リチウムが地下水に含まれている地域において、自殺率が周囲より明らかに低いという報告が世界のいくつもの地域から示されている。一方、極少量のアリピプラゾールは炭酸リチウムの極少量と組み合わせた時に、子どもも成人も気分変動を抑制し、極少量のリスペリドンは、同じく攻撃的な噴出を抑える。

杉山『テキストブックTSプロトコール』日本評論社

 

日本うつ病学会の「日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅰ.双極性障害」でも、炭酸リチウムに寄る治療について以下のように記載されています。

 

治療濃度は、およそ 0.4~1.0mEq/L(mM)を目安とする。

低用量(0.4~0.6mEq/L)に比べ、高用量(0.8 ~1.0mEq/L)の方が有効性は高いが、副作用も強い。低用量で予防できるなら低用量でよく、低用量では有効性が不十分な場合、高用量も検討する。

 

生体が強い反応を生じないレベルで薬物を使うことこそ、本来の正しい用い方という可能性が生じてくる。最低限の刺激を行い、それによって生体に起きる一連のカスケードに後は任せるといった用い方である(『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』)といった、生体の治癒力や回復力を邪魔しない薬物療法のすすめ方は、『発達障害とトラウマ関連障害に対する薬物療法』でのべた「薬はあくまでもギプスや松葉杖のようなもの、精神療法はリハビリ」という考え方と通じるものがありますよね。

発達障害とトラウマ関連障害に対する薬物療法

 

※フジテレビのNONFIXという番組で、「解離性同一性障害(多重人格)」が取り上げられます。

多重人格 ひとつの身体で生きていく

2022年3月24日(木) 02:25〜03:25 放送
(2022年3月24日(水) 26:25〜27:25放送)

興味がおありの方は、是非!

 

院長

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