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男性の「摂食障害」

[2013.11.25]

摂食障害といえば女性特有の疾患とみられがちですが、1969年にモートンが報告した男性例が最初のケースといわれています。

欧米では女性5〜10人に対し、男性1人の割合で存在するといわれています。
日本での有病率は明らかにされていませんが、欧米に比べると明らかに低い印象があります。
(ある報告では男性と女性の比率は1:19)

 

女性と比べた場合の男性の摂食障害の特徴

・低体重が少ない
・「やせ願望」は不明確(非定型例が多い)
・「皮下脂肪を少なくして筋肉質になりたい」という願望
・男らしさ・肉体的強さへの嫌悪感(モノセクシャル志向)
・見かけ上も大人しくて女性的(海外では約30%ホモ or バイセクシャルとの報告)

などが挙げられています。

ある報告では、男性の摂食障害のタイプは、痩せたい、太りたくないだけでなく、贅肉のない筋肉質の身体を理想とし固執する「ボディーイメージ理想化タイプ」、社会制度や評価に対して不適応や拒否反応を示す「不適応タイプ」、「回避/制限性食物摂取障害」のように体重や体型へのこだわりは不明瞭で、食べ物そのものや食べる行為への不安や嘔吐恐怖などを伴う「食事不安タイプ」、女装癖や性倒錯、同性愛など、自らの「ジェンダー・アイデンティティ不安定タイプ」に分けられています。

 

また男性の摂食障害が少ない理由について

・医療機関への受診率が低い(受診は重症例が多い)
・治療的信頼関係が構築しにくい
・治療が継続しにくい
・臨床的にも男性の回復例はまれ

などが挙げられています。

 

男児の摂食障害では、自閉症やアスペルガー症候群あるいは広汎性発達障害など、自閉症スペクトラム障害(あるいはその傾向)の併存があることが古くから知られていました。
自験例では、摂食障害類似の食行動異常を示した男性例は4例のみでした。

1例はアルコールや薬物の依存・乱用があり、むちゃ食い(衝動過食)と自己誘発嘔吐(衝動嘔吐)が止められないというADHDに伴う「衝動制御の障害」で「多衝動型過食症」でした。
上記の分類では「不適応タイプ」に相当します。

3例はアスペルガー症候群で、1例は「ボディーイメージ理想化タイプ」、他の2例は感覚過敏に基づく「回避/制限性食物摂取障害」で、「食事不安タイプ」でした。
いずれも食べ物や食行動以外にもさまざまなこだわりがみられたため、摂食障害と診断するよりも「強迫スペクトラム障害」と診断されるケースでした。

男性例で明確に「やせ願望」や「肥満恐怖」をともなう摂食障害と診断できた経験はありませんでした。
男性の摂食障害は非定型例が多いということですから『摂食障害の準備・誘発・維持因子1』や『摂食障害の準備・誘発・維持因子2』で触れたような摂食障害としての文脈が不明瞭で、通常の精神療法(言葉を用いた治療)では効果がみられませんでした。
自験例のような食行動異常が摂食障害と診断されている可能性がありますよね。

 

男女の役割分担の格差がなくなり、男性も女性も同一性の危機が大きくなっていることから、今後、摂食障害の男性例が増えると予想されることが多いのですが、実際、男性例が増える以前に、摂食障害の非典型例が増えるようです。

健常人にもみられるいわゆるストレス過食や淋しさ過食(失恋過食)、あるいは「非定型うつ病」でみられる過食(炭水化物や甘い物)は、過食(むちゃ食い)ではなくドカ食いですから摂食障害とは分類しません。

なかでもメタボリック症候群予備軍といわれる「夜間摂食症候群」が問題になりますが、これは生活習慣の問題ですから摂食障害として扱うには問題がありますよね。

院長

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