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新型コロナウイルス感染症と摂食障害

[2020.05.13]

京都いわくら病院の崔先生(『メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服』の著者)は、COVID-19感染患者を受け入れ診療を行っている医療従事者は、プレPTSD的な持続的過覚醒状態が起きていることを指摘され、セルフメンテナンスとメンタルサポートについての解説を書かれています。

 

結果はまだ出ていませんが、先日、日本摂食障害協会で「緊急事態宣言に伴う自粛生活が、摂食障害の患者さんにどのような影響を及ぼしているのか」のアンケートが行われましたよね。

 

ヨーロッパ摂食障害レビュー(European Eating Disorder Review)という雑誌に、「COVID-19と摂食障害への影響」という論文が掲載されていました。

論文では、自粛生活による心理的ストレス、先が見えないことによる心的苦痛、通常の治療の減少などが、摂食障害患者の身体的リスクの増加とともに、摂食障害発症の促進因子になりうる可能性が示唆され、摂食障害症状の重症化と家族の負担が増えることが危惧されていました。

 

このようなときだからこそ、セルフケアが非常に重要になります。

セルフケアの最も大切な部分は、一日のスケジュール管理、つまり生活リズムを安定させることで心の安定を図ることです。

一日のスケジュールには、睡眠時間、身体に栄養を摂取する食事時間、勉強や仕事の時間、身体を動かしたり屋外で過ごす時間など、セルフケアの重要な要素を盛り込む必要があります。

規則的なスケジュールによって、いつ終わるかわからない緊急事態宣言と自粛生活のような不確実な日常を、予定調和の日常として感じられるように過ごすことが重要です。

 

ネットには新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にまつわるさまざまな記事やニュースが溢れかえっています。

そのようなメディアの情報は、摂食障害の人にとってはあまり有益ではありません。

昔から「暇になるとろくなことをしない(小人閑居為不善)」という諺があるように、自粛生活のような外の刺激が減少した状態では、思考が暴走しやすくなっているのです。

さらに、ソーシャルメディアを見ていると、「人と較べる」スイッチが入り、次第に自分だけ何もしていないような気になってきます。

 

ある患者さんが過食のスイッチが入ったときに、ネットでネガティブな気持ちを引き立てるニュースや記事を見て、それから過食嘔吐をすると話されていました。

皆さんも経験があると思いますが、過食嘔吐の後は、これ以上ないほどどん底の気持ちになるそうです。

さらに、このどん底の気持ちが過食嘔吐のスイッチになり、終わったときには罪悪感と自責感で、このまま死んでしまうのかも?と感じるくらい惨めでボロボロになってしまうそうです。

 

一日に数時間、とくにこれから寝る準備を始める21時以降は、パソコンもスマホもオフにしておくことをおすすめします。

以前も紹介したことのある国立精神・神経医療研究センターの松本先生の「食事、睡眠、仕事や勉強、人付き合い 生き延びるために日常生活をどう乗り切るか」は、新型コロナウイルス感染症が蔓延している今の時期だからこそ必要なアドバイスになっていると思います。

 

ネットをオフにしたら本を読んでみましょう。

ただ黙読するのではなく、こころの健康クリニック芝大門での対人関係療法による治療の導入時の課題のように、本を読んで気になったところ、当てはまるところ、よくわからないところをノートに書き出して、自分なりのコメントも書いておきましょう。

あるいは、パソコンを使って、抜き書きとコメントを記録しておくのでもよいでしょう。

 

読んでみる本は、『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』『摂食障害から回復するための8つの秘訣』『過食症:食べても食べても食べたくて』どれでもいいと思います。

ちなみに私自身は、冒頭の崔先生がFacebookで紹介されていた『メンタル・クエスト』を読みはじめました。

 

8つの秘訣』の著者であるキャロライン・コスティンさんが創設されたモンテ・ニードのサイトには、「自己隔離はセルフケアを止めることはできない:COVID危機の間に魂の世話をしましょう」という記事が掲載されていました。

 

記事には、COVID-19(新型コロナウイルス)に曝露するリスクを減らすという考えよりも、摂食障害の人にとっては、パンデミック中に治療を求める方がはるかに安全であること、セルフケアに投資する良い機会であることが強調されていました。

 

「ソーシャル・ディスタンス(social distance)」という言葉を耳にする機会が多くなりました。

「ソーシャル・ディスタンス」は元々、社会学で特定の個人やグループを排除するという意味ですが、感染防止のために社会的に他者と疎遠になる必要はないのです。

正確には「ソーシャル・ディスタンシング(social distancing):社会的(物理的)な距離の保持」であって、物理的に人と接触する頻度の制限が勧められている場合だからこそ、特に摂食障害の患者さんにとっては、人とのつながりを維持することが非常に重要なのです。

 

先に紹介した「COVID-19と摂食障害への影響」という論文にも、「この不確実性と不安定性の期間が、摂食障害思考と摂食障害⾏動への依存度を⾼めることにつながるという認識」がすべての⼈にあり、「摂食障害患者のように、⾃分の病気に対する洞察⼒が乏しく、社会と感情的なコミュニケーションが難しいと感じる患者は、助けを求めるのを遅らせるかもしれない」ことから、可能な場合にはオンライン治療という選択肢を考慮する必要性が述べられていました。

 

しかし正直なところ、私自身は、オンライン診療にはあまり乗り気ではないのです。

診察室での面接とオンラインを比べると、オンラインでは患者さんがプライベートな空間にいらっしゃるので、リラックスして診察室では口に出しにくいことも言いやすいようです。

対面とオンラインでは得られる情報の質に違いがあることをわかりつつ、それでもオンライン診療に消極的なのは、治療者が伝えようとする心の状態が伝わりにくい(と感じることが多い)大きなハードルがあるからなのです。

 

そうは言ってもオンラインであれば、遠くから通院されている方の距離的な問題は解決できるので、こころの健康クリニックでも治療関係が確立している患者さんには、オンラインでの診療を行ったりしています。

精神疾患はオンライン診療料が適応になりませんから、自費診療になってしまいます。でも、関西や九州から飛行機や新幹線で通院される患者さんにとっては、自費診療であっても交通費を考えるとはるかに安くなりますよね。

 

過食症やむちゃ食い症の治療も、セルフヘルプやセルフケアができるようになると、その後はオンライン診療でフォローアップを継続していく形に移行していくかもしれませんね。

 

院長

お知らせにも案内していますように、こころの健康クリニック芝大門では、新型コロナウイルス感染症対策を行っています。患者さん方も安心して受診していただいています。

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