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摂食障害(過食症)の病期の判断と治療

[2014.01.06]

寒くなったこの時期は基礎代謝が上がり、身体がエネルギーを貯蓄しようとして活動量も減少するため、ダイエットが頓挫し、過食が起きやすくなります。

11月前後とお正月前後に過食が起きやすく、食べることを止められないことでパニックになる人もいます。この体験がコントロールを失うことに対する不安につながり、さらなる不安の連鎖が起きることになります。

このような不安に対して麻痺させる作用があるのが、「過食(むちゃ食い)」ということになりますし、場合によってはアルコールという手段も加わることになります。

 

なぜか多くの医療機関では経過を聞かずに過食症と診断して、安易に抗うつ薬を処方する傾向があるようですよね。

アメリカ精神医学会は小児および青少年のファーストライン治療として、精神異常の診断がある場合を除き日常的に抗精神病薬を処方しない、と「必ずしも必要のない投薬」と位置づけています。

また過食症に対して安易に抗うつ薬を処方されると、副作用としての体重増加や怠さ、「言語化できる記憶(VAMs)」の想起困難などの抗うつ薬の薬理作用により、まずます「やせ願望」が助長されたり、あるいは感情不耐や衝動性が高まり、過食症の維持因子につながってしまう可能性がありますし、対人関係療法を開始しても副作用のため通院できなかったりして、悪影響の方が多いことがわかっていますので、服用されている方は注意が必要ですよね。

 

なぜかというと、この時期に起きやすい過食は

・ストレスによる一過性過食(気晴らし食い・ドカ食い)
・ダイエットや断食、あるいは拒食症からの回復期の過食
・過食症あるいはむちゃ食い障害の発症初期

などの「病期(ステージ)」を慎重に鑑別する必要があるからなのです。

 

寒い時期に始まったむちゃ食いが一過性の過食なのか、過食症やむちゃ食い障害などの摂食障害の発症なのかの鑑別は、食物暴露前の「渇望感の度合い」により鑑別します。

過食衝動と渇望感についての詳細は、いずれ『衝動性と強迫性〜摂食障害との関係』や『アレキシサイミアと情動対処行動』でふれる予定です。

またダイエット回復期の過食なのか過食症なのかの鑑別は、『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』にもあるように、病前性格のうち「冒険好き(新奇追求性)」によりますよね。

対人関係療法ではパーソナリティには焦点を当てませんが、把握する必要があることは水島広子先生もおっしゃっており、三田こころの健康クリニックでの診断プロセスのように、生育歴や発達歴、気質や愛着パターンを考慮しての診断を行わなければ、鑑別出来ないということですよね。

 

さて、上記のリンクでもちょっと触れた「アレキシサイミア」は

・感情の同定困難
・感情の伝達困難
・外的志向(機械的思考)

によって特徴づけられ、過食症の特徴でもある「不安」と「外的志向(機械的思考)」は、感情の認識や情緒的経験に焦点を当てるのが困難なため、なかなか医療機関の受診につながらないことが報告されています。

 

治療は、過去の辛い体験や現在の病気によって、これから先の人生が損なわれないようにするために行うものです。そして治療は、確実な診断とフォーミュレーションの延長上にあるものです。
(診断は医師のみが可能な医療行為です)

安易な診断やいいかげんな診断は不適切な治療につながり、遷延化の一因となることは「なんでもかんでもうつ病」で知られていますが、とくに摂食障害に関しては「克服する」という言葉に惑わされず、確実な診断とエビデンスのある治療を行う医療機関を受診してくださいね。
(『摂食障害とパーソナリティタイプ別の取り組み方』で触れる予定です。)

 

拒食症・過食症を対人関係療法で治す』から、水島広子先生のメッセージとして引用しますね。

変化にはストレスがつきものです。どんなに不健康なバランスであっても、そのバランスを一時的に変化させていくことには覚悟が要ります。それで「どうせ私は治らない」と、その場にとどまろうとしてしまうのです。摂食障害の人は皆さん「心配性」なのですから、変化を怖れるのも無理はありません。
でも、身体は正直にできています。病気の症状が「このままではダメだ」ということを、繰り返し知らせてくれているのです。ですから、思い切って、今の不健康な「安定」に見切りをつける必要があります。
変化するときには一時的にストレスを感じるものですが、今のストレスに比べればほんの短い間の、先が見えたストレスです。乗り越える事で必ず達成感が得られますし、その先には今よりも有意義な生活が待っているのです。
今の不健康な「安定」に逃げ込まず、健康な、本当の意味での安定に向かう勇気を持つことが治療の第一歩であると言えます。
水島広子・著『拒食症・過食症を対人関係療法で治す

院長

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