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摂食障害患者さんのサポーターとしての重要な他者

[2021.03.29]

対人関係療法でいうところの「重要な他者」とは、配偶者、他の家族、同僚、親しい友人 など、自分の気持ちに大きな影響を与える他者とされています。

 

たとえば、子どもに興味が持てない、可愛いと思えない、子どもを見ているとイライラして過食してしまう、と訴える「ボンディング障害」の人は、子どもは「重要な他者」だから対人関係療法で何とかなるのではないか、と考えてしまいますよね。

たしかに子どもは「重要な他者」なのですが、なんだか変ですよね。

 

この違和感や誤解を生む理由は、「重要な他者」の説明で「アタッチメント対象であること」が抜け落ちているからです。

子どもにとって親は「アタッチメント対象である重要な他者」ですが、親にとっての子どもは「アタッチメント対象である重要な他者」とはいえないのです。

 

さて患者さんが青年期後期〜成人期の時には、両親はどのような応援やサポートをしたらいいのでしょうか?

ジェニーさんは、このように書かれています。

 

たとえば、私が母に向かって、「太っている感じがするの」と言ったとしても、母は、私が太っていないと説得しようとしなくていいのです。その代わりに、母には、私は本当に太っていると「感じているんだ」という事実を認めてほしいのです。

母には、それがどういう気持ちなのかということは理解できないけれど、でも母は、私の言うことをそのまま受け入れてくれます。それが私には必要なことなのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

患者さんがジェニーさんのように「太っている感じがするの」と話した時、周囲の人は、躍起になって「太っていないこと」を納得させようとしてしまいますよね。

 

周囲の人が、患者さんを納得させたいと思うのは、なぜだと思いますか?

摂食障害のお子さんをお持ちのお母さん方は、ちょっと考えてみてください。

 

もしかすると、「太っている感じがする」と言われることで、どう対応していいかわからずに不安になってしまうから、「太っていない」と納得させようとするのかもしれません。

あるいは、「太っている感じがする」と言われたことで、不安にさせられた不快感を逆に患者さんにぶつけて、「なに馬鹿なこと言ってるの?!そんなこと考えているヒマがあったら、勉強しなさい!」と、なかったことにしようとする親御さんもいらっしゃるかもしれませんね。

 

しかしながら、患者さんもその両親も、心の中を省みることが苦手(アレキシサイミア)で、それだけでなく、心が動く事に耐えられない(気分不耐)と感じてしまいます。

ですから躍起になって、患者さんの言うことを否定しようとしてしまうのかもしれません。

 

周囲の人は患者さんが「太っている感じがするの」と話す時に、「太っていると感じているんだね」と受け入れながら、患者さんの心の中で何が起きているかを想像してみて、「そう感じると辛くなるよね」と対応してみてもいいかもしれません。

 

このやり方は、子どもが泣いているときにその情動に共鳴し(心理的波長合わせ)、子どもの中で何が起きているのかを省みて、省みて消化された情動を、子どもが鏡で見るように子どもに示してあげる、メンタライジングのプロセスです。(崔『メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服』星和書店)

 

目の前で苦しんでいる人にどんな言葉をかけたらいいのか、言葉選びは難しいところですが、必ず何か良い言い回しが見つかるでしょう。

この本の「不純物」の節(130ページ)でお伝えしたように、言葉を慎重に選んで声をかけても、エドのフィルターはそれを汚して違った意味に聞こえるようにしてしまいます。

もしも何と声をかけたらよいかがわからなければ、「つらいわね。きっと良くなるから」、「あなたのことが心配なの」、「あなたのこと大好きよ」あたりから試すのがお勧めです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんが書いているように、思春期から成人期前期の摂食障害の患者さんでは、周囲の人がどんな言葉をかけたとしても「違った意味」で捉えてしまうことはよくあることなのです。

 

たとえば、ジェニーさんが書いているような言葉をかけたとしても、それまでの親子関係が険悪だったとすれば、「よくなるってなぜわかるの!」「心配してるなんて、口ばっかり!!」「大好きだなんて、嘘つかないで!!!」などなど、エドのフィルターによって汚されてしまうこともしばしばです。

 

彼女たちのインナーマザーは若い母親のようにとても未熟で、自分に確信が持てていません。そのため、心の糧が欲しいというリクエストにうまく答えられず、逆に彼女たちを困惑させてしまうでしょう。甘やかしすぎると思ったら、次の瞬間には愛情を与えず批判的になる、というふうに。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

エドのフィルターによって違った意味として捉えられてしまう理由は、「彼女たちのインナーマザー(健康な部分)」が「摂食障害思考(エド)」と対等な立場で向き合えるほど成長していないからと、ジョンストン先生じゃ説明されていますね。

「心の糧が欲しい」と言うはずが「太っている感じがする」で表現し、与えられた心の糧に対してもそう言ってくれた周囲の人の心を省みることができず、エドのフィルターをかけてしまうのです。

 

では、周囲の人はお手上げなのか?というと、そうでもないようです。

 

「どうしたらあなたの役にたてるかしら?」と同時に、「どうすると、かえって役に立たない?」と聞いてみるのもいいでしょう。

それから、こうした質問への答は時間とともに変わっていくものだという点も忘れないでください。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

周囲の人は、上で説明したようなメンタライジング的な応答ができなくても、「何があっても丸ごと受け止める」という気分耐性を手本として示してあげることができます。

そのようなサポートを根気よく続けることによって、「こうした質問への答は時間とともに変わっていく」という変化につながるサポートになるのです。

 

院長

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2021年4月から毎週土曜日に診療を行うこととなりました。診療時間についても、10時~13時半、14時半~16時半と変更になります。
土曜日の初診のご案内も行ってまいりますので、お電話やメールフォームからお申込みください。

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