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摂食障害思考を疑ってみる

[2020.08.31]

摂食障害、とくに、神経性過食症や過食性障害の人には、内省する(自分の心をふり返る)ことが苦手で、衝動的な気分解消行動である摂食障害行動に走りやすい、という特徴があります。

 

もうすこし詳しく解説すると、自分の心理状態を内省することが苦手なために、思考と感情の区別が困難なようです。それに加えて、思考を現実と思い込む傾向もあるようです。その結果「自分は○○だ」と否定的な自己批判をしてしまいがちです。

 

さらに、気持ちを感じること・言葉で表現することが難しく、ネガティブな考えや気持ち、およびそれらを引き起こすような状況を避けたり、衝動的に摂食障害行動を使って考えや気持ちを感じないようにしよう・無かったことにしようとする傾向があるということです。

 

また対人関係の面では、他者の心理状態を推測することが難しく、誤解したり一面的に捉えたりするだけでなく、自分がしているのと同じような批判を他者から受けるのではないか、と頭の中の他者が大活躍するので、人間関係の形成や維持を避けようとしてしまいますよね。

 

ジェニーさんは「自分がしているのと同じような批判を他者から受けるのではないか」と考えて、対人関係から遠ざかっていたキムのことについて書いています。

 

その夜、キムは、「合理的疑い」とトムが呼んでいたものを胸に抱いて帰りました。

ひょっとしたら、本当にひょっとしたらの話だけど、私はだめな人間ではないかもしれない。もしかしたら、グループのみんなは、私を本当に気遣ってくれているのかもしれない、という思いのことです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんの治療者の一人であった心理士のトム・ルートレッジさんがいう「合理的疑い」は、こころの健康クリニックでは「自分の考えを吟味する」とか「自分の考えに疑念を持つ」という言い方をしていますよね。

 

ところが、摂食障害の患者さんは、「自分の考えに疑念を持」ってしまうと、自分が無くなってしまうかのように感じたり、足下が崩れて奈落の底に堕ちていってしまうように感じて、「自分の考えに疑念を持つ」ことをすごく恐れていますよね。

 

現代仏教の著述家であるスティーブン・バチェラーは、「疑うことを信じる心」(疑団)を養うように奨励しています。
(中略)
仏教によると、自己についての疑いは避けられぬものであり、成長過程で必然的なものです。逃げるのではなく、その疑いに入ってゆくことによって、そこには探究し、解決する道があります。
既存の構造に耽るのではなく、わざと崩壊させることによって、それが可能であると仏教は教えています。
(中略)
仏教的アプローチは、本当の自己を発見することを促すのではなく、ただ単純に、二つの極端(誇大的自己と空虚な自己)に焦点を合わせます。そうすることによって、両極端が持つ無意識的なこだわりを解放するのです。

エプスタイン『ブッダのサイコセラピー』春秋社

 

エプスタインは、「自分の考えに疑念を持つ」ことを「疑うことを信じる心(疑団)」と紹介しています。「信じていることを疑う」のではなく、「疑うことを信じる」です。

この違いはわかりますか?

 

考えを信じること、つまり、考えを現実と思い込む「心的等価モード」が誇大的な自己という一つの極で、そのような場合、考えを疑うことで「自分が無くなってしまう」「足下が崩れて奈落の底に堕ちてしまう」空虚感というもう一つの極が生まれてしまいます。

 

好奇心・開かれた心・受け入れ・優しさをもって「疑うことを信じる」ことで、2つの極の間にある、あるがままの自分を感じやすくなるのです。

 

回復への道を歩み続ければ、難しい質問に向き合う機会もたくさん出てくるでしょう。なかには、医療の専門家が突きつけてくる選択肢に向き合わないといけないということもあるでしょう。

自分で自分に問いかけるものもあるかもしれません。

友人や家族からの問いや、エドからの質問さえあるかもしれません。

こうした問いすべてに正しく答えようとしなくても大丈夫です。

正しい答がないときもありますし、どれを選んでも間違いではないときだってあります。

答えることよりも、むしろ目の前の問題から目を背けないでいることこそが大事なばあいもあるのです。

(中略)

重要なのは、質問に答えて、自分の身体を大切にしないといけないという事実にきちんと向き合う姿勢だったのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんがどのように考えとのつきあい方に向き合ったのか、「自分との関係」に取り組んだのかがよくわかると思います。

 

摂食障害の自己中心性から抜け出す』で説明したように、自己内対話と使って自分との関係を改善し、行動の仕方を変えていくことで、深い自己肯定感から自分への優しさが生まれてきます。

そのためには「疑うことを信じ」て「考えを吟味」し、多様な視点を獲得し、凝り固まった考えから解き放たれる必要があります。

 

こころの健康クリニックでは、バイロン・ケイティの「4つの質問」を使って、自分の考えに抵抗してみることを勧めていますよね。

 

・それは本当ですか?

・それが本当だと、絶対に言い切ることができますか?

・その考えを信じると、あなたはどうなりますか?

・その考えがなければ、あなたはどんな人になりますか?

 

2つ目の質問「それが本当だと絶対に言い切ることができますか?」では、思考を現実と思い込む「心的等価モード」を緩めて、思考が自由に動き回るスペースを作っていくのです。

 

自閉症スペクトラム障害(ASD)の人は、自分自身の心を客観視することや、思考は現実の表象であることを理解することが難しい場合があり、2つ目の質問に対して強迫的な思いこみで「言い切ることができます!」と断言されることもあるかもしれません。

そのような人は、「もしかしたら別の可能性もあるかもしれない」と、今回説明した「疑うことを信じる心(疑団)」を持ってみてくださいね。

 

また、『性格と間違われやすい気分変調症の治り方』や『摂食障害思考とのつきあい方を変える』で説明したように、多様な視点を持つことができて、思考に触れつつも巻き込まれずに一緒にいることができる、「心の柔軟性を高めていくこと」が摂食障害や気分変調症の治療でも最も重要なテーマですから、是非、バイロン・ケイティの「4つの質問」を参考にしてみてくださいね。

 

院長

 

《日本摂食障害協会からのアンケートのお願い》

【当事者限定】
新型コロナウイルス感染症が生活に与える影響についてのアンケート調査 第2回目(回答締切:2020年9月4日(金)17:00まで)

【摂食障害患者様のご家族】
医療機関を受診していない摂食障害患者と家族の支援ニーズに関する調査研究

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