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摂食障害はコミュニケーション不全が問題なのか

[2017.11.13]

対人関係やコミュニケーションの土台となるのは自己主張であり、それは「自分の真実を話す」「自分に正直になる」ということでした。(『自分の心に正直になり摂食障害から回復する』参照)

素敵な物語』でも『8つの秘訣』でも、何度も何度も繰り返して自分自身の心と身体の状態を振り返るように勧められますよね。

なぜなら精神疾患はすべて「自分自身との関係」の問題が土台にあるからなのです。

 

考えや感情を率直に表現できるようになると、その考えや感情だけでなく、自分自身という人間も大切だと肯定できるため、自尊心や自信を得ることができます。

その結果、自己嫌悪に陥るたびに拒食したり食べ過ぎたりといった癖も薄れていくのです。

いずれ自分の真実を話すということが生き方として定着してくると、感じていることと行動との矛盾に絶えず付きまとう不安から身を守ったり、NOと言いたいときにYESと言うことで感じる穴を埋めたりするために食べ物を使う必要がなくなります。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

摂食障害からの回復と自分と他者の境界線』で説明した対人関係療法の2つの課題は、「対人学習」と「役割期待の整理」でした。

2つの課題のテーマである「境界線(自他境界)」を明瞭にしていくこと、つまり、摂食障害の治療で、自己主張やコミュニケーション、あるいは対人関係の問題がテーマになる理由は、このあたりにありそうですよね。

 

ですから、「私は対人関係には問題がありません」という人には、「そうですか。では、ご自分がこれはおかしいとか、これはやめてほしいと思ったときに、躊躇しないで相手にそう言えますか?」と聞いてみます。皆さん、「いいえ」と答えるか、無言になるものです。

さらに「やめてほしいと思っても、そう言わずに、自分だけががまんしてすませるのではないですか?」と聞くと、答えはまず100パーセント、「はい」です。

これは立派な対人関係の問題なのです。

広い意味で、対人関係に問題のない摂食障害の人はいないというのが私の臨床経験を通しての結論です。
ですから、対人関係療法は、摂食障害の人全般に効く治療法なのです。

水島『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店

 

摂食障害の人たちは、自己主張を含めたコミュニケーションのスキルが乏しく、対人関係に問題があるから対人関係療法が有効なのでしょうか?

摂食障害からの回復と自分と他者の境界線』で挙げた、統合失調症やアスペルガー症候群、パーソナリティ障害、あるいは強迫性障害の人たちも、コミュニケーションに問題を抱えていて対人関係が苦手ですから、対人関係療法が有効なのでしょうか?

 

あるいは一般の人でも、女性は感情的といわれますが、男性は自分の気持ちを素直に表現するコミュニケーションが不得手の人が多いですよね。

また、日本人は「アサーション(自己主張)」や「ダイアローグ(対話)」が苦手で、コミュニケーション自体は「モノローグ(独り語り)」的といわれます。
さらに、「NOと言えない」「勤勉(我慢をかかえこむ)」などの特徴があります。

それでも健康な人がほとんどで、そのような人たちがうつ病や摂食障害になってしまったら、コミュニケーションを改善しないと回復できないのでしょうか?

 

なんだか変ですよね?

 

このような矛盾が生じるのは、診断名に対するエビデンスが一人歩きし、かつ、「非機能的なコミュニケーションを修正して、対人関係を改善する」手段(技法)が、目的(病気からの回復)と混同され、患者さんの文脈を無視してマニュアル通りのやり方をなぞるだけになってしまった陥穽によるようです。

一般の人は「自分自身との関係」がそれなりに機能していますから、夫婦/パートナー関係のように対人関係の問題があった場合は、自分の気持ちを振り返り(内省)、相手の精神状態を意識していることを意識(明示的メンタライズ)しながら、モノローグ的な会話をアサーティブ(自己主張的)に変え、ダイアローグ(対話)的な状態に戻していくわけです。

 

一方、さまざまな精神疾患の場合は、診断名ではなく精神病理(病態水準)の把握が必要です。

「幻想」と3つの対人関係』で説明した【3つの関係性の文脈】のうち、どの水準が機能不全を起こしているのか?の理解が必要不可欠になります。

たとえば、統合失調症やアスペルガー症候群では「自分自身との関係」に加えて「集団との関係」が機能不全をおこしていますよね。そして当然のことながら「他者(二者)関係」にも影響を及ぼします。

摂食障害の治療でコミュニケーションや対人関係が治療テーマになるのことが多いのは、摂食障害では「自分自身との関係」に加えて「他者(二者)関係」に病理が表現され、それが「集団との関係」に波及していくからなのです。

「自分自身との関係」「他者(二者)関係」「集団との関係」の、どの文脈に治療の重点を置くかは、患者さんによって異なります。
「他者(二者)関係」に問題があるはずとの先入観をもって恣意的に焦点を当てるのは、患者さんに合わせた治療(鑑別治療学)ではなく、患者さんを治療に無理やり合わせる不自然な営為になってしまうのです。

 

摂食障害の治し方を説明していきますが、治療のポイントはあくまでもこの「自己志向」を高めることにあるのだということを念頭に置きながら読んでいただければと思います。

(中略)

多様な価値観を尊重できるかどうか(協調性)は、「自己志向」にかかっていると言っても過言ではありません。自分がある程度満たされていなければ、他人の価値観を尊重すること(他者受容)もできないからです。
また多様性を受け入れる上での「不安」は、やはり「損害回避」との関連が深いものだと思います。「損害回避」に流されることなくきちんと自己コントロールするためにも、「自己志向」は重要なのです。

水島『「やせ願望」の精神病理』PHP新書

 

摂食障害の対人関係療法による治療では、例えば「コミュニケーション分析」の技法を用いて、「相手の視点を配慮する」過程で「自己認識」を促し、対人関係上の歪んだ知覚と誤った想定(メンタライジング不全)を修正していくこと、つまり「自己志向」と「協調性」のバランスを取る心の状態を培っていくことが治療になりますよね。

 

自分の反応や気持ちをはっきりつかみ、コントロールし、表現することを学べば、自分を落ち着かせたり、慰めたりするために、食べ物に走らないですむようになります。

(中略)

食べ物で自分を麻痺させるのではなく、自分の気持ちに注意してはっきりつかめるようになる、つまり自分自身との関係を改善し、他人との関係を改善できれば、ネガティブな気持ちをコントロールするために食べ物を利用しなくてすむようになるでしょう。

ウィルフリィ『グループ対人関係療法』創元社

 

摂食障害の治療では、【自分の心を振り返る】ことで自分自身との関係を改善し、【自分の心の状態を通して相手の精神状態を把握する】ことによって他人との関係を改善することが、摂食障害の治療の中心です。

その土台として自分自身の身体の状態を把握することも含めて、心との親和性を培い、【自己志向】を高めていく必要があるのですよね。

 

院長

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