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摂食障害の治療の問題〜短時間診療

[2015.04.20]

治療の質を上げることが、受診中の患者にとっても有用なだけでなく、未受診者や治療離脱者を治療に向かわせるものであることが期待される。
(中略)
摂食障害についても、Cレベル(専門家の意見による推奨)やBレベル(比較群のある、質の良い研究結果)の中でも質の良い治療効果を蓄積しながら、日本の実状に見合った治療法を作っていく必要があると言える。
西園マーハ文:治療総論—摂食障害の治療について考える—, 精神科治療学27(11); 1393-1398, 2012

と書かれています。

日本の実状に見合った治療ということで、野間先生は

一般診療では、各心理療法のエッセンスをうまく組合せ、患者が無理なく長く治療を継続できることが重要になる。
野間俊一:摂食障害に対し、さまざまな心理的治療をどう選択するか, 精神科治療学27(11); 1435-1439, 2012

と述べておられます。

 

たしかに「各心理療法のエッセンスをうまく組合せる」というやり方は理想的なのですが、エッセンスを組み合わせるためには、それらの精神療法をマスターしていなければできないですよね。

それだけでなく精神療法の修得には時間がかかります。
たとえば、対人関係療法は、十分にトレーニングを受けた最低2年間の精神療法の経験があり、うつ病(あるいは他の対象とする診断)の患者を治療した経験のある熟練した精神療法家が学ぶもの、というハードルがあるのです。

さらに対人関係療法のトレーニングの後でも、経験の少ない治療者と熟練した精神療法家では治療者の実力で成績に差が出るということも知られています。

このように「各心理療法のエッセンスを組み合わせる」という言い方は聞こえはいいのですが、現実的ではないという印象を持っています。

 

さらに摂食障害にエビデンスを持つ対人関係療法であっても、三田こころの健康クリニックのように正式に行うことができる医療機関は別として、一般の精神科外来の短時間診療では構造化して行うことができないという難点があるため、粘り強く、長期間かけて、構造化度の低い対人関係療法を続けるということになります。

そのためには、水島先生がおっしゃるように

外来治療の継続のためには、動機づけの維持、脱落の防止が必要であり、そのために意識を集中することが結果として良好な治療関係の構築にもつながる。
水島広子:入院施設のない精神科の外来における摂食障害の治療, 精神科治療学27(11): 1447-1452, 2012

というさまざまな工夫が必要になり、期間限定の焦点づけされた精神療法という特性は薄れますが、良好な治療関係を土台として「医学モデル」の維持と動機づけの維持(問題領域への焦点づけ)という戦略が保たれれば摂食障害の経過と予後』で紹介した

従来より精神科治療として実践されてきた支持的精神療法を症例に合わせて丹念に粘り強く行い、その人らしい自立した生活機能の獲得を達成することが重要と考える。
(中略)
特別な治療環境や治療技法によらずとも普通の支持的精神療法により外来診療所でも十分可能となる場合があると考えられる。

という支持的精神療法と一線を画した対人関係療法的エッセンス療法が可能であると考えられます。

しかしそのようなエッセンスを実行するためには、やはり正式な対人関係療法をマスターしておく必要があります。

とくに治療関係や患者さんの感情への注意を向けることや、患者さんのアタッチメント(愛着)スタイルへの適応などの「非特異的因子」への配慮など、症例全体の見立てや患者の文脈の理解等が必要であり、より大きな臨床的視野と豊富な臨床経験を必要としますから、『対人関係療法の現状』で書いたような技法だけまねた対人関係療法もどきでは効果はないということですよね。

院長

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