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摂食障害の治療〜神経性食欲不振症(拒食症)5

[2012.07.09]

もともと。
拒食症の発症プロセスは「役割の変化」としてフォーミュレーションできる場合が多いといわれています。

たとえば思春期に発症する最も典型的な例は、

・家族内葛藤(家族のしわよせ)
・勉学やスポーツ、習い事の過重や負担
・学校・職場の人間関係の悩みやイジメ
・進路の失敗

などの思春期にありがちなストレス要因がいくつか重なり、対処しきれないような大きなストレスに直面したり、コーピングスキル(ストレスを適切に処理する能力)が未熟な場合、ささいなストレスも、深刻な衝撃として体験されます。

 

通常は周囲の援助を得ながら、自力で対処していくものですが、それまでの「自分一人で努力すればなんとかなる」というそれまでのやり方やルールが通用しなくなる中で、それを乗り越える前に、ふとしたきっかけでダイエットを始めたり、過労や体調不良からやせ始めたりして、やせから抜けられなくなります。

さらに対処困難な状況に陥るとわけもなくやせたくなります。
やせることに没頭していると、現実に立ち向かうのが怖いと感じるようになり、安心を求めて低体重にしがみつく(やせの疑似安心感)という症例が一般的です。
太るのが怖い(肥満恐怖)は、やせの疑似安心感へ閉じこもっていたい気持ちの裏返しですよね。

 

政策研究大学院大学保健管理センター教授の鈴木(堀田)眞理先生の「摂食障害」という本に、回復の過程と課題の解説が掲載されていました。

1. 充電期間
70%標準体重未満の時期ですから、この時期は、生命危機や内科的合併症、入院拒否や過活動などのため、ムズカシイ時期になります。
それでも「家庭を安心出来る療養の場にする」ことで、安心の提供が最優先で必要な時期になります。

2. 社会復帰へのウォーミングアップ
70%標準体重程度に回復し、年齢相応の生活レベルに戻りつつある時期です。
治りたい気持ちと体重増加への恐怖が葛藤し、家庭での生活がメインになるため、家族間のコミュニケーションの重要性が増します。
対人関係療法による拒食症の治療は、この時期から開始します。

3. 社会不安の克服
過食期を経て体重は回復しましたが、コーピングスキルは未熟で社会復帰に伴う不安が強い時期です。
体力や思考力が回復し、現実の問題が見えてくる分、「何をどうしていいかわからない」と霧の中で遭難したような非常にツライ時期になります。
ダイエットや過食への誘惑、うつ状態、外出恐怖や引きこもりなどが起きてきます。
対人関係療法では「役割の変化」とフォーミュレーションし、不安や抑うつに共感しながら、新しいソーシャルスキルやソーシャルサポートを築いていきます。

4. 自分に合う生き方を探す
体重はほぼ回復し、社会活動もできますが、大きなストレスへの対処は困難な時期です。
病気になる前に抱えていた対人関係、進路、生き方の問題が明らかとなり、コミュニケーションスキルの未熟さ、何をやりたいかわからないなどで苦悩しますので、本人の求める援助は行いますが、干渉はせず、本人のコーピングスキルに合った生活を目指します。

こうみてくると、対人関係療法による拒食症の治療を行う場合には、

・治療焦点とする問題領域を決定するまでの期間(初期)を十分取る
・治療中期を十分にとる
・対人関係問題と拒食症の症状の関連を十分に調査する

などの拒食症バージョンの修正を行いながら、少なくとも4クールは必要のようですよね。

ちなみに。
過食症の治療はこんな感じです。

拒食症の治療と比べてみると

拒食症では身体的治療が優先され、精神療法や心理療法は、身体的にある程度回復してからになるので、その対応の違いが明確になると思います。

院長

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