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摂食障害の強迫と衝動の治療

[2016.07.19]

摂食障害は、ダイエットから「拒食症(制限型)」の発症で始まることが多く、「拒食症(過食嘔吐)」←→「過食症(嘔吐を伴う)」→「特定不能の摂食障害」という経過をたどることが典型的といわれています。

 

飢餓状態で、身体が強制的に食物を摂取する「飢餓大食」の状態では、脳内のドーパミン回路(報酬系)が異常亢進していることがわかっています。
(拒食症(制限型)の強迫的な過剰運動もこのメカニズムのようです)

飢餓過食は本来は空腹感に対して生体を維持するためなのですが、亢進した報酬系にはドーパミンだけでなく、オピオイドと呼ばれる脳内麻薬用物質も関与していて快楽を得るための食欲が関与してくるのです。

つまりダイエットの飢餓状態で高カロリーのものや甘いものを食べると、一次的にドーパミンが大量に分泌され、身体的には快楽なのですが、意識は食べてしまったことを後悔して飢餓状態を続けようとし、身体は回復するためになんとしても食べ物を摂取しようとし、その合間でドーパミンやオピオイド系の大量分泌が起きるわけですから、あたかも薬物依存のような状態になっていくわけです。

ところがこの報酬系は徐々に鈍麻していく(耐性ができる)ので、過食(むちゃ食い)をしても快楽を感じることが減ってきて、日常的なささやかな幸せどころか、将来への希望も感じられなくなり、これを患者さんは「過食がクセになった」と表現するのですよね。

 

さらに過食や過食嘔吐あるいは食べ吐きを繰り返す人たちは、行動を調整する前頭前野の働きが低下している、つまり、衝動コントロールの困難さが関与していることがわかっています。

過食症の人たちは、計画性の乏しい行動パターンが多く、ネガティブな気持ちになった時に過食衝動が高まることはよく知られていますよね。

 

前頭前野は人間性とか社会性との関連がいわれているようにクロニンジャーの七因子モデルでは「報酬依存(人情家)」と関連していて、神経伝達物質では、ノルアドレナリンとの関与が知られています。

つまり、衝動性という前頭前野の働きの低下は「低い報酬依存(人情家)」であり、それは同時に完璧主義という強迫性の特徴の一部でもあるということで、「強迫—衝動スペクトラム」との関係が見えてくるのです。(『衝動性と強迫性〜摂食障害との関係』参照)

このタイプは「報酬依存(人情家)」のほかに「新奇性追求(冒険好き)」も低く、「損害回避(心配性)」と「固執」が高いという特徴があり、権威に対する反感、抵抗に対する正当化と予測不能な対人関係から自分自身が動揺しないように、自分なりのルールやペースなど予測可能な世界への退避があるため治療導入までに長い時間がかかることがほとんどです。

まず治療そのものが現状に変化を起こすことを前提とするため、予測可能な世界の中で自分を守っている患者さんにとっては治療契約そのものも侵襲的に感じられてしまうことも多いのです。

治療関係が確立されるにつれて感情表現をすすめていくのですが、感情に対してコントロールができない感じという衝動性が浮上してくるので、患者さんが感情に耐えられるまでさらにゆっくりと治療を進めていく必要があります。

感情に耐えられるようになってくれば、少しずつ対人関係の課題に向き合うことになります。
内省し(自分をふり返り)、自己表現をすすめていくことにより、対人関係のストレスを受けずに感情を表現できるようになる「対人学習の機会」ということでは対人関係療法がもっともマッチするタイプともいえます。

その課題の多くは、自立とともに他者からのサポートを受けることや、相手の希望を叶えることと、自分自身の欲求を満たすこと、など、対人関係療法的にいえば「期待の整理」つまり相反する矛盾や葛藤を止揚していくプロセスを進んでいくことになり、対人関係に内在する未知な感情や曖昧さに耐えられるようになるまで十分な時間が必要になります。

この時に、思い込みや過剰な心配を減らすために、抗うつ薬が役に立つことがあります。

治療プロセスは『摂食障害の不安に向き合う』で詳しく書かれているように、無条件の肯定的関心や再保証を背景に心理教育を進めていくことになりますが、変化を起こすときには承認欲求は逆効果になるため治療そのものも矛盾を止揚していくプロセスが必要になるのです。
(再保証や承認欲求についての問題はいつか詳しく書いてみますね)

 

対人関係療法が向いているとはいえ、その治療効果は変化の段階(行動変容を促進する条件設定や自己強化)と関連していますし、「準備期」から「実行期」に移行できるまで時間がかかることがほとんどなので『食障害の治療や回復へのモチベーション~『8つの秘訣』補遺1』を参照して治療を申し込んでくださいね。

院長

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