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摂食障害の子をもつ母親のアタッチメント

[2020.08.05]

母親の精神的ストレス(出生前、遅発性の出産後)が、児の5歳時のアトピー性皮膚炎、7歳時の喘息と関連がみられたとの報告があります。

アタッチメント理論から考えると、母親の心の健康状態が子どもの心身の症状に影響することは、すごく理解しやすいことです。

 

こころの健康クリニックで行っている摂食障害の娘さんを持つお母さんとの面接では、「娘さんの視点を理解できるか」「お母さん自身の欲求や防衛のために知覚が歪められないかどうか」「娘さんが何かを求めるときにはいつでも与えられるかどうか」「娘さんにとって受け入れやすい代替案を提供できるかどうか」そして「お母さんと娘さんがお互いに満足しているかどうか」を治療者と一緒にみていきます。(『支援のための臨床的アタッチメント論』参照)

 

私たちは、養育者のアタッチメントシステムの活性化に対応し、それとともに、養育者が子どものアタッチメントシステムの活性化に敏感性あるケアができるように支援し、そのときに子どものアタッチメントについて査定し、子どもが安心感ある相互作用をもてるように支援する。

さらに、養育者自身が誰かに敏感なケアをされているのかを査定する。そして「私」との関係も査定する。

1人の同じ人物の中に、異なる複数の関係を見て、1つの同じ相談のなかに、異なる複数の対象が登場することになる。

工藤『支援のための臨床的アタッチメント論』ミネルヴァ書房

 

その時に注目するのが、摂食障害の娘さんの否定的情動に対して慰めを与え、和らげることができるという「心的苦痛に対する敏感性」と、娘さんに自信と満足を与えるという「探索における敏感性」です。

 

心的苦痛への敏感性はと探索における敏感性とがある程度の相関を保ちながら、つまり1人の養育者が両方の敏感性をしばしば見せながらも、乳児のアタッチメントの安定性を予測するのはこのうち苦痛に対する敏感性であることを報告している。
(中略)
探索への敏感性は子どもの注意力、象徴遊びの発展といった認知能力の発達を促していることが示されてきた。
(中略)
子どもの精神衛生上の問題を考えるうえでは、恐れと心的苦痛への敏感性こそが焦点だというのである。子どもの喜びには喜びを、子どもの恐れには慰めを。けれども後者(註:探究における敏感性)は危険とかかわるためにより重要と考えられている。

工藤『支援のための臨床的アタッチメント論』ミネルヴァ書房

 

「探究における敏感性」、つまり問題の解決には親子関係がそれを背後で支える器となり、「心的苦痛に対する敏感性」、つまり、恐れを和らげる機能は、親子関係そのものが薬として作用するといわれています。

 

敏感性の高いケアは、ここにおいて2つの働きをもっている。

1つは、子どもの気質や環境の不利益にもかかわらず人生早期のアタッチメントの質を安定させる、という働きであり、もう1つは、子どもが不安定なアタッチメントを示す時でもその影響を和らげる、という働きである。

(中略)

ここで注目している敏感性の焦点は、探索への敏感性ではなく、恐れと心的苦痛、つまりアタッチメントのニードへの敏感性である。それは危険や危険のサインにさらされて活性化したアタッチメントシステムを鎮め、探究システムの活性化へと切り替わることを可能にするような、物理的ケアを含む、なにより安心感のケアである。

工藤『支援のための臨床的アタッチメント論』ミネルヴァ書房

 

本人のいないところで、家での子どもの様子を話したいと連絡してこられるお母さんもいらっしゃいます。

家族とはいえ秘密にしておきたいこともあると思いますが、感情処理のお手本になってもらうはずのご両親が、患者さんに内緒で治療者と面談するのは、患者である娘さんの治療に悪影響を与えることも多いのです。

 

ご家族の心の内を推察してみると、サポーターという立場を降りて、治療者に丸投げしたいとの願望がおありなのかもしれません。

あるいは、治療の中で正直に話していないのではないかと、娘さんに対する不信感がおありなのかもしれません。

 

いずれにしても、サポーターであるご家族が、患者さんのいないところで家での様子を話すことによって、ご家族の後ろめたさが刺激され、サポーターとしての機能が妨げられる可能性が考えられます。

 

過去、現在、治療状況の対人関係について考え、検討することが薬であり、安心の基地はその器である。
(中略)
このときに治療者は、あるいは治療状況は、家族がこうした作業を行うことのできる、探究のための基地である。家族システムの再検討が解決をもたらす薬であり、治療関係はそれを入れる器である。
(中略)
治療者は子どもと親の関係を外側から支え、トラウマとアタッチメントの二重のレンズを通して問題に取り組むことになるのだが、やはり治療状況は器として機能しており、そのなかで親子のアタッチメント関係の改善のための処方がなされている。

工藤『支援のための臨床的アタッチメント論』ミネルヴァ書房

 

こころの健康クリニックで、摂食障害の娘さんをお持ちのお母さんの面接をするとき、私たちは、お母さんと娘さんの関係、お母さんとご主人との関係、お母さんの幼少期の両親との関係、お母さんの対人関係パターンや治療者との関係など、母親をとりまく複数の関係性を考えていきますよね。

 

つまり、摂食障害のお子さんをお持ちのお母さんとの面接は、「薬としての母親」として苦痛に対する敏感性を高め、「薬の容器としての親子関係(探究における敏感性)」を安定させていく治療なのです。

 

院長

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