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摂食障害の子への対応の仕方のヒント

[2019.10.07]

もしかしたら摂食障害かもしれない」と疑問を抱くことや、摂食障害であるとの自覚(病識)を持って、「今の乱れた食行動を何とかしたい」、あるいは、「食べ吐きや下剤をガマンするだけではこの状態から回復できない、だから行動の仕方を変えていかなければならない」と自覚されている方は、すでに行動変容ができる「準備期」ですから、すぐにでも治療を始めることができます。

 

食行動の問題を抱えていることは自覚しているけれども、行動変容に対する心の準備ができていない「熟考期」では、「自分の気持ちをよく振り返る」という治療を始めると、今まで過食や過食嘔吐でなかったことにしていた感情と向き合うことになりますから、一時的に乱れた食行動がひどくなったように思えてしまい、治療を続けるモチベーションが続かなくなることも多いのです。

 

回復が進んでいく過程で、自分の気持ちにもっと気づくようになり、そしてそれがより強烈なものとして感じられることもあるでしょう。長い間、感じないようにしていた無数の気持ちと再度結びつくことによって、はじめは、よりいっそうひどい気分になるものです。

摂食障害から回復するということは、そうした気持ちを回避したりごまかしたりするために摂食障害や他の破壊的な行動を用いるのではなく、自分の気持ちをありのままに感じられるようになるということです。

コスティン&グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣ワークブック』星和書店

 

ジェニーさんは治療を受け始めたときは、「熟考期」のままだったようです。

  

もしもまだ誰からもサポートを受けていないとしたら、あなたはたぶん、私が摂食障害を患っていると初めて気がついたときと同じように感じているのではないでしょうか。

(中略)

もちろん自分から、摂食障害を専門にしている医師を受診したし、十五年以上も摂食障害を治療してきた専門の心理士さんの治療を受け、摂食障害を専門とする栄養士さんにも受診の予約を入れていました。そのうえ、摂食障害に苦しむ女性たちのグループセラピーにも参加していました。

それでも、どうしてこれだけ多くの治療者に定期的に会う必要があるのか、自分でもよくわかりませんでした。「なんでセラピーにこんなにお金と時間をかけているのだろう。問題なんて、本当はないのになあ」と自問自答していました。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

治療を受けようと決心する前(前熟考期や熟考期)は、過食や過食嘔吐によって集中できなかったり、過食や過食嘔吐で時間を取られたとしても、交友関係を避けたりして、なんとか摂食障害症状と折り合いをつけようとしますよね。

 

そんなときに「摂食障害かもしれない」と思い切って友人や両親、あるいは治療者(!)に相談すると、ジェニーさんが体験したような答が返ったということもよく聞きます。

 

「君は摂食障害じゃないよ」と彼は言いました。
「問題なんて何も抱えていないじゃないか。問題を抱えているっていうのは、アフリカで飢えている人たちのことだよ」

私は答えました。
「でも、自分ではどう考えてみても、問題を抱えているって思うの、それに摂食障害に罹っているのは事実なの。私が食べ物とどう付き合っているのか、見たらわかるわよ」

「どうでもいいけど」と彼、「解決するのは簡単さ。一日三食食べればいい。大したことじゃない。君は本当の問題というものを知らないのさ」

それを聞いてすぐ、私は彼の家から立ち去りました。

そのときには、彼に、私が摂食障害に苦しんでいるのだとわざわざ説明するつもりはなかったし、この病気は本当に命にかかわるものなのだとわざわざわかってもらうつもりもありませんでした。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

摂食障害かもしれないと思っていても、「違う」と否定されると摂食障害なんだ!と確信が強くなります。でも逆に、「摂食障害ですから治療が必要です」と言われると、本当にそうなのか?と疑問が生まれますよね。

「熟考期」ではこのようにアンビバレントな心の動きが特徴なのです。

 

こころの健康クリニックでは、摂食障害のお子さんをお持ちの親御さんから「どうしたら娘に治療に受けさせることができますか?」という相談を受けることもよくあります。

親御さんがお子さんになんとか治療を受けて欲しいと躍起になればなるほど、お子さんは頑なに治療受けることを拒否してしまいます。

一方で、心配した親や家族が本人を治療の場に連れてきて、いったん医療現場に預けてしまうと、親や家族は自分たちが変化する必要性に対して消極的に抵抗されることが多いのです。

こころの健康クリニックで行っている親面接では、自分が変わることがいかに難しいかを学ぶことで、子どもにとっても変化は難しいものだという理解を深めてもらっていますよね。

 

では、熟考期で治療に対する動機づけを高めるには、どうしたらいいのでしょうか?

 

私が摂食障害なんだと実感させてくれる人はいませんでしたが、それでも私のサポートチームは、回復への道を歩き続けようと私に思わせてくれました。

「わかったよ。それなら、君は摂食障害でないと考えてみることにしよう。それで、これだけのセラピーを受けたとして、君の身に起こりうる一番悪い影響は何だと思う?」と、トムはよく言いました。

もちろん、たとえ私が摂食障害でなかったとしても、これらの治療を通して、私は自分で自分のことをきちんと管理できる方法を学んでいました。

自分のことをもっとよく理解し始めてきていて、だんだんと健康にもなれるような気がしていました。

そんなわけで、本当に摂食障害という病気を抱えているのかどうかもよくわからなかったけれども、ともかく回復への道をたどろうと思い続けることができたのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

心理療法家のトムがとった方法は、「摂食障害だとは思えない」というジェニーさんの思いを「」いて「共感」し「共有」した上で、その理解に沿って「サポート」する《リフレクティブ・リスニング》という方法です。

「リフレクティブ・リスニング」は、「気持ちに対処する方法、あるいは他者に助けを求める方法をまだ学んでいない人たち」に対して、多様な物の見方を示してあげる優れた方法なのです。

 

ある本には摂食障害のお子さんに対する親の対応の仕方として、「とにかく話を聞く」「どんな気持ちも受け止める」と書いてあります。

しかし、ここで注意しなければならないことは、食べ物や体重、食べることに関する話や気持ちを聞くことではないのです。摂食障害トーク、症状トークではなく、お子さん自身やお子さんを取り巻く社会との関係についての思いや感情を聞いてあげることが大切です。

 

私たち治療者は摂食障害のお子さんをお持ちの親御さんの面接を通して、どんな風に話を聴き、思いや感情をどのように言い換えたり要約したりして、ちゃんとじっくり話を聴いて理解しているかを示すことができるか、のスキルを教えていくのです。

このようにして、親自身の対応の仕方を、摂食障害のわが子の変化のステージに一致したやり方に変えることで、親子関係の抵抗や緊張が和らいでいくのですよ。

 

院長

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