メニュー

摂食障害の医療機関の選び方と家族のサポート

[2019.11.05]

11月2日3日に開催された第23回日本摂食障害学会学術総会、そして11月4日にはザフラ・クーパー教授の「CBT-Eを実行する:実践家のための1日臨床ワークショップ」に参加してきました。

医学系の学会や論文での「摂食障害」は、神経性やせ症や、学校への適応不全から発症しやすい回避・制限性食物摂取障害など、不食、拒食を主症状とした身体合併症や、家族関係の問題を抱えたケースに話題に偏りがちのような印象を持っています。

一方、潜在的な患者は多いけれど、治療を希望して受診する人が少ない神経性過食症や過食性障害などに対する興味をお持ちの先生方は少ないのかな?と感じました。

 

皆さんもいくつも医療機関のホームページをご覧になったことがあると思います。
多くの医療機関で、拒食症や過食症など摂食障害の治療を行うことができるように書いてありますよね。

ところが、実際、受診したことのある患者さんのお話を聞くと、ビックリ(!)するような指導(?)だけでなく、多剤大量の薬物を処方されている医療機関が多いことにも驚かされます。

 

ジェニーさんも「専門家と称する人」に「摂食障害を理解しているとは思えない」アドバイスをされた経験について書いていらっしゃいます。

 

もちろん、それまでも専門家の人々は、アドバイスをしてはくれましたが、それは現実的なものではなく、摂食障害を理解しているとは思えないようなものでした。

たとえば、ある精神科医は、私に大学に戻って音楽の学位を取れば、すべての問題は解決するだろうと言いました。彼は、そうすることで私の食べ物との問題はすべて解決するだろうと確信していたのです。

現実には、大学のことを調べたり、大学の人と話したりすることで、ストレスが増しただけでした。そして、一時的に摂食障害と闘うことから目をそらせただけだったのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

「摂食障害を理解しているとは思えない」医療機関を避けるためには、拒食や不食であれば「回避・制限性食物摂取障害(食物回避性情緒障害や選択摂食など)」との鑑別について説明があるかどうかが、治療ができる医療機関を選ぶ基準になるかもしれませんね。

また、大食や過食あるいは過食嘔吐であれば、うつ病との診断で抗うつ薬や抗不安薬あるいはバルプロ酸などの気分調節薬を処方する医療機関や、「ストレスが過食や過食嘔吐の引き金になっている」と説明する医療機関や治療者は避けた方がいいでしょう

まことしやかにストレス一辺倒の説明をする治療者の元では、周囲の人が症状や症状トークに巻き込まれやすくなりますし、何よりも患者さんの心の動きや過食や嘔吐のメカニズムを治療者がわかってないので、過食症や過食性障害の治療ができるだけの力量がないことが明らかだからです。

 

患者さんが自分で医療機関を探して受診される場合は、上記を一つの目安にしていただければいいのですが、親、とくにお母さんも娘のことが心配で、一生懸命に医療機関を探されることも多いですよね。

BMIが16.5未満の低体重の場合は、摂食障害全国基幹センターや治療支援センターに相談されるのが一番確実でしょう。

 

思春期の摂食障害からの回復には、家族の適切なサポートがなによりも大切と言われています。実際、イギリスのNICEガイドラインでも、「家族ベースの治療(FBT)」が第一選択に挙げられており、最近では『家族の力で拒食を乗り越える』という本も出版されています。
また摂食障害の家族会の活動内容を紹介した『家族ができる摂食障害の回復支援』もありますね。

 

摂食障害についての正しい知識と理解をもち、摂食障害トーク(体重・体型・外見・食べ物)に巻き込まれず、温かい支援と共感的な対話で、本人の治りたい気持ち(健康な部分)の味方になって、学校や友人関係の悩みに耳を傾けてあげることが必要です。 

摂食障害と寄り添って回復をめざす本』には、食事や体重については「心配よりも理解」が必要、と家庭を安心できる療養の場にするためのたくさんのヒントが説明されています。

 

いろんな本に「摂食障害の娘への適切な対処の仕方を知っておくことが、摂食障害の持続と慢性化を防ぐうえで、きわめて大切」と書いてありますが、そうは言っても、「どう接していいかわからない」というのが、お母さんの本音だと思います。

 

家族には、私が何を経験しているのかを理解してくれなくてもいい、私の話を聞いて、私のことを信じて、そして私のそばにいてくれるだけでいい、と伝えました。

(中略)

摂食障害に罹っている人々がどういうことを体験しているのかを、一般の人にすべてわかってもらえるとは思っていません。

事実、私が回復してきた過程において、両親には、エドが私をどう支配しようとしているのかという事実はわかりえないんだ、とお互いに理解し合えたとき、私は両親から本当の意味での支えを得られるようになったと思っています。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんも、両親に病気のことをわかってもらえなかったと書かれていますので、お母さんが「どう接していいかわからない」「どう対応すれば良いかわからない」と感じられるのも無理もないことだと思います。

そんな時に「話を聞いて、信じて、そしてそばにいてくれるだけ」でいいのです。それが摂食障害の娘さんが一番必要としている両親からのサポートになるのです。

 

「何が実際に起きているのかはよくわからないけれど、でもいつでも助けになるよ」と、私の両親はよく言ってました。
私たちのことを、本当の意味で理解できなくてもいいんです。ただ、私たちのことを信用してくれればいいのです。

たとえば、私が母に向かって、「太っている感じがするの」と言ったとしても、母は、私が太っていないと説得しようとしなくていいのです。
その代わりに、母には、私は本当に太っていると「感じているんだ」という事実を認めてほしいのです。

母には、それがどういう気持ちなのかということは理解できないけれど、でも母は、私の言うことをそのまま受け入れてくれます。それが私には必要なことなのです。 

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんはお母さんに「私は本当に太っていると感じている」ことを認めてほしいと言ってます。

8つの秘訣』のP.136「「太っている気がする」は本当に気持ち?」に、「あなたが「太っている気がする」と言うときに、他人である私たちがその奥底には何があると断定することはできません」「「太っている気」は実際の体重や体型とはまったく関係なく、むしろ不安や周囲からの評価、居心地の悪さが入り混じった歪んだ思考と関係していることがわかります」と書かれている、このような患者さんの心の状態を妥当なものとして認めてあげることが必要なのですよね。

 

院長

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME