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摂食障害と過敏型自己愛傾向からの回復

[2020.07.06]

メンタライゼーションと自己受容で過食嘔吐と向き合う』で、エド(摂食障害思考)に仮託された「自分自身に対する絶え間ない批判」は、その根底に「空虚な自己(自分の弱さ)」と、それを守るための「誇大的な自己(自分の方法へのこだわり)」があることを説明しました。

 

自己批判を続けているにもかかわらず自己に執着し、他者からの評価に過敏になり、ネガティブな反すう思考や自己関連づけ(摂食障害思考)によって不安や抑うつが引き起こされます。

さらに、不合理な信念にもとづく自分の方法へのこだわり(摂食障害症状)によって、次第に生活が狭まり適応不全の度合いが強くなっていきます。

 

他者の反応に敏感で、注目されるのを避けようとする特徴は、「過敏型自己愛傾向」といわれています。

誇大性を認められたい欲求や、理想化された対象になりたい欲求が満たされないと、少しのことで傷つく不安から、承認を求める欲求を意識から排除して抑圧してしまいます。

 

傷つきやすさの根底には、ジェニーさんも感じていた「自分は特別な存在」と感じる誇大自己が潜んでいて、対人関係困難の原因にもなります。

つまり、同じ1人の自分自身の中に、高すぎる目標という誇大的な部分と、自己評価の低さや空虚感という矛盾が併存しているのです。

 

第二に、エドと一緒にいれば、私は特別な存在で、ユニークで、ほかの誰とも違った存在でいられます。だからきっと、私の中のその小さな一部は、エドが約束するものにあこがれているのだと思います。

その小さな一部は、だめな人間にはなりたくないのです。特別な存在でいたいのです。そして、すべてを自分の手でコントロールしていたいのです。

(中略)

エドから離れるにあたって何よりも惜しまれたのは、私が特別な存在だと、エドが私に感じさせてくれたところです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

摂食障害(エド)が約束する「自分は特別な存在」は、潜在的特権意識と言われます。

他者から「やせているね」と特別の敬意を向けられる期待が満たされないと、心理的安定や自己評価を保てない脆弱性(自己緩和能力の不全)があるのです。

 

他者から「やせている」と承認・賞賛してもらうことに過度に依存する(他者からの承認・賞賛への過敏さ)反面、注目を浴びることや自己を顕示することに対して自己嫌悪を感じるため、顕示を抑制しがちになります(恥傾向と自己顕示の抑制)

一回り小さなサイズの服を着ることができるかどうか悩むことと、実際には体型を隠すようなダボダボの服を着るような、矛盾した側面があるのです。

 

これらの過敏型自己愛傾向の特徴は「自己愛的脆弱性」と呼ばれます。

自己愛的脆弱性とは、「自己愛的欲求(≒承認や賞賛の欲求)の表出に伴う不安や、他者の反応による傷つきなどを処理し、心的安定を保つ力が脆弱であること」とされています。

自己愛的脆弱性のために、自己を方向づける目標が希薄になり、空虚感を体験しやすいので、ますます摂食障害行動にしがみついてしまうのです。

 

ジェニーさんも摂食障害行動(エド)にしがみついてしまう心の状態について振り返っていますよね。

 

エドにも、離れたくないと思わせる部分がいくつかありました。

心の中に苦しい思いがあったとき、すぐに過食すれば何も感じなくなるのに、それをあきらめなければいけないことは、私にとってはなかなか大変なことでした。
過食をすることによって、私はそれまで感じてきたストレスから解放され、現実から離れて、すべてが何も問題ないような気分になれたからです。

代償行為についても同じで、嘔吐にしても、過剰な運動のような間接的な形にしても、あきらめるにはそれなりの努力が必要でした。
私にとって嘔吐は、過食を帳消しにしてくれて、体重が増えるのを防いでくれる魔法の解決策のようなものでした。嘔吐をすると、ほっとするのです。

もちろん、拒食したときの飢えから生じる気分の高揚や、一見すべてをコントロールできているように思えるニセの感覚も、失うには惜しいものでした。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんが体験した自己緩和能力の脆弱さ(自己愛的脆弱性)、不安や緊張を自分で緩和する力の弱さについては、どのように向き合っていけばいいのでしょうか?

 

摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』には「乱れた食行動を克服する第一歩としてやらなければならないのが、自分自身を見つめ直し、正しく理解することです」と、「丸太の代わりとなるスキルを発達させることが必要不可欠」と説明されていますよね。

 

摂食障害行動は自己愛的脆弱性、つまり不安や緊張を緩和する方法でした。

丸太の代わりとなるスキルを発達させるために、まず、「身近にあるストレス対処法の選択肢やスキルがどれだけ限られていたか」について振り返りますよね。

 

前は失いたくないと思っていたエドのそうした部分も、今ではもう惜しくありません。

私は、エドの代わりになるものを人生でいろいろと身につけてきました。

エドがいなくても、私は自分がかけがえのない存在だと感じられるようになりました。

自分がいろいろな意味で唯一無二であることを知っています。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

摂食障害の対人関係療法による治療では、「単に生き抜くだけでなく、やりたいことをして人生を楽しむことを可能にしてくれる、新たなスキル」を学び、「新しい目標は充実した人生を送ること」である「自己を方向づける目標(ライフ・ゴール)」を明確にして、摂食障害者としての生き方から、人生の価値や目的に沿った生き方に変えていくことに取り組んでいくんですよ。

 

院長

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