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摂食障害と気分変調症の脳内劇場からの抜け出し方

[2019.12.02]

過食・嘔吐と慢性うつ病と脳内劇場』で紹介した「心的等価モード」とは、思い込みや決めつけ、思考や解釈にとらわれて真に受けた状態、脳内劇場、などと考えると理解しやすいようです。

 

リワーク(職場復帰)プログラムと自分の考えとの向き合い方』で例を挙げているように、「朝、出勤すると上司が不機嫌そうな顔をしている」という出来事に対して、「上司の気に触る何かをしてしまった」と考えて、それ以外の可能性を考えられない状態が「心的等価モード」です。

 心的等価モードから抜けるための方法として、「主語に注目する方法」、「他者の立場で感じてみる方法」、「考えの有効性を吟味する方法」を紹介しましたよね。

 

 こころの健康クリニック芝大門の「対人関係療法外来」では、神経性過食症や過食性障害、気分変調症の患者さんたちがいらっしゃっていて、また「メンタルヘルス外来」では、うつ状態やさまざまな不安障害、トラウマ関連疾患、発達障害(ASD)の患者さんたちを診ています。

「職場復帰支援プログラム(リワーク)」では、うつ状態や適応障害に限定せず、摂食障害や気分変調症、不安障害などさまざまな患者さんたちを受け入れていますが、これらの患者さんたちには以下に挙げる共通点があるのです。

 

1. 内省する(自分の心をふり返る)ことが苦手で、考えを現実と思い込み、とらわれてしまう(脳内劇場)

2. 感情の言語化が難しく(アレキシサイミア)、感情の直面化を避ける(感情体験の回避)

3. 自己評価が低く(ネガティブな自己評価)、「⾃分は○○だ」という⾃⼰限定の罠にはまっている。

4. ネガティブな考えや感情、およびそれらを引き起こす状況や対人関係を逃避・回避する(遠ざかり境界型自己障害)

5. 人間関係の形成・維持そのものに魅力を感じない(他者の精神状態の理解が難しい:メンタライジング・スキルが乏しい)

 

これらの共通点が「病気の部分」の特徴だとすると、「健康な部分」との間に衝突が起きている状態が、神経性過食症や過食性障害、気分変調性障害、さまざまな不安障害、発達障害(ASD)の特徴と考えることができます。

 

上記1の心的等価という一つの見方に固着した状態から、多重的な複数の見方ができるようになるには、どうすればいいのでしょう?

 

演劇の舞台を観ているとき、私たちはそれが人工的な設定と俳優の演技によるものであること(外的現実)を知っていながら、それをまるで本当であるかのように体験する(内的現実)しますよね。

このように、内的現実と外的現実を同居させることができるようになるためには、心をどうトレーニングしたらいいのでしょう?

 

頭の中で暴走している感情をともなった思考の反すうに対して、日常的な意味概念へのとらわれ(固定観念)から解放され、自由に行動できるようになることと同時に、すでにある人生の意味をあらためて見出していくプロセスへ移行していく必要があります。

 

上記の5つの特徴に対して、とり組んでいく課題は以下の5つです。

 

1. 思考、想像、記憶から⼀歩下がり、振り回されるのではなく、距離をおいて眺める。

2. 現実と⼼の中、そしてその両⽅に、意識を向ける対象を柔軟に変えられるようになる(注意の切り替え)

3. 思考や感情を観察する「視点」(客観視)を獲得し、思考や感情が動き回る「⼼の枠組み」を広げる。

4. 苦痛を伴う感情や身体感覚に⼼を開き、受け⼊れる場所を作り(⼼の枠組みを拡げる、気分耐性を高める)、あるがままの状態にする。

5. 価値を尊重し、効果的な⾏動を取り続ける(人生の目的)

 

思考や感情、あるいは身体感覚(情動)を、名づけ(分節化)ずに感じるプロセスをたどると、言語化がバックグラウンドに退き、善悪好悪の判断が弱まり、図(前景)地(背景)との感じがわかってきます。

さらに、思考や感情、感覚に気づいた意識そのものが広がりのある空間として感じられ、多層的な意識状態があることも体感できます。

思考や身体感覚も、たくさんのモニターに映る映像みたいな感じで、その中心にある灯台みたいな意識が、それぞれのモニター画面に光を当てている感じ(注意と意図の方向性)がわかります。

これが俯瞰というか、モニターに触れつつ巻き込まれていない意識状態です。

 

左の図を見てください。(ailoveiさんの世界中の不思議なだまし絵・かくし絵84選からお借りしました)

何が見えますか?

 

認知心理学では、注意を向けたために全体から浮かび上がって明確に知覚されるものを「図(フィギュア)」、背景を「地(グラウンド)」と呼びます。

 

心的等価から抜け出した状態は、いわば、この「図」と「地」を反転させることのできる心の柔軟性であり、また同時に、どちらかを知覚している意識の存在そのものを単純に認識できる状態です。

 

牛を見ている、牛の顔に向き合った人の横顔を見ている、など、さまざまな体験(感知したものだけでなく、それに対する反応も決定する過程)と同時に、自分はそうしたものを眺めている主体だと感じる体験(起きていることに対するあるがままの認識)、この2つが一緒に活動している状態です。

 

思考と考えている人、感情と感じている人、記憶と覚えている人を明確に区別しつつ、恣意的な概念的言語のとらわれが弱まり、精神活動を丸ごと含む大きな自己の感覚をもった状態です。

 

からだのシューレの『NO.23 摂食障害と3人の回復者』で、自分の力で摂食障害から回復された3人の話を読むと、「自己の感覚」の回復がどれほど大切かということが、よくわかると思います。

 

対人関係療法外来で行っている50〜60分の面接の中で、このような心のトレーニングにより方向づけた心の状態を日常生活の中で試していくのが、こころの健康クリニックで行っている対人関係療法による治療のエッセンスなのです。

 

言葉で説明するのは非常に骨が折れますね。
面接室の中で心が動いた瞬間に、あぁ!そんな感じ!と指し示す方が分かりやすいですから、クリニックの面接の中で実際に体験してみると、どんな感じなのかが直接体験できそうですよね。

 

院長

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