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摂食障害と強迫観念の対人関係療法による治療

[2020.12.21]

2008年から対人関係療法を学びはじめて数年経ったときに、摂食障害の6割に強迫性障害の併存があるという論文を読んで、摂食障害の6割は対人関係療法の適応にならないのか⁈と愕然としたことを『摂食障害の対人関係療法による治療の特徴』で書きました。

 

実際、摂食障害、とくに過食やむちゃ食い、過食嘔吐の治療を希望してクリニックを受診された方に「エール・ブラウン・強迫観念・強迫行為尺度」検査をやってみると、ほぼ全員に強迫観念があることがわかりました。

 

さらに、神経性過食症と誤診されることの多い「排出性障害」や、過食の定義を満たさない「大食」や「ダラダラ食い」の人の背景に「障害性/非障害性の自閉スペクトラム(ASD/AS)」の要素があり、ほぼ全例に抜毛や皮膚むしり、収集、あるいは確認や洗浄などの強迫行為が併存していることがわかったのです。

 

ちなみに、強迫性障害も「障害性/非障害性の自閉スペクトラム」も、アタッチメントのアンビバレンスがありますから、重要な他者とのコミュニケーションに焦点を当てる古典的な対人関係療法の適応にはならないのです。

 

これらの人たちは、「自分自身を客観視することが苦手」で、「考え(思考)と気持ち(感情)の区別が難しい」だけでなく、「摂食障害思考(エド)を現実と思いこみ」「それ以外の考えを選択することが困難」、などの特徴も認められました。

 

摂食障害思考(エド)と同時に出てきやすい思考に「完璧主義思考」があり、それにより引き起こされる思考に、「白黒思考」「べき思考」などがあります。

「白黒思考」「べき思考」はともに、良い/悪い、好き/嫌い、安全/危険などの「評価(ジャッジメント)」に関わっていて、摂食障害思考(エド)の内容を現実と思いこむことを強化しています。

 

試行錯誤のすえ2015年からウィルフリィの対人関係療法のやり方に沿って、「①自分との関係を改善する」「②行動の仕方を変えていく」「③他者との関係を改善する」取り組みを治療に取り入れました。

同じ年に出版された『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』や『8つの秘訣』で、健康な部分と摂食障害の部分の関係を改善していくやり方を「自分自身との対人関係」として扱うことで、対人関係療法の可能性と有用性がすごく広がりました。

 

その後、オックスフォードのグループから発表された「ライフ・ゴール(人生の価値や目的)」を治療焦点にする新しい対人関係療法を使うようになりました。このやり方は『8つの秘訣』の「秘訣8 人生の意味と目的を見つける」とマッチしていますよね。それで強迫性障害の併存例も「障害性/非障害性の自閉スペクトラム」の人も、対人関係療法による治療が可能になったのでした。

 

「排出性障害」や、過食の定義を満たさない大食やダラダラ食いの人など、強迫性障害の併存例や「障害性/非障害性の自閉スペクトラム」の人では、「①自分との関係を改善する」「②行動の仕方を変えていく」に取り組むことが治療のメインテーマになります。

 

対人関係療法で取り組んでいく「①自分との関係を改善する」では、セルフモニタリングを通して、摂食障害思考(エド)や完璧主義思考が、現実では無く頭の中の多くの考えのうちの1つに過ぎないこと、その他にも捉え方があることなどの「多様な見方」を身につけていきます。

 

また、「②行動の仕方を変えていく」は、思考に身体が反応して引き起こされた感情や情動に対して、心の中で抱えておけるだけの「心の枠組みを広げる」ことに取り組みます。これを「(思考や感情に)触れつつ巻き込まれずに一緒にいる」と説明していますよね。

 

ジェニーさんは完璧主義(完璧主義女史)に対して「最善を尽くす」「完璧に不完全でいられる」ことで心の平和を勝ち取ったようです。

 

さて、考えすぎるといえば、完璧主義女史が張り切りだす分野です。

『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』の初版から十周年を記念するこの改訂版を出すにあたって、自分にできるのは最善を尽くすことだけだと改めて気がつきました。

完璧にしようとすると闘いになりますが、最善を尽くしていると、心は平和です。

この改訂版を出そうとしたときにも完璧主義女史が頭をもたげてきて、情報はすべて更新して間違いもすべて直さなければ、とはじめは考えていました。

(中略)

エドと別れるためには、決して完璧主義女史に振り回されないよう心がけましたし、今の私の目標も、完璧に不完全でいられるようにすることだからです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんがいう「完璧に不完全でいられるようにする」ことは、「(思考や感情に)触れつつ巻き込まれずに一緒にいる」ことと同じような意味のようです。(『摂食障害症状のぶり返しから和解へ』参照)

 

このような説明をすると、ほとんどの患者さんが「それは我慢することですか?」と誤解されます。患者さんにとって「耐える」とは、歯を食いしばって「我慢すること」のように感じられるようです。

 

「我慢する」と感情や情動を抑えつけてしまい、心の中で闘いがおきてしまいますよね。感情や情動が心の中で自由に動き回れるように心の枠組みを拡げることが、「(思考や感情に)触れつつ巻き込まれずに一緒にいる」こと、つまり「耐える」ことです。

 

第一に、彼女を強迫的なまでに食べることに追い込む原因であった期待、正義感、激怒、失望、不全感が、滝のように押し寄せてきて悩まされていることを認めて、耐えることができるようになりました。

第二に、自分はふさわしくないという感覚に膠着している状態から解放されました。強引に解放されるのではなく、自分はそうした感情の集合体以上の何かであることを理解して、解放されたのです。

エプスタイン『ブッダのサイコセラピー』春秋社

 

「(思考や感情に)触れつつ巻き込まれずに一緒にいる」ことの根底には、自分は思考や感情そのものではなく、それらは自分の心の中で起きているさざ波に過ぎないこと、そして思考や感情は自分の外にある現実ではないこと、など、自分と自分の心の中の付き合い方、つまり「多様な見方」という心の状態があるのです。

 

院長

※聴心記の摂食障害シリーズは今日が今年最後の投稿です。年明けは2021年1月5日(火)に摂食障害関連ブログをアップします。2021年からは毎週火曜日に、うつ状態からの回復ブログと摂食障害関連ブログを交互にアップしていきます。皆さま、よいお年をお迎えください。

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