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摂食障害とアタッチメントの世代間伝達

[2017.08.29]
摂食障害の患者さんの中には、すでに結婚されていて、子どもさんをお持ちの方もいらっしゃいますよね。 妊娠初期には、悪阻のため食べ物の嗜好性が変わりますが、妊娠中期から後期にかけては、胎児の成長に伴って食事量も増加しますので、妊娠糖尿病に注意する必要があります。 妊娠後期はさまざまなきっかけで過食やダラダラ食いが起きやすくなる時期でもあります。 同時に妊娠にともなって、未解決の問題が表面化してくることもあります。 それはパートナーシップだったり、生まれてくる赤ちゃんとの関係だったり、「愛着(アタッチメント)」に関連したテーマです。  
妊娠すると、食べ物やボディイメージ、そしてセクシュアリティに関してまだ解決されずに残っている問題が大きくなってしまいます。 思春期の頃には体の変化をなかなか認められなかった女性は、新たな生命が成長するにつれて突き出てくるお腹の美しさを、なかなか素直に喜べないでしょう。 まだ心の準備ができないままに女性の体になってしまった人は、妊娠という形でまたしても、自分のことは制御不能だという気持ちが出てきてしまうかもしれません。 食欲や感情を抑え込もうと必死に生きてきた人は、妊娠によって増した食欲や、感情の敏感さがとても危険なサインのように思えてきてしまうかもしれません。 しかし、妊娠中は体の感覚が最も研ぎ澄まされるときであり、いつ食べ始めていつやめるのかといった身体的な空腹のシグナルや、何を食べるべきかといった微妙なことまで教えてくれる、とても良い機会だととらえる必要があります。 (中略) 食べ物や痩せること、ダイエットに集中すること以外に恐怖を乗り越える方法を知らなければ、執着に負けてしまい、体の英知を正しく認識して尊重することはできません。 女性としてのセクシュアリティを、生まれながらに持つ自然とのつながり、そして生命の創造という、その最も大切な力の表れとしてみることができなくなるのです。 ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店
  月経前だけでなく妊娠という変化の時期も、ジョンストン先生は、繰り返し、自分の体の感覚と向き合う時期だと強調されていますよね。 そして、「変化に伴う一時的な恐怖」と向き合うために大切なことは、(1) 起きていることをしっかりと認識すること、(2) それが自然なことだと受け入れること、(3) 解釈や考えではなく自分の心で感じる感覚を指標にすること、(4) 同じ境遇にある他の人やサポートをしてくれる人に話を聞いてもらうこと、などです。 精神分析家であるアンナ・フロイトは「すべての人生段階において、日々の生活における対人関係や出来事は、変化と成長の機会を提供することができる」と言ってますので、いくつになっても摂食障害から回復できるということを、しっかりと理解してくださいね。  
もし自身や自分には力があるという感覚が、痩せていることで保たれていたなら、うつ状態に陥るかもしれません。 いますぐに体重を落とすために運動しなければならないと感じながらも、疲れきっていたり、子育ての忙しさから運動する元気もなかったりするでしょう。 うつを乗り切るために食べ物で感情を麻痺させていた経験があるなら、自己嫌悪感に対処するために、そして次には食行動への嫌な気持ちに対処するために、また無茶食いのサイクルに陥ってしまうかもしれません。 ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店
  小児精神科医のブリュッセルヴァイラー−スターンは、母親と赤ちゃんの関係は、誕生のはるか以前から始まっていて、赤ちゃんとの関係でちゃんと育てられるだろうか?など、「母親としての適格さ」についての不安が高まるといいます。 妊娠中の不安や産後うつという問題は、摂食障害症状を抱える当人だけにとどまるものではありません。 小児精神分析家であったフレイベルクは、幼少期に「外傷的養育体験(愛着トラウマ)」を持つ母親が、赤ちゃんに対して思いもよらない恐怖反応を示し、育児を放棄したり感情を昂ぶらせたりすることがあり、「赤ちゃん部屋のお化け現象」と名付けたことはよく知られています。  
これは、幼少時の自らの母親に対して陰性感情を抱く自己が子どもに投影され、その感情が自分自身に向けられていると感じ、お母さんが子どもに対し恐怖や拒絶感情で反応してしまうものと考えられています。 (中略) お母さんは泣いている赤ちゃんと向き合うとき、そこにちゃんと養育されなかった子どもの自分を投影します。 (中略) 赤ちゃんはヨソモノ自己そのものと認識され、泣きながらお母さんに苦痛を訴えている赤ちゃんは、自分が抱いている自分自身の母親への憎しみを自分に向けていると認識されるのです。 崔炯仁『メンタライゼーションでガイドする外傷育ちの克服』星和書店
  妊娠や出産、そして子育てという24時間体制の休み時間のない孤独な養育環境だからこそ、「周りのサポート(対人関係)」が「母−子関係(対人関係)」に、精神療法的な良い影響を与えてくれるわけです。 周りの人のサポートは単に母親サポートだけにとどまらず、愛着トラウマの世代間伝達(リエナクトメント:再演)を防ぐために必要な「メンタライジング」、つまり心の中で自分と他者の言動の背後にある心理状態(考え、感情、欲求など)に注意を向け認識することにもつながるのです。 「メンタライジング」は、摂食障害から回復するために絶対に必要な、「自分自身との対人関係(自己志向)」とともに「他者との対人関係(協調性)」のバランスをとることでもあるのですよね。   ※思春期のお子さんが摂食障害から回復するには、ご家族のサポートが何よりも必要です。 三田こころの健康クリニック新宿では、新宿御苑前カウンセリングセンターと連携して、摂食障害のお子さんをお持ちのご家族を対象に、お子さんへの対応やコミュニケーションの仕方、親自身の気持ちのメンテナンスの仕方についての【家族のケアカウンセリング】を計画しています。 詳細が決まりましたらHPで案内しますので、もうしばらくお待ちください。   院長
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