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摂食障害という生き方を手放すために

[2018.02.13]

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている摂食障害の対人関係療法による治療で、「なかったことにしたり、かりそめの安心感を求めたりしなくてもいいように、心の枠組みを拡げて気持ちを抱えられるようになり、摂食障害が肩代わりしてくれているなだめたり慰めたりする力を自分自身がもらい受ける」という言い方をしていますよね。

 

「心の枠組みを拡げること」と「なだめたり慰めたりする力」は、『セルフ・コンパッション』の「人類共通といった見方」と「自分への優しさ」にそれぞれ相当します。そしてもう一つ、その土台になるのが「自らの思考・感情・感覚に気づいていること(マインドフルネス)」ですよね。

「自らの思考・感情・感覚に気づいていること(マインドフルネス)」「人類共通といった見方」「自分への優しさ」というセルフ・コンパッションの3つの要素は、【自己志向(自己の次元での成長)】のうち「自己受容(どんな自分も認めることができる)」そのものですよね。

 

「自らの思考・感情・感覚に気づいていること(マインドフルネス)」について、『素敵な物語』では直接は示されていません。しかしよく読むと『8つの秘訣』の秘訣8の内容を示してあることに気づくことができると思います。

 

彼女たちは大きな苦痛や混乱を感じる地点から出発して、自分を痛めつける執着からの解放を求め、内側への旅を始めました。自分のペースで、自分の感情を信頼できる旅の道連れとして、迷宮の中のぐるぐると曲がりくねった道を進んでいったのです。
彼女たちは体の感覚、直観、そして自然のリズムに頼るといったことを学びました。ときにはだらけたり、早めたり、待ったり、休んだりする自然のリズムです。
そして、価値がないと無視されていた自分の一部を再発見しながら新しいスキルを身に付け、生まれ持った強さを取り戻しました。
ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

自分自身の心と向き合うことを「外側に幸せを求めて出ていく旅ではなく、自分自身の内側にある暗闇へと向かう旅」と表現されていますよね。そこで道を示してくれるのが「感情」です。

感情は自分の思考に身体が反応して引き起こされたものですから、摂食障害の治療の第一歩は、自分の感情の扱い方と抱え方、そして、思考とのつきあい方を学ぶことにあるのです。

 

セルフ・コンパッション』2つ目の「人類共通といった見方」ではちょっとわかりにくいので、「生きていく上で避けがたく生じる心の負担や不調を心で受け止める」という意味で「誰しも感じる感情を苦悩に変えない」と言いかえていますよね。

 

お腹を空かせた鬼や貪欲なドラゴンに遭遇しても、殺してしまうのではなく餌を与えて満足させることで、旅を続ける事ができました。
この長く、ときおり困難な旅路を少しでも明るくするには、自分に対する古い見方や人とのかかわり方を改めなければなりませんでした。
かつては役に立っていた、食べ物にまつわる古い癖を捨てる勇気も見つけなければなりませんでした。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

お腹を空かせた鬼や貪欲なドラゴンは、ネガティブな感情のメタファーですよね。このように、生きている上で誰でも感じる感情に対して、抑えつけたりなかったことにしたりせず、受け容れることができるように心の枠組みを拡げていくことが必要になります。

そしてそれらのネガティブな感情に対して、餌を与えて満足させることは「なだめたり慰めたりする力」つまり「自分への優しさ」です。

 

自分という存在の中心にたどり着けたとき、彼女たちは自分の内側に住む、慈愛に満ちた賢い女性に出会いました。その女性は美しくしっかりとした声で彼女たちに語りかけ、心の欲望を満たす方法を教えてくれたのです。
優しく照らす月の光に導かれ、迷宮から抜け出て世界に戻ってくる旅の途中で、彼女たちはどんどん自分が強くなっていることに気づきました。
新たに見出した自分自身を誰にも踏みにじられないように、自分にとっての真実を何度でも話し、何度でも境界線を引く勇気を手にしました。
というわけで、帰り道を見つけたのは彼女たち自身だったのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

摂食障害は「心の病気」であると同時に「生き方(心の成長)」の問題でもあるのです。ですから「自尊心(自己に対する肯定的評価)」ではなく、【自己志向(自己の次元での成長)】が重要になってくるのです。

 

人生の物語は、私たちの人生そのものです。
ですから、乱れた食行動を克服しようとしている女性たちにとっては、物語をもう一度見直し、自分自身や自分の行動への新しい理解でもってそれを組み立て直していくことが大切です。そうすることで、物語を話すうちに表に出てくる、細々としたことの裏側にある内なる真実の声が聴けるようになります。
痩せていることへの執着やチョコレートへの飢え、そして食べ物を詰め込まなければいけないという思いが象徴しているものが垣間見えるようになります。
葛藤やアイデンティティや欲望に関する悩みを、分別という硬い光の下でなく、真実を照らし出してくれる柔らかく優しい月明かりの下で話すことができるようになるのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

北九州医療刑務所の瀧井先生が摂食障害学会のニュースレターに連載されている「摂食障害にまつわる問題点と提言」にこう書いてありました。

 

筆者は、摂食障害は単に病気と言うよりも、生き方であると考えています。「摂食障害という生き方」です。ですから、私は治療において、患者さんの生き方に問いかけます。
嘔吐が自分のやったことをチャラにする(つまり、体重が増えるようなことをしているのに、その結果から安易に逃れる)、卑怯な、責任を取らないやり方であることを話します。
「あなたはずっとそのような生き方をしてきたのです。今もしているのです」と言います。そして、「そのような回避的な生き方を続けていては、摂食障害が治ることはけっしてない」という事実を告げます。
(中略)
「それ(ここでは、嘔吐)をやっていては、病気は治らない。だから、やめる必要がある」と言ってくれる治療者と、「症状だから言っても仕方ない」と容認する治療者では、治す力が全然違ってくるのです。

 

摂食障害という生き方を問い直し、評価(ジャッジメント)を手放して、見いだした新しい自分自身と、自分と考え方の違う他者を認める「境界線(協調性)」を身につけて、新たな人生を歩み始めていただきたいと願っています。

 

院長

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