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摂食障害からの回復の土台になる規則的な食事の確立

[2020.07.13]

こころの健康クリニックで行っている摂食障害の一般外来、対人関係料外来ともに、《BMI: 16.5以上で、3食の食事摂取ができているなど、脳の栄養状態が改善し、[神経認知機能(記憶・注意・遂⾏機能など)]と[社会認知機能(他者の意図や性質を理解する対⼈関係の基礎となる精神活動)]の問題がなくなった方》としていますよね。

精神療法を進めていくうえでは、脳の栄養状態の改善が必要不可欠です。

 

生物—心理—社会モデルで説明しているように、安定した対人関係や社会適応は心理状態の安定の上に成り立ち、心理状態の安定は身体状態の安定の上に成り立ちます。身体状態や脳の栄養状態は、心理学的な安定や対人関係・社会適応の大元になる最も大切な土台なのです。

そして忘れてはならないことは、「規則的に食事を摂ること」が大切なのであって、高額なサプリを飲むことではない、ということも覚えておいてくださいね。

逆に、身体の状態が安定していない場合、たとえば、飢餓状態を考えてみると、生命維持のために食べ物を探し摂取することに総力を注ぎこみ(過活動)、代謝を落としてエネルギーをキープしようとする(逆に太りやすくなる)のは、当然のことですよね。

 

こころの健康クリニックでは、気分が落ち込んで、会社に行くのが辛いと訴える過食嘔吐の患者さんに、社会リズム療法を応用した行動記録をつけてもらうことがあります。

このような患者さんの食事リズムをみてみると、朝は食べない、昼は忙しいので簡単なパンやシリアルで済ませている、でも帰宅するときにコンビニやスーパーで食べ物を買い込み、帰る途中から食べ始め、夜は過食嘔吐を数回繰り返してしまう、そして、朝は食欲がなくて身体も怠く、会社に行くのがすごく苦痛、そんなパターンが多いようです。

 

そのような患者さんには、摂食障害の認知行動療法ステージ1「規則的な食事の確立」に取り組んでもらいます。過食嘔吐はすぐには改善しないとしても、朝と昼の食事をきちんと摂取するだけで、出社困難はずいぶんと改善されるのです。

 

当然のことながら、摂食障害の患者さんは、食事摂取に対して大きな抵抗が出てきます。

 

摂食障害で回復の道を進んでいくときには、必ずどこかで食べ物が話題になります。

遅かれ早かれお楽しみや余興は終わってしまい、気がつけば、料理が盛られたお皿をじっと眺めていることでしょう。

食べないといけないのはわかっています。それなのに、エドは他の選択肢をいくつも提案してくるのです。エドの選択肢はとても多様で、料理には一切手をつけないパターンから、全てを平らげた後でさらにいくらでも食べ続けるパターンまであります。

 

食事のリズムを軌道に乗せて、上手に維持していくことは、とても難しいものです。

私もそうでしたが、食事に関して押し寄せてくる感情は、高まったり、落ち込んだり、またコロコロと変わってみたり、たくさんの紆余曲折があるでしょう。

でも、ひとたび安定して食事プランに従えるようになると、最後には、本当に自由でエネルギーに満ちた感覚が湧いてくるはずです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

頭ではわかっていても、食事のリズムを軌道に乗せることには、すごく抵抗を感じてしまいますよね。

摂食障害思考(エド)が、「食べると太る」と耳元で囁くからです。

 

しかし、乱れた食行動を続けるという行動によって、「価値や目的に沿った生き方(ライフ・ゴール)」にとって、短期的、長期的にみて、どの程度役に立っているか、どの程度重要かを、一度立ち止まって検討してみる必要があります。

 

乱れた食行動の克服において重要なのは、抵抗があってもそれを非難するのではなく、抵抗の背景に潜んでいる理由を探るなど、ある意味、抵抗を尊重することです。

克服を遅らせ、症状を長引かせ、克服の道のりの障害となっているように見える行動でも、何か裏に重要な意味や意図が隠されている、ということをしっかりと理解しなければなりません。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

乱れた食行動を変えられない「裏に隠されている重要な意味や意図」が、『過敏型自己愛傾向と摂食障害からの回復』で説明した「不安や緊張を緩和する方法」でした。

 

「不安や緊張を緩和する方法」としての不食や拒食、あるいは過食や過食嘔吐が、人生の価値や目的に沿った生き方につながっているかどうかを吟味したうえで、摂食障害から回復するために、見ないように目を逸らしていたイヤな部分ときちんと向き合う必要があります。

 

目の前にあるのは、食事プランに忠実に沿った栄養バランスが申し分ない朝ご飯です。わたしはそれをじっとにらんでいます。絶対に食べたくありません。

それなのに、私にとっては今はそれを食べることが何よりも必要なことなのです。

これは、回復への道を進んでいくときには誰もが必ず向き合わないといけない、あまり楽しいとは言えない部分です。

(中略)

皮肉でもありますが、回復への過程でのあまり楽しくない部分こそが、最終的に、あなたの人生を実に豊かで楽しいものにしてくれるのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんは「回復への過程でのあまり楽しくない部分」こそが、取り組む課題であると言っていますよね。

生物—心理—社会モデルで、今現在の向き合うべき課題が、身体状態の安定なのか、心理状態の安定なのか、対人関係の安定なのか、ステージを明確にする必要があるということです。

従来の対人関係療法のやり方では「生活習慣に焦点をあててしまうと患者さんが直視しなければならない対人関係の問題から逃げやすくなってしまう」と、生活習慣や食事の問題は扱わなくても回復できる、と誤解を生む表現をしてありました。

 

もちろん、対人関係の安定が課題の人にとっては、別の領域の課題は回避を支える理由づけとして作用してしまいます。

一方、食事リズムの確立や生活習慣に向き合う必要がある人に対人関係の課題を与えてしまうと、直視しなければならない食事の確立や生活習慣の問題から逃げやすくなってしまうのです。

 

逆に、治療初期に一過性に摂食障害の症状がひどくなったように感じられるのは、見ないように目を逸らしていたイヤな部分ときちんと向き合えている証拠でもあるのです。

 

摂食障害の対人関係療法による治療では、認知行動療法と同じように、「自分自身との関係を改善する」「行動の仕方を変えていく」「他者との関係を改善する」のうち、「自分自身との関係を改善する」こと、つまり、自分自身の身体と心との向き合い方を省みながら、食行動の仕方を変えていくことから取り組んでいくんですよ。

 

院長

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