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摂食障害からの回復と自分と他者の境界線

[2017.11.06]
8つの秘訣』に「「食べものとの関係と、どのように人間関係を築くかは、そちらもその人の特性と「人となり」に基づいているので、自然に似てきます。(中略)こうした関連性があるので、人間関係の築き方を変えると食べものとの関係も変わってきますし、逆もそうだと言えるのです」とあります。 『素敵な物語』でも、対人関係の中で自己主張の練習をすることで、食べ物との関係が変わってくることが示唆されていますよね。  
自己主張は、乱れた食行動よりもはるかに効果的な対処スキルです。 練習を重ねるにつれ、自己主張が食べ物や食行動との関係にどれだけ大きな影響をもたらすかがわかってきます。 自分が望む物事を頼めるようになると、心理的な飢えを認識して見つけ出し、それを適切なやり方で満たすことができるようになり、食べ物に頼ることが減ってきます。 ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店
  キースラーの「対人コミュニケーション理論」に根ざした対人関係療法では、コミュニケーション・スタイルと対人関係をみていき、メタ・コミュニケーション(コミュニケーションについてのコミュニケーション:「コミュニケーション分析」に相当)を通して、対人関係の修正に取り組んでいきますよね。  
摂食障害の人にとってコミュニケーションが大きな課題だということはここまででおわかりいただけたと思いますが、そもそも摂食障害の症状そのものが、一種の非効率的なコミュニケーションであることに気づかれたでしょうか。 (中略) 病気の症状というのは、一種の「非言語的コミュニケーション」という見方もできます。しかし、正確に理解されることはまずないコミュニケーションパターンだと言えます。特に、摂食障害の場合の症状は、本人が望んでいるのとは逆の状況を作ってしまうことが多いのです。 水島『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店
  つまり対人関係療法は、「コミュニケーション::対人関係::食べ物」の関係を変えていくことを摂食障害の治療焦点にしていますよね。 『素敵な物語』の「自己主張 —— 自分に正直であるということ」で説明されているのも、対人関係療法と同じ「自他境界の確立」ということのようです。  
嫌なことにNOと言えるようになれば、他人との境界線も引けるようになります。 「私のニーズはあなたのとは違う。だからといって、どちらかがより大切ということではない」と言えることで、他人との境界線を確立することができます。 これができると、安心して制限を設けることができますし、深い人間関係もより安心して築けるようになります。 より深い人間関係が持てるようになればなるほど、孤独感を食べ物で解決することも減ってきます。 自己主張は、人間関係における食い違いへの対処法でもありますので、対立を防ぐために頼っていた食べ物や食行動の必要性も減っていきます。 真の問題を話し合ったり、解決策を求めたりするうえで障害となるような非難や言いがかりから一歩身を引くことができるようになります。 同意するのも反対するのも、自分の自由だということに気づけるのです。 ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店
  「境界線」は、他者に肩代わりしてもらえる領域と自分の問題の領域の境界線、つまり「自他境界」のことです。 重要な他者やパートナー、あるいは親密な友人は、境界線の中に立ち入ることはできませんが、内側の様子を映し出してくれ(つまり共感して)、良き理解者として振る舞ってくれます。   しかし、自分の「境界線」の感覚がはっきりしていない(内側と外側が連続している)と、さまざまな対人関係上の問題が生じてきますから、「過食症」「むちゃ食い症」の対人関係療法による治療でもテーマとして取り上げますよね。   「あの人はこう思っているに違いない」との不安を感じなくて済むように、対人関係を遠ざけている場合(回避-軽視型)は、「対人関係の欠如(対人関係過敏)」をテーマにして対人学習に取り組んでいきます。 一方、「自分の苦悩を丸ごと抱えてくれるのではないか」と幻想を抱き、対人葛藤が高まる場合(アンビバレント-とらわれ型)では、「対人関係上の役割をめぐる不和」をテーマに、コミュニケーションを通して役割期待を整理していきます。   皆さん、ここで疑問を感じませんか?   コミュニケーションの問題、とくに自分の感情を表現して伝えることの困難さは、摂食障害の患者さんだけでなく、統合失調症やアスペルガー症候群、パーソナリティ障害、強迫性障害など、ほとんどの精神疾患でみられますし、これらの疾患の患者さんたちも、例外なく対人関係の問題を抱えていらっしゃいますよね。 さらに、病気の人だけでなく、自分の内面に向き合って気持ちを言葉にする作業をやったことのない一般の人(とくに男性)は多くいらっしゃいます。   コミュニケーションや対人関係の問題は、一般の人や多くの精神疾患(上に挙げたさまざまな疾患は、対人関係療法の効果が実証されていません)で認められるものの、摂食障害、とくに過食症やむちゃ食い症でクローズアップされるのは、なぜなのでしょうか? このことは対人関係療法の適応にも関する非常に重要な問題なので、次回も【自己主張〜自分に正直であること】を読み進めていきましょう。   院長
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