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排出性障害と回避・制限性食物摂取障害

[2015.03.16]

DSMでは、体重や体型をコントロールするために習慣的に排出行動を行うが、過食はみられないものとして「排出性障害(purging disorder)」が概念化され、DSM-5では「他の特定される食行動障害または摂食障害」のなかで扱われています。

 

この「排出性障害」は、「嘔吐を伴う過食症」との差違を明確にできないとされていますが、実際の臨床では、まったく別の疾患と感じられます。

「排出性障害」では過食はみられないとされていますが、自己誘発嘔吐やチューイング(噛み吐き)を続ける過程でだんだんと摂食量が増えていくことはよくみられるのです。

「排出性障害」の患者さんも、太りたくないからとおっしゃいますが、摂食障害でみられる「やせ願望」「肥満恐怖」とは異なり吐くことで罪悪感がスッキリする、のように代償行為というよりも「浄化(purging)」の文脈であり、さらにチューイングはやめるつもりはない吐くことが楽しい、とのめり込む人もいます。

 

「排出性障害」は、小児期には「反芻性障害(吐き戻し)」で、女児の方が男児よりも多いとされ、口唇または咽頭の刺激が習慣になり、手持ちぶさた(余暇刺激)に対する気分不耐のためそれに没頭してしまうのではないか、と推測されています。(排出性障害と抜毛や他の強迫行為の併存を認めることも多いです)

口唇または咽頭の感覚過敏を伴うことが多いため病歴を詳しく聞くと、「排出性障害」単独ではなく「回避・制限性食物摂取障害」や、グレート・オーモンド・ストリート・クライテリアの「食物回避性情緒障害」や「選択摂食」を伴うことが多いようです。

ある自閉症スペクトラム症の患者さんは、小さい頃から食べものや状況に関して好き嫌いが激しく、運動はきわめて苦手で、さまざまな「確認行為」や、思春期の頃から「抜毛」をするようになりました。

大学卒業後に仕事が長続きせずに転職を繰り返すことに疲れて実家に戻った頃から、外では何でも食べることはできるのですが、お母さんが作った食事は一切食べることができなくなり、家では自分で決めたお菓子以外は食べなくなりました。(偏食:食物回避性情緒障害)

一日中、ダラダラと同じお菓子を食べていたところ(余暇大食)、夜中に身体が重く感じて、それが耐えられなくなり嘔吐したところ、罪悪感もスッキリ吐けた感じがしてそれから、嘔吐を繰り返すようになりました。(排出性障害)

普通の食事も嘔吐するようになったため、精神科のクリニックを受診したところ、うつ状態と摂食障害と診断され、抗うつ薬や抗不安薬、睡眠薬を処方されましたが、効いている感じはなく通院しなくなったということでした。
その状態が数年続き、徐々に吐く体力がなくなり、自然に自己誘発嘔吐は消失したそうです。

このケース(いくつかのケースの合成です)のようにさまざまな不適応を起こしやすく、常に緊張を抱えていて、不安、強迫症状、恐怖症(特定の食物に対する恐怖など)が身体化しやすい傾向があるのが「食物回避性情緒障害」です。

それに加えて、一度、身体症状が出現するとそれに固執し続ける傾向(常同行為≒強迫)がみられ、このケースは自己誘発嘔吐という症状になっていますが、チューイングも同じで「排出性障害」として持続したようです。(抜毛も同じメカニズムのようです)

このように食行動異常を診るときには単に、過食や拒食という食行動のみで判断するのではなく、かならず文脈を把握して診断する必要があるのでもともとの感覚過敏性やこだわり(固執)ややせ願望やボディイメージの障害の有無を診ていく必要があるということですよね。

 

院長

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