メニュー

成人発症の気分変調性障害(慢性うつ病性障害)

[2013.05.13]

『如実知自心』の「さまざまな「慢性うつ病性障害」3」で、21歳以前に発症する早発型・気分変調性障害は

1.思春期うつ病(気分変調性障害・中核群)
大うつ病エピソードとして発症あるいは、気分変調性障害として発症(14~16歳)

2.愛着/トラウマ関連の慢性うつ状態を呈する群
「性格スペクトラム障害」「不安型気分変調症」として発症(5~8歳)

3.自閉症スペクトラム障害を背景に持つ適応障害群
「軽症感情病性気分変調症」「無力型気分変調症」として発症(5~8歳)

の3タイプに分けられることを書いています。

21歳以降に発症する晩発型・気分変調性障害は、多くは大うつ病エピソードの遷延化として発症します。

晩発性の患者が思い出す早期の記憶を詳しく見てみると、彼らが報告している発達史は、早発性の患者のものよりも軽度であり、あまりひどいものでもない。
晩発性の患者は、1人ないし複数の大人に愛される環境で成長しているし、成長を助けるような関係も築けている。
これらの患者は、先行する気分変調症を伴わないことが多い。
また、患者は臨床家に、初発の大うつ病エピソードは25歳頃に出現したと語ることが非常に多い。
そして、彼らは、うつ病の原因となったストレスの強い出来事を特定できることのほうが多い。
最近の研究からは、ほとんどの晩発性の症例が、初発のうつ病として治療を受けて完全寛解していない成人患者の20%に含まれることがわかっている。
エピソード性の障害が慢性の経過をたどることになるのである。
『慢性うつ病の精神療法』ジェームズ・マカロゥ

つまり、20代半ば(多くは25歳頃)に大うつ病エピソードとして発症し、その約20%が遷延化、慢性化し、晩発型・気分変調性障害(慢性うつ病性障害)に移行するということですよね。

 

すでにピアジェのいう「形式的操作期」まで発達した成人が、いかにして「前操作期」まで退行するのかについて、マカロゥは

不快気分(寛解しない大うつ病エピソード)の容赦ない攻撃のために認知—情動機能が崩壊し、前操作的機能に引き戻されている。

という仮説を立てています。

ちょっと長くなりますが、引用します。

ピアジェとチケッティらの示唆に沿って考えれば、改善しないうつ病の情動状態のために、晩発性の成人患者は、自分が住む世界に対してはどうすることもできないし(絶望感)、問題を解決することもできない(無力感)と結論づけるようになる。コントロール不能の不快気分(大うつ病)による「その場の」苦痛は強烈で、構造化されている患者の正常な世界観が崩されていく。

晩発性の患者はうつ状態のジレンマを解決するための他の効果的な対処法がないと結論づけて、うつの引きこもり期に入り込んでしまう。晩発性の慢性うつ病患者は、一度は抱いていた将来への展望(早発性の症例は一度もそれを獲得したことがない)を失ってしまい、「今の状態はこのままずっと変わらない」と結論づけてしまう。

悪化のプロセスが次々と進んでいく中で、患者は次第に圧倒的苦悩にさいなまれるようになる。患者の認知—情動知覚は、その時の不快気分の混乱とつながり、その結果として、それまで正常に機能できていた人が「大人の子ども」へと変わってしまうのである。

無力で絶望的だというその時の知覚が、彼らのスナップショット的現実になる。患者が「私はこれからもずっとこのままだ」「変わるという希望などどこにもない」などというのも無理はない。

こうした人たちは次第に、その時の気分の問題を和らげうる他の方法や視点(例:「クビになったのはつらいけれども、また雇ってもらえるだけの技能を自分は持ち合わせている」「子ども達はまだ、私が彼らの要求に応えることができることを信じてくれている」「妻はこの危機状態にもかかわらず、私のことを愛してくれている」、など)について真剣に考えることができなくなってくる。

その代わりに、かつては適切に世界全体を見ることができていた視点は、強い感情の衝撃によって内部崩壊し、患者は他者から離れて、内に籠もるようになる。有害な晩発性のプロセスは、成人の患者を無力感や絶望感、そして将来がないという感覚に陥らせる。
『慢性うつ病の精神療法』ジェームズ・マカロゥ

うつ病に伴う「絶望感」と「無力感」により内的世界が崩壊し、認知—情動知覚が「前操作期」まで退行する様子がありありと描かれていますよね。

 

晩発型・気分変調性障害の患者では、「形式的操作期」は一度は獲得しているので、「前操作期」に退行したとしても早発型・気分変調性障害の患者とは異なるのではないかとも考えられますが、そうではないのです。

「スナップショット的現実」に閉じ込められた逼塞感は、容易に非適応的解釈(想像)を現実と思ってしまう「認知的フュージョン(現実と想像の混乱)」を引き起こし、現実の出来事から遊離してしまうのです。

要するに、慢性うつ病は非適応的な社会的問題解決と、これに伴う知覚の「盲点」から生じるのである。
知覚の「盲点」とは、患者は自分のすることと自分のすることの外界への影響の間のつながりを認識できなくするものである。
『慢性うつ病の精神療法』ジェームズ・マカロゥ

では、そのような気分変調性障害(慢性うつ病性障害)の精神療法的治療はどう行われるのかを次回からみてみます。

院長

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME