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感情という得体の知れないエイリアン

[2017.05.15]

身体のシグナルを感情として読み解く』で「自己意識が乱れた食行動からの回復の最も大切な鍵」であることを説明しました。

 

「自己意識」、つまりクロニンジャーの七因子の「自己志向(自己の次元における成長)」のうち「自己受容」は、「自分の思考・感情・感覚に気づいていること(内省)」、「誰しも感じる自然な感情を苦悩に変えないこと(回避せず受容すること)」、「自分への優しさ(自慈心)」の3つからなることを、三田こころの健康クリニック新宿では説明していますよね。

「自分の思考・感情・感覚に気づいていること」「誰しも感じる自然な感情を苦悩に変えないこと」ができないと重要な他者とのコミュニケーションが難しいので、三田こころの健康クリニック新宿では『8つの秘訣』を併用した対人関係療法を導入する際に、自分自身とのコミュニケーション(内省)の基礎を教えていますよね。

 

素敵な物語』を読んでもらっている患者さんだけでなく、親御さん(とくにお母さん)も、「感情〜心からの贈り物」の章はよくわからないとおっしゃることが多いのです。この「情調応答性(リフレクティブ・ファンクション)」の乏しさが「愛着(アタッチメント)の問題」とも関連するのかもしれませんね。

 

私たちは、自分の感情に対する恐怖に対処するために、感情を丸ごとブロックするようになってしまいます。自然な流れを止めるダムを造ってしまうのです。
感情から気を反らすために、食べ物を使って強迫的な行動をしてしまいます。感情に気を配ってそれらを感じる代わりに、食べ物や食べることについて考えるのです。もしくは、運動や仕事で気をそらします。
何年もこういうことをしていると、感情を認識する力は執着というカーテンの奥の方へと追いやられてしまい、鈍ってしまいます。そして、まるで感情が私たちを当惑させ、怯えさせるエイリアンのように思えてしまいます。
感情(エイリアン)がいったい何なのかわからず、識別できず、名前を知ることもできません。コミュニケーションをとることもできず、関わることもできなければ、対処法もわかりません。
感情が激しくなって憔悴するまで、その存在に気づきもしません。そして気づく頃には痛みは耐えがたいものになり、孤独感には終わりが見えなくなり、怒りは破壊的で暴力的な形で発散されることになってしまうのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

このように、私たちは自分の中で生じる自然な感情というものを、あたかも異物(エイリアン)のように忌み嫌うことで、「健康な部分」と「病気の部分」という二極化が起き、そこで主導権争いが始まります。

三田こころの健康クリニック新宿では、摂食障害は「健康な部分」が自分の一部を切り離し(スプリッティング)、ダメ出しをすることで発症すると説明していますよね。

 

追いやられ、封じ込められようとしている「病気の部分」は、なんとか気づいてほしくてさまざまなメッセージを送ってきます。

 

どんどん溜まっていく感情と共に生きていると、心が感じるプレッシャーも溜まり続けます。
体の凝りや緊張状態、過敏状態、胃痛や頭痛などはすべて、何年もの間感情を押し込めていることからも起こりえます。

(中略)
過食や嘔吐、無茶食いや拒食、食べ物や痩せることへの執着、そしてファットアタックを引き起こしているのは感情そのものではないと理解することが大切です。私たちが感情を感じないようにしていることが原因なのです。 

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

「自己受容」のうち、「誰しも感じる自然な感情を苦悩に変えないこと(回避せず受容すること)」の重要性が強調されていますよね。

出来事や感情から「気をそらし(拒食)」「麻痺させ(過食)」「なかったことにする(嘔吐)」などの方略(感じないようにすること)が摂食障害症状だということです。

 

乱れた食行動を克服するにあたっては、感情に対する批判を捨てて、感情に「良い」も「悪い」もないと理解することが必要不可欠です。正しい感情、間違った感情などというものはありません。感情は感情、ただそれだけです。唯一「ネガティブな」感情は、自分で受け入れることができない感情です。
感情は理性的とは限りません。なぜこう感じているのかを理解できるときもあります。けれどたいていの場合、理解は、感情を受け止め、経験してはじめてもたらされます。感情の奥深さや幅広さを完全に経験する前に「意味を理解しよう」としてしまうと、混乱したりイライラしたりすることでしょう。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

私たちの気分を悪くするのは他人や出来事そのものではなく、それらに対する私たちのとらえ方です。

つまり、過食や過食嘔吐はストレスを表すものではなく、出来事に反応した感情をネガティブと評価したこと、その感情を引き起こした対人関係や出来事をストレスだと見なしたということなのです。

 

感情は、言うなればエネルギーの波のようなものです。海の波は、満ちては引き、引いては満ちていきます。感情も、潮の干満や月の満ち欠けのように、自然で周期的なリズムを持っています。ピークに達してもまた徐々に落ち着きます。
感情の流れは、生命の流れそのものと同じくらい自然なのです。 

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

ですから、摂食障害の治療では、外的な出来事や対人関係に取り組む前に、混乱したりイライラしたりしたとしても、頑張って自分自身の心の中をよくふり返る必要があるのですよね。

 

院長

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