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対人関係の問題がある場合の休職と復職

[2020.09.23]

さまざまな問題で仕事を休職した後、職場に戻るときには、元の職場・元の業務に戻るのが原則とされています。慣れた環境である元の職場に復職することが望ましいからです。

しかし、元の職場への復職が問題になることもたびたびありますよね。

 

1つは、異動をきっかけに「適応障害(反応性抑うつ)」や「大うつ病」を発症した場合です。

異動という環境の変化によって、職場の中の何がストレスとなっているのか、仕事の量なのか、仕事のやり方や内容が本人の特性とマッチしているのか、どのようなことが負担となって、どのような精神⾯の不調が⽣じたのか、について詳細に検討することが必要になります。

 

こころの健康クリニックで行っているリワーク(復職支援)では、自分自身で必要なセルフ・モニタリング項目を選定し、休職前の状況や出来事と症状の関係について振り返りを行っていますよね。振り返りの中で、柔軟な思考や行動変容ができるようになること(セルフケア)、開かれた対人関係の構築(ラインによるケア)や、職場内外でのサポート資源の活用などに取り組んでもらっていますよね。

 

こころの健康クリニックでは、毎月、職場復帰準備性の評価報告書を産業医の先生にお送りしています。その際に、休職前の職場での勤務の様子はどうだったのか、職場側が捉える課題としてはどのようなことがあるのか、について情報のやり取りを行い、個々のケースの復職について、環境調整を含めて慎重に考えてもらっていますよね。

 

2つ目は人間関係の問題で休職に至った場合です。

ここでは①職場での関係性の問題と、②本人の特性(気質やパーソナリティ)の問題との2つの要因を区別して考える場合があります。

 

「①職場での関係性の問題」は、パワーハラスメント、セクシャルハラスメントに相当する労災認定につながるような出来事で休職になった場合や、顧客や取引先とのトラブル、など、業務上、関わりが必要な特定の相手との対人トラブルがきっかけで休職になった場合です。

このような場合は、トラブルになった相手がいる元の職場に復職することを避けたり、担当を交代してもらったり、部署異動して復職することが望ましい場合が多いようです。

 

「②特性の問題」は、対人関係の課題そのものが休職の原因になる「自閉症スペクトラム(非障害性AS)」や「自閉スペクトラム障害(ASD)」など、発達障害の要素を持っている人たちの問題として考えることができます。

もちろん生来的な脆弱性を持つASあるいはASDであっても、精神⾯の不調を引き起こすことなく日常生活・社会生活を送っている方も多いです。しかし不適応や適応不全が起きる場合は、本人の特性と状況の変化が複雑に関係していることが多いようです。

 

こころの健康クリニックでは、生来的で変化しない特性(気質)と後天的に学習された性格の関係をみる「気質-性格検査」を初診時に行っています。

「生来的な気質」は出来事の体験の仕方を規定し、「後天学習の結果である性格」は出来事の意味づけにより「気質」をコントロールします。この「気質」と「性格」の相互作用から、状況に対する対処法としてのペルソナ(ペルソナの集合体が「パーソナリティ;人格」)が形成されると考えられています

 

たとえば、生まれつき「引っ込み思案」の子が小学校に入学したときの事を考えてみましょう。入学式では在校生や多くの父兄が居並ぶ中、新入生は一列になって前の方に歩いていきます。

生来的な「引っ込み思案の気質」はこの出来事を「こんな見ず知らずの人が沢山いるところには来たくない」と体験します。

一方、幼稚園で友だちができた経験(後天学習した性格)は、「見ず知らずの人でも友だちになる可能性がある」と意味づけします。

この子は、小学校に入学したという状況に対して、通学するという対処行動を取ります。そうすると「ピカピカの1年生」というペルソナが身につき、この成功体験も後天的な学習として性格に取り入れられる、ということです。

 

「適応障害(反応性抑うつ)」と診断されている人の中で、社交不安障害や全般性不安障害などの不安障害の合併がある場合、背景にASやASDの要素があることが多いようです。加えて、後天的な学習が状況に応じて機能していない場合、回避性・強迫性・自己愛性・妄想性など、さまざまなパーソナリティの問題をきたしやすいのです。

これらの要因は、職場復帰支援プログラム(リワーク)を阻害する因子の1つにも挙げられることがあります。

 

リワークプログラムでは、アサーション・トレーニングやグループワーク、ロールプレイなど、対人関係の課題を扱う多くの機会が与えられます。しかし過去の就労経験で集団への適応能力が低い場合は、プログラムからの脱落が起きやすい問題点も指摘されています。

さらに、自己の認識の正しさや他者の意見への親和性、適切でない認知の修正傾向などの「自己内省性」が低い場合や、自己判断や信念の確信の強さ、他者の意見への抵抗感などの「自己確信性」が高い場合には、リワークプログラムの中でこれまでの人間関係の再演による対人トラブルが起きやすいことがわかっています。

 

「上司と合わない」「同僚と合わない」などの理由で休職に至った場合、復職時に部署異動を希望されることがあります。しかし多くの場合、会社に部署異動の希望が受け入れられる可能性は乏しく、それが「主治医の治療方針が納得できない」という問題にすり替えられて再演されることも多いのです。

 

本人の対人関係の特徴を、治療場面から適切に見抜き、対人的な適応力を拡大するような治療的関わりが出来る治療者は少ない。
このような場合には、デイケアやリワークに導入し、集団の中でのふるまいを観察、評価することが、最も有効な手段となる。

(中略)

適切な評価をもとに、主治医が慎重に判断し、意見を提出することが必要である。

増茂「復職に向けて」精神科治療学 27: 増刊号「気分障害の治療ガイドライン」. p300-304, 2012, 星和書店

 

職場復帰時の職場環境の調整は、自分自身の特性への理解に基づくセルフケアとともに、本人の技能や特性に応じた職場環境の調整が必要になるのです。

 

院長

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