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家族システムと対人関係療法

[2013.07.08]

力動的精神療法では、摂食障害患者の内的世界について、「健康な自己」と「病的な自己」があると考えます。

「健康な自己」は「このままではマズい」「なんとかしたい」と現実を判断し回復を希求しますが、「病的な自己」は「やせればすべてが解決できる」と非現実的な万能感を持つとされます。

「病的な自己」が肥大化し、体重減少や痩せの満足感で支配されてしまうと、「健康な自己」は家族などの周囲の人たちに投影されます。

 

病気を治すのが周囲の人たち(家族や治療者)の役目であり、患者さんは病気に支配され、しがみついたままの状態で安定します。
水島先生はこの「自己愛構造体(病理構造体)」を「不健康な安定」と表現されていますよね。
この段階は「前熟考期(ビジター・タイプ)」と呼ばれます。
精神療法を開始するタイミング』を参照して下さいね。

また低体重など、栄養状態が不良であると飢餓症候群のため認知能力や判断能力が著しく低下し、現実検討がさらに困難になり、食行動の修正や栄養状態の改善などの身体的治療も、ますます困難を極め、身体的な危機に陥ることもあります。

 

摂食障害の家族には、自身も食行動異常の既往を持つ人も多く、「健康な自己」を投影された周囲の家族は自分の「病的な自己(心配や不安)」を患者に投影します。

家族は自分自身の問題として引き受けることや、家族関係に目を向けることがなくなり、問題があるのは「病的な自己」に支配された「患者(identified patient:患者の役割を担わされた人)」であり、自分たちはそれを解決しようとしているという思いに同一化し、強制的にでも患者に医療を受けさせようと躍起になります。

これも「自己愛構造体(病理構造体)=不健康な安定」です。

このような家族内力動を家族療法では、家族システムの機能全体に問題があり、それが家族構成員の一人である「IP:患者とみなされた人」の症状として現れているにすぎないと考えます。

 

また摂食障害患者さんもそしてご家族も、対人関係療法が摂食障害という呪いを「浄化」してくれる唯一の方法のように見え、対人関係療法を受けるだけで摂食障害がなくなるという魔術的思考にとらわれている状態でご家族が自分の心配を解消するために患者さんを利用するような構造になっている場合があります。

そのようなときに、ご家族から申し込みで治療を開始すると、患者さんにとっては、家族の言いなりになる治療者と映り[周囲の家族+治療者] vs. [患者+病気]という構図が浮き彫りになりますよね。

逆に、治療者が患者さんの代弁者になればなるほど[患者+治療者] vs. [周囲の家族]という家族力動に取り込まれ、家族からの反動(問題点の列挙)が出てくることが多く、このような「前熟考期(ビジター・タイプ)」や「熟考期(コンプレイナント・タイプ)」では、[患者+周囲の家族+病気] vs. [治療者]という「自己愛構造体(病理構造体)=不健康な安定」が強化されてしまい[患者+周囲の家族] vs. [病気]という本来の治療同盟の構築が困難になります。

 

治療とは、治療者が、患者さんの「健康な自己」に働きかけて「治療同盟」を結び、外部に投影されていた「健康な自己」を再取り入れしていくように促すことですから、その際に患者さんが「前熟考期」、「熟考期」、あるいは「準備期:のどの段階にあるのか「治療準備性(動機づけ)」を診立て、「治療同盟」の構築が可能かという関係性も見極めていく必要がありますし、同時にご家族の「準備性」もアセスメントする必要があるのですよね。

そのため三田こころの健康クリニックの対人関係療法の申し込みは「必ず治療を受けられるご本人が連絡して下さい」と限定しています。

 

また、対人関係療法の治療は、「普段の生活の中で周りの人たちとの関係にどれだけ変化を起こせるか」が治療の本質になりますから、病気や症状のために受診出来ない場合が一番大切な治療に取り組むチャンスになります。(実はこの治療は申込みの時点からはじまっているのですけどね星

その際に、「何が起きたのか(位置づけ)」「本当はどうなって欲しかったのか(期待)」「そのためにはどうしたらいいか?(現状を変える)」ということに取り組んでいただくため、かならず患者さん本人から連絡をいただくようにしています。

 

ところが時々、ご両親が代理で電話をかけてこられることがありますが、これでは「病者の役割」に取り組むべき患者さんの役割を親が代わりにやってあげている(過保護・過干渉)ようなものですし、[患者+周囲の家族+病気] vs. [治療者]の構造になっていますよね。

また児童・思春期の「拒食症(制限型・むちゃ食い/排出型)」には家族療法が第一選択となっていますので、お子さんに治療を受けさせたい受けて欲しいと願われているご家族は、お子さんが治療受けようと思うモチベーションと主体性を損なわないように、まず病気のお子さんのペースを尊重し、お子さんがいつ治療を受けてみたいと思っても大丈夫なように、安全基地となる両親の夫婦関係に先に目を向けておいて下さいね。

院長

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