メニュー

受診相談で困った話

[2022.05.30]

主治医と合わない、話を聞いてくれない、薬だけだされて終わり。。。

 

さまざまな理由で、こころの健康クリニック芝大門に転院して来られた患者さんたちは、構造化面接、心理テストの結果と診断結果の説明、治療方針と投与する薬の説明までの約1時間の初診面接が終わると、口をそろえて「こんなに時間を取って話を聞いてもらえて、ありがとうございました」とおっしゃいます。

 

最初は意味がわからなかったのですが、ある機会に患者さんから聞いたところによると、ほとんどの医療機関では、これまでの経過を15分くらい聞いて、「では、この薬を飲んで様子をみてください」と言われるだけだそうです。

初診は30分にも満たず、場合によっては10分程度で、診断名も告げられないそうです。

 

その話を聞いた時、「それでは診断できないだろう?!」というのが正直な気持ちでした。

でも、もしかすると、多くの名医の先生方は、黙って座ればピタリと「うつ病」や「適応障害」などの診断名がわかってしまわれるので、抗うつ薬か抗不安薬を処方するだけの短時間診療で済むのかもしれません。。。

 

こころの健康クリニック芝大門では、受診申込の際の受診相談で、対人関係療法の専門的なトレーニングも積んだベテランの精神保健福祉士が対応し、お話を聞かせていただいています。

電話で「精神保健福祉士の○○です」と名乗っているのは、対人援助の専門職である国家資格を有していることを明確にするためです。

 

報告を受けて、こういう診立てが考えられるから、こういう場合はこのような治療、ああいう場合はあのような治療、と、ある程度の考えられる治療の方向性についても、精神保健福祉士から伝えてもらっています。

 

症状(症候)は、病気のあらゆる表現で主観的要素を含むのに対し、徴候とは現れた症状から観察者(医師、時には患者自身)が下す判断で客観的要素が強い。

「徴候とは観察された諸症状から観念が引き出す結論である。症状は感覚の領域であるが、徴候は判断の領域に属する」ともいう。

濱田.『精神症候学』弘文堂

 

その際、伝えてもらっているのは、当然のことながら、話してくださった内容からの診立て(症候学)であって診断ではないのですが、診断を告げられたとの誤解も多いのです。

 

症状を具体的に話してもらうことで、たとえばクチコミにもあるように、単なるパニック障害とは考えにくい場合、先に血液検査を受けてきてもらうことで、甲状腺疾患が見つかって感謝されたことも何度かあります。

また、受診相談を受けたことで、安心して初診の日を迎えることができた、と感謝されることもあります。

 

「トラウマ関連障害」の場合は、トラウマの出来事基準(外傷性イベント)を説明し、症状はお聞きしますが、出来事について根掘り葉掘り聞くことはありません。

出来事基準を説明しただけで、PTSDに該当しなくてよかったと安心されたケースもありました。

思いこみが強くない人は、話を聞いてもらうだけでこのように安心されるので、受診相談をカウンセリングと表現される方もいらっしゃるのです。

 

こころの健康クリニック芝大門の受診相談は、診断と治療が必要な場合と、相談やカウンセリングが必要なケースを分けるために行っています。

 

たとえば、人間関係が問題になる場合、たとえば配偶者とケンカばかりしている、配偶者やパートナーに怒って当たり散らしてばかりいる、という訴えの場合、月経前不快気分障害やパーソナリティ障害の可能性も考えられます。

しかし、関係性の問題はお互いの相互作用ですので、解決するにはどちらか一人の個別治療より先に、関係性を扱う夫婦カウンセリングなどが必要になりますよね。

 

「愛着障害」の自己診断と関連しますが、「親が毒親なんです!毒親の影響が続いているので何とかしてください!」という診療申し込みもありました。

結婚されてお子様もいらっしゃり、親と離れて暮らしていらっしゃるにもかかわらず「毒親の影響」というのは、おそらく幼児期逆境体験があって、それを乗り越えられていない、ということをおっしゃりたいのでしょう。

トラウマ体験が語りえないのは当たり前なのですが、症状をお聞きしても「ただ、毎日辛いんです」としか言葉が出てきません。

 

睡眠にも食欲にも問題がなく、仕事もできているんだけれども、ただ「生きづらさ」だけが訴えられるのですけれども、該当する診立てが思い浮かびません。

「フラッシュバック(侵入的記憶想起)」や、それに伴う「過覚醒症状」「回避症状」などがあれば「複雑性PTSD」として、あるいは、不全型複雑性PTSDであれば「発達性トラウマ障害」として治療ができなくもないのですが、「生きづらい」以外の症状が訴えられないので診立てができずに困ってしまいました。。。(『発達性トラウマ障害にともなう自己組織化の障害』参照)

 

この方は残念なことに、治療の対象となる症状が明確でないことから幼少期からの人生を生き直すというカウンセリングを勧めて、受診相談を終えました。

おそらく思い切って申込みの電話をかけてこられたこの方も、モヤモヤとした気持ちを抱えていらっしゃるのかもしれません。ほんとうに役に立てずに申し訳ないと思えるケースでした。

 

あるいは、仕事だけでなく何事に対してやる気がなくなった、という訴えの場合、会社員であれば、勤怠はどうなっているのか、欠勤しているのか、それでも仕事は続けられているのか、仕事のパフォーマンスはどうか、上司から指摘されることがあるのかどうか、をまずお聞きしますよね。

 

そして、思い当たるきっかけや、その他の症状、たとえば他の人から悲しそうだったり、落ち込んでいたり、憂うつそうに見えると言われるかどうか、食欲はどうなのか、寝付きが悪い、何度も目が覚める、朝早く目が覚める、寝過ぎるなどの睡眠の問題があるのかどうか、そわそわして落ち着かなかったり、普段よりもずっと動きが遅い感じがあるのかどうか、一日の内での気分の変動、たとえば朝は気分が悪けれども、夕方から元気になってくるなどがあるのかどうか、を尋ねたりしますよね。(これらがうつ病の診断基準に挙げられている徴候の一部です)

 

こういうこともありました。

やる気がない、意欲がわかない、だから仕事に就けない、という相談でした。どのように生活に困っていらっしゃるかとお聞きすると、やる気がないので何をしていいかわからず、一日中寝込んでいるので、日常生活もままならない、というものでした。

 

分裂病では「何をしていいか分からない」「時間の空くのがこわい」などと落ち着かなくなったり、「ホームの端に立つと電車に飛び込んでしまうのではないか」などと自分自身をコントロールできない不安を訴えることがある。

濱田.『精神症候学』弘文堂

 

上記の引用は分裂病(統合失調症)で説明されていますが、現代では「発達障害(神経発達症)特性」がある方も、同じような訴えをされます。

 

「一日中寝込んでいるので、日常生活もままならない」という訴えでは、『生きづらさと反応性抑うつ状態(適応障害)』で説明したように、私たちはまず「身体因性精神疾患」ではないか?と考えます。

食欲がどうなのかを聞いてもらうと、食欲は普通にあるとのことで、フレイルを含めた「身体因性精神疾患」は否定的でした。

でもよく考えると一日中寝込んでいることと、食欲があることは合致しにくいですよね。

 

メランコリー型のうつ病は社会的規範との同一化が特徴ですから、それとは異なる「ゲームやSNSに没頭し、食生活や睡眠などの生活リズムも大きく乱れ、そのため活力がわかず、さらに抑うつ状態を悪化させてしまうといった悪循環がみられる」のが特徴の、『生きづらさと反応性抑うつ状態(適応障害)』で引用した「発達障害(神経発達症)特性」に伴う「非定型のうつ状態」も考えられました。

 

さらなる鑑別が必要ですので、「やる気がない、意欲がわかない」のは、精神運動制止なのか、自発性欠乏なのか、発動性欠乏なのか、その他の症状を聞いてもらっていたのですが、なかなか話が進まなかったようです。

 

意欲減退は、欲動が減少し、発動性が低下することで、迷いが多く決断がつきにくくなり、行動減少や制止の形をとる。

「やる気がでない」「根が続かない」「やろうとしても体がついてこない」などと訴えられるが、極端になると昏迷に至る。

一般にうつ病では精神運動制止あるいは単に制止というが、分裂病には自発性欠乏ないし自発性消失を用い、前頭葉損傷など器質性疾患には発動性欠乏の語をあてることが多い。

精神緩慢は、精神活動が全般に遅くなり、反応が鈍いこと。パーキンソン病、ウィルソン病などの皮質下痴呆、前頭葉損傷、粘液水腫など発動性欠乏を示す器質・身体疾患に用いる。

意志制止は、意志決定や決断がつかないことで、うつ病によくみられる。

濱田.『精神症候学』弘文堂

 

そのうち独自のうつ病論をまくし立てられるばかりで、1時間ほど経過して業務に支障が出ていたので、やむなく私が電話を替わりました。

 

「ほかに気になる症状はありませんか?」とお聞きしても、「さっき話しただろう!」と、またうつ病論を展開される始末で、どうにも埒が明きません。

 

「うつ病の一般論をお聞きになりたいのですね」と確認し、(1) 症状の強さは各自の主観によるが、徴候の質は同じであること、(2) 診断基準のうちある程度の数の徴候(うつ病であれば9つの徴候のうち5つ以上)が該当しないとうつ病と診断はできないこと、(3) 診療を行ってないのであなたの診断はできないが、症状の少なさからうつ病の可能性はかなり低いと考えられる、と説明しました。

 

この時点ですでに数人の患者さんがお待ちだったので(10分のつもりが20分以上かかった)、申し訳ないとお断りをして電話を切りました。

即日その人が書かれたクチコミには、「病気の診断基準を満たしていないから、あなたは病気ではない と言い放った」云々と、事実と異なる酷評を書かれていました。。。

後日、修正されたクチコミには、私がうつ病しか考えていないとクチコミに書かれています。

 

上記の引用のように徴候から統合失調症や器質的疾患の鑑別を念頭においていましたが、あれだけ熱弁を振るうことができるということは、うつ病の特徴である精神運動制止の徴候は欠如していらっしゃるように思えます。

私の説明と違った理解をされていることがおわかりだと思いますが、単に文句を言いたいだけのパーソナリティの問題を抱えた人だったのかもしれません。

それにしても、自覚症状を話してくださっていれば、多少なりと役に立てたかもしれないのに、と残念に思います。

 

上記に上げた方もそうでしたが、中には、医師でない人に詳しく症状を話す気がしない、話したくない、とおっしゃる場合があります。

前述したように受診相談は対人援助の専門資格である精神保健福祉士が担当しています。内科の病院などでは、看護師さんが診療の相談を受けていますよね。

患者と医療機関・医師との信頼関係が成立しない場合は、診療の求めに応じないことが正当化されることが通達されています。看護師さんは医師ではないとの理由で症状を話さないことで、どのような状況が起きるか想像してみてください。

 

また「話す気がしなかったから話さなかった」と自分の瑕疵を棚上げされる方の多くは、「○○障害ではないか」と自己診断に固執している方が多いような印象があります。

だから、話さなくても「○○障害」に決まっているだろうという思いこみが強く、何らかの疾病利得を求めていらっしゃるのかもしれません。(『「社会的うつ」と主治医の治療方針』『生きづらさと反応性抑うつ状態(適応障害)』『「発達障害(神経発達症)特性」のうつ状態の特徴』参照)

 

話す気がなく、語られなかった症状があれば、当然ながら診立て(徴候の判断)は誤ります。

「医師ではなかったから話さなかった」「話す気になれなかったから話さなかった」と自己正当化し、「○○病ではないと言われた」「うちでは診れないといわれた」云々、こちらが診立てを誤ったことを鬼の首を取ったかのようにあげつらい、他責的・他罰的なクチコミを書かれる人がいらっしゃることを残念に思います。。。

『最も残酷な嘘は、しばしば沈黙という形をとる(The cruelest lies are often told in silence)』というロバート・スティーブンソンの名言を味わっていただけたらと思います。

 

また、匿名なのでクチコミには何を書いてもいいと思っていらっしゃるのかもしれませんが、お名前も電話番号も分かっていますので、あまりにも酷い誹謗中傷のクチコミに対しては、弁護士さんに受診相談のやりとりの記録を提出し対応を協議しています。

 

さらに、本人が思い込んでいらっしゃる病名と違う診断になったら、ますますトラブルが大きくなる可能性があります。

ある疾患ではないか?との自己診断で受診された方がいらっしゃいました。構造化面接と心理テストの結果からその診断には至りませんでした。

 

「診断の仕方が間違っている!」「コピーではなくカルテの原本と心理テストを渡せ!」と憤慨されていました。

医師法や療養担当規則で5年間のカルテ保管のルールが定められているので、それはできないことをお伝えすると、憮然とした表情で帰って行かれました。

 

このようなことが何度もあったので、受診相談に対して酷評を書かかれるような他罰的・他責的な人たち、自己診断による思いこみが強い人たちが、実際に受診されなくて良かった、と思うようになりました。

医師の診療方針に納得せずに、患者が自己判断による診療を要求する場合については、判例上、応召義務が否定されています。

それで、こころの健康クリニック芝大門の「メンタル不調こころの治療」では、当院での治療が困難と考えられる場合として「自分で話せないなど、コミュニケーションが苦手」「医師の指示が守れない」を挙げたのです。

 

その一方で、こころの健康クリニック芝大門に通院してくださっている患者さんたち、あるいは、治療を卒業された患者さんたちは、そろって高評価のクチコミを書いてくださっています。

それが冒頭に書いた患者さんたちの反応です。

受診して治療を受けられている患者さんの評価と、症状の仔細を語ることなく受診に至らなかった人の評価、信憑性が高いのはどちらなのか、言うまでもありませんよね。

 

一般の人が求めるのは、「駅から近くて、欲しい薬出してくれる優しい先生」だそうです。

こころの健康クリニック芝大門では、常用量依存の問題を引き起こしやすい抗不安薬と、血中濃度の測定が必要な抗てんかん薬は処方していません。

 

こころの健康クリニック芝大門では、医療機関では治療が難しいといわれる「発達性トラウマ障害」や「複雑性PTSD」など「トラウマ関連障害」の治療、「過食症」や「気分変調症」の対人関係療法、など専門的な治療を行っています。

さらに「うつ病」「適応障害」「不安障害」などに対する精神科産業医が指導する心理社会的治療に特化した「職場復帰支援プログラム(リワーク)」も、全日約4〜6ヶ月行う他の医療機関のリワークと異なり、個別指導を特徴としていて半日約3ヵ月のリワークで同等以上の効果を上げています。(『関係性療法にもとづくリワークプログラムの効果』参照)

 

医療機関に通院中だけれども、薬を処方されるだけで良くなった気がしない、抗うつ薬や抗不安薬に頼らず、健康的な生活を送りたい、と思っていらっしゃる方は、こころの健康クリニック芝大門の受診相談に連絡してくださいね。

受診相談担当の精神保健福祉士が真摯に対応させていただきます。

 

院長

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME