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双極性障害の対人関係-社会リズム療法(IPSRT)による治療〜その4・社会リズム療法

[2012.03.05]

「対人関係-社会リズム療法(IPSRT)」による治療開始のタイミングは

・うつ病の急性期
・躁状態もしくは混合性エピソードから回復期

と言われています。
これらの時期が、もっとも治療意欲(モチベーション)が高まるからですよね。

とは言っても、三田こころの健康クリニックに通院されている患者さんは、過食や過食嘔吐などの摂食障害や、トラウマ関連障害などに併存した非常に複雑な症状の双極性障害の患者さんが多いですから、治療のタイミング的にも、一般の医療機関に通われている双極性障害の方とはかなり違ったものになっていますよね。

 

「対人関係-社会リズム療法(IPSRT)」の単独効果については、薬物療法を受けていない双極II型障害の患者17例に、うつ病エピソードに対して12週のIPSRTを行ったところ、17例中7例で、躁病スコアが増加することなくうつ病スコアが減少したというパイロット研究がありますが、薬物療法の付加治療としてのエビデンスが確立しているだけなので、薬物療法との併用が原則なのですよね。

「対人関係-社会リズム療法(IPSRT)」は、うつ病や摂食障害(過食や過食嘔吐)に対する対人関係療法が12〜20回で終結するのと違い、双極性障害は一生にわたって付き合っていかなければならない病気ですから、「治療を終える」ことが目的ではありませんよね。

 

人によっては、16〜20回程度の面接で社会リズムの調整を行ったり、併存する過食や過食嘔吐などの摂食障害やトラウマ関連障害に対する対人関係問題領域の解決を行ったりもしますが、30回(9ヶ月)〜2・3年と柔軟に対応することが必要と言われています。

 

SRM(ソーシャル・リズム・メトリック)を用いる「社会リズム療法」では、セルフモニタリング、目標設定、課題の割り当て、認知再構成のような行動療法的な技法が用いられます。

ちなみに。
社会リズム療法について「対人関係療法を双極性障害向けにアレンジしたものを社会リズム療法と呼びます。」と書いてあるサイトを見つけて、腰が抜けるほど驚いてしまいました。汗

さて、気を取り直して。汗

 

「生活リズムを整えましょう」と、口で言うのは簡単ですが、健康な人でもよっぽどの決意がないと生活改善ができない以上に、双極性障害の患者さんにとっては、これがかなりムズカシイんです。
だからこそ、行動療法的な治療が必要になるんですよね。

その中で「社会リズム療法(SRM:ソーシャル・リズム・メトリック)」では、

・概日(がいじつ)リズムを整える
・刺激の量と質をコントロールする

に取り組んでいきます。

 

刺激の量と質のコントロールについては、「…ねばならないという思い込み」の低減(認知再構成)が必要ということは前回のエントリーで説明しましたよね。

今日は概日リズムについて。

自律神経系は体内時計(リズム)の影響で、覚醒時には交感神経が優位になり、午後から夜にかけて副交感神経が優位となることは、皆さん、ご存じだと思います。
しかしこのバランスは、概日リズム(睡眠-覚醒リズム)の乱れがあれば、簡単に失調してしまいますよね。

「平日は7時に起きているけど、休日は放っておけばお昼まで寝ている」場合、それはもう概日リズムが乱れているということですよ。
自律神経系が3時間の時差に耐えられないため,失調症状を呈しているうえ、睡眠の絶対量が不足している可能性もありますよね。

 

大事なことは
「人間の体内時計は起床とともにオンになり、その後、16〜17時間しないとオフにならない」ということです。
つまり、「早く眠るためには、早起き以外の方法はない」「昼前・昼過ぎに起きた人が、その日の夜に早く眠るのは不可能」「目覚めたら、ベッドから離れること」という常識的なことを知っていただく必要があります。

そのためにできることは?と考えると、朝起きたとき日光を浴びることですよね。

 

そもそも体内時計は25時間くらいの設定になっているので、体内時計は光に敏感で、日が昇って明るくなればメラトニンが減少し、身体が24時間の活動に順応しようとしますよね。

「まだ眠いから、遮光カーテンをしてひと眠り」などと考えていたら、いつまでたっても概日リズムは乱れたままですよね。

その他、朝に身体の代謝スイッチを入れる方法は、身体の外は冷やして、内部から暖めることなんですよ。
温かい飲み物を摂り、身体の内部を暖め体温アップ、朝食は起きてから2時間以内に少し身体を動かした後にエネルギーに変わりやすい炭水化物とタンパク質を中心に。
タンパクは熱エネルギーの生産を活発にする食事誘発性体熱生産反応を強く起こしやすいんですよ。

そう考えると、ヨーグルトは常温に戻して、牛乳はホットミルクで、の方が効率的ですよね。

こういう身体の生理学的反応に従うことは、あれこれ考えこむ「思考病」をストップすることにもつながりますよね。

 

さらにもう一つ。
「抑うつ状態だから、自律神経の失調がある」のではなく、「自律神経の失調があるから、抑うつ症状が出る」んですよ。
身体の不調が精神に出ている」という逆転の発想が必要ですよね。

つまり、抑うつ状態の早朝覚醒や午前中の憂うつ感は、身体の自律神経のリズムの乱れの結果であり、これを是正するためにたとえば、早朝覚醒の時間に起きてみる、とどうなるか?

早朝覚醒の時間に起きることにより、心身のエンジンのかかりの悪さに対してのアイドリング時間が十分に取れるだけでなく、夜も早く眠れるようになりますよね。

 

症状は無意味に出ているのではないので、症状で代行しなくて済むにはどうしたらしいか?ということを考えていくんですよ。

これが「身体の不調が精神状態を悪化させる」ことを改善する行動療法的な社会リズム療法(SRM)のやり方の一つなんですよ。
生理学的見地に立脚した身体に優しい生活リズムのマネージメントですよね。

 

どこかのサイトに書いてあったような「社会リズム療法は異なる周期の波を重ね合わせるのを手助けする」ということとはまったく違って、身体が本来持っているリズムを取りもどすのが「社会リズム療法」ですよね。

 

このことが、エンパワーメント(有力化)ということですし、そのことにより、もともとの自然治癒力(レジリエンス)が発揮されやすくなってくるのですよね。

三田こころの健康クリニック

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