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双極性障害と発達障害特性(ASD/ADHD)

[2022.03.14]

院長の私が日本うつ病学会の双極性障害委員会フェローに名を連ねているからだと思いますが、心療内科や精神科あるいはメンタルクリニックに通院中で、「双極性障害と診断されて治療を受けているのになかなか治らない」、あるいは、「主治医に双極性障害かもしれないがよくわからないと言われた」と、こころの健康クリニック芝大門での診療を希望される方がいらっしゃいます。

 

実際に診察をしてみると、双極性障害と診断できるのは極めて稀であり、ASD(自閉スペクトラム症)の特性にともなう気分変動や衝動性を躁状態と見誤られている場合がほとんどなのです。

 

そもそも、ASD(自閉スペクトラム症)と鑑別診断が必要な疾患は、併存が多い疾患でもあることが知られています。

併存疾患についての鑑別の仕方は、内因性疾患と他の発達障害、心因性疾患、パーソナリティの問題について順次、鑑別を行っていくことになっています。

 

併存については外因性、内因性精神疾患(F0、F1、F2、F3)、知的障害を含んだ他の発達障害(F7、F8、F9)との一次併存を考え、次に心因性精神疾患(F4、F5)とパーソナリティ障害(F6)との二次併存をそれぞれ診ていく。

中村・本田・吉川・米田、他『日常診療における成人発達障害の支援:10分間で何ができるか』星和書店

 

今回は、「内因性疾患」である、「F0:症状性を含む器質性精神障害」「F1:精神作用物質使用による精神および行動の障害」「F2:統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害」「F3:気分(感情)障害」のうち、特に「F31:双極性感情障害」と、「F84:ASD(自閉スペクトラム症)」との鑑別の問題を中心にとりあげてみます。

 

(註:ASDでは)気分障害との併存はしばしば見られるが、その併存の多くは内因性うつではなく状況依存性うつ(二次性うつ)である。双極性障害ではⅠ型障害の併存は少ないがⅡ型障害の併存はしばしば見られる。

ASDでは常識のなさやこだわりからの浪費も見られ、自閉特有の大げさな感情表現と軽躁を間違えやすい。

ASDの中でも得に一方的で押しつけがましい積極奇異型と躁病との鑑別が難しい。気分の浮き沈みの期間が前者では時間単位で変化、後者では持続期間は通常月単位である。

中村・本田・吉川・米田、他『日常診療における成人発達障害の支援:10分間で何ができるか』星和書店

 

ASDやADHDなどの発達障害特性と双極性障害で共通する症状、とくに「F30の躁状態あるいは軽躁状態のエピソード」では、「易刺激性(イライラ感)」「多弁(切れ目なく喋りすぎたり、周囲の人が分かりづらいほどの早口)」「活動性の増大(生産性、やる気、想像力が増大)」「注意散漫(ちょっとした刺激で注意がそらされるほど集中できない)」、などが挙げられます。

 

一方、双極性障害に特異的な症状として、「気分高揚(テンションが高い、自信に溢れている、有頂天)」「誇大性(他人ができることができると感じる、自分が特別重要な人物であると感じる)」「観念奔逸(頭の回転が速くなる、いくつもの考えが競い合って湧いてくる)」「睡眠欲求の減少(2〜3時間の睡眠だけでよく休めたと感じる)」、などがあります。

 

しかし、ASDやADHDなど発達障害特性を有する人の中には、過集中と集中困難を訴える方も多く、この鑑別には持続期間とともに、過集中と集中困難の内容を詳細に検討する必要があります。

 

ASD/ADHDは注意の障害がその中心である。この注意の障害の中核は、注意の転導性ではなく、臨床的な視点からみる限り注意のロック機能(sustained attention)の障害と考えられる。

注意の固定が困難で、さらに固定をした時に今度はそれを外すのが難しいという病理がその中心にある。この両者は同時に起きてくるが、前者が優位のものをADHD、後者が優位のものをASDと呼んでいるに過ぎない。

両者とも二つのことが一緒にできないことが最も基本的な臨床上の困難になってくる。ASD/ADHDのパースペクティブの障害も、実はこの二つのことが一緒にできないことから生じる。一つのことがらに注意が向けられていると、時間的、空間的な他の情報が入らなくなってしまうのである。

杉山. 発達障害の「併存症」. そだちの科学(35); 13-20. 2020.

 

つまり、ASDやADHDなど発達障害特性に伴う過集中や集中困難は「注意の障害」であり、双極性障害でみられる「転導性の亢進」や「観念奔逸」とは異なり、ロックオン(注意の固定)およびロックオフ(注意の切り替え)の困難が、双極性障害の躁状態と似て見えるということなのです。

 

また、とくにASD特性に付随する過集中やショートスリーパーも多く、双極性障害の「活力の増大」や「睡眠欲求の減少」に間違われることも多いのです。

 

ASDの場合は過集中と睡眠減少の後は、概日リズム障害にともなう過眠・惰眠が出やすいことも特徴なのですが、この過眠症状は「非定型うつ病像」にも見えるため、これも双極性障害と誤診されやすい1つの特徴といえるでしょう。

 

ADHDとうつ病との関係は、「抑うつ症状によって起こるミス、時間や物の管理ができなくなるなどの症状との鑑別が必要。ADHDの場合、幼少期から症状のエピソードがある」とされ、ADHDと双極性障害は「多弁で活動的な躁状態と症状が似ている」といわれています。

 

このようにASDやADHDなど発達障害特性は双極性障害と誤診されることが多いですから、双極性障害の診断で通院されていてなかなかよくならないと感じている方は、発達障害特性について見直してみるのもいいかもしれませんね。

 

院長

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