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休職中の睡眠覚醒リズム

[2020.05.27]

新型コロナウイルス感染症の影響で、在宅勤務やテレワークをしている人たちのお話しをお聞きしていると、出社しているときよりも1〜2時間ほど起床時間が遅くなったとおっしゃる人が多いのです。

その分、夜更かしをすることが増えている傾向にあるようです。

 

緊急事態宣言が緩和・解除され、多少の時差出勤は推奨されるとしても、翌日あるいは翌週から定時に出社することになりますよね。生活リズム、とくに睡眠覚醒リズムが乱れている人は、今のうちから出社時のリズムに戻しておいた方がいいと思います。

 

出社時のリズムに戻すには、社会リズム療法を応用して、身体のメカニズム(サーカディアン・リズム)を知り、食事や睡眠覚醒リズムなどの刺激(ホメオスタシス・リズム)を一定にしていく必要があります。

こころの健康クリニックに通院中の方には図を描いて説明していますよね。

 

今日のテーマは睡眠覚醒リズムの話です。

ここでは「うつ病/大うつ病性障害」と、たとえば「適応障害・抑うつ気分を伴うもの」や「持続性抑うつ障害/気分変調症」などの「軽症うつ病」との違いの中で、睡眠障害を取り上げてみます。

 

「うつ病/大うつ病性障害」に特徴的な気分の持続的な落ち込みは、従来「生気的抑うつ」と呼ばれていました。

「生気的抑うつ」は、胸部や胃部などに曖昧な局在をもって感じられる重苦しい気分や、塞がれるようなあるいは詰まったような圧迫やうっとうしさのこととされています。

 

念のため申し上げると、この朝の心の重さは、眠くて起きられないというあの辛さとは別ものです。ある人はこういいます。

「目は覚めている。眠いのでもない。身体がだるいのでもない。ただ、今日一日がまた始まるのか、と溜息ばかりでる。そして身体をベッドから離せない。まるで泥の中に身体があるようで。」

ときにはこの朝の苦痛が身体の「だるさ」と一緒に訴えられてくることもあります。

笠原『軽症うつ病』講談社現代新書

 

睡眠障害には、「寝つきが悪い(入眠困難)」「途中で目が覚める(中途覚醒あるいは浅眠)」「朝早く目が覚める(早朝覚醒)」の3つのタイプがあります。

 

「うつ病/大うつ病性障害」の抑うつ状態に特徴的なのは、「中途覚醒」と「早朝覚醒」です。

青年期には、まれに(約1割)「過眠(日中の眠気や長時間睡眠)」もみられることがありますが、「うつ病/大うつ病性障害」では中途覚醒と早朝覚醒ともに、憂うつな気分、未来への不安、おっくう感といった典型的な精神症状が伴います。

そのため、朝目覚めたときが最も気分が重く、午後から夕方、そして夜にかけて改善してくる「日内変動」が「うつ病/大うつ病性障害」の特徴です。

 

仕事を休んでいる人でも、早朝覚醒という症状のまだ残っている場合には、午前中にもう一度「寝なおし」をする人がいます。こういう人でも午後になると気分が晴れはじめる。

夕方になると「ゆううつ」でも「おっくう」も「不安」もずいぶん楽になる。ときには午後九時を過ぎると、床に就くのが惜しいと感じるほど快調になるという人さえいます。

午前に悪く午後から夜にかけてよくなるという、この気分の波は心理的な原因でおこるものではないようです。

誰にでもある、一日を終えてホッとするあの気持ちと誤って過剰に了解される危険性がありますが、そうではないようです。

先にも述べましたが、内因性の気分障害が生体のもっている自然なリズムの障害という一面をもつことを間接的に証明する大事な一徴候なのです。

笠原『軽症うつ病』講談社現代新書

 

「寝なおし」は、熟睡に至らない浅い眠りで、夢ばかりみていて、お昼近くになって起き出したときには、身体が重く、頭も回らない感じですが、夕方に近づくにつれて、徐々に靄が晴れたように感じてくることが特徴です。

 

一方、従来「軽症うつ病」と呼ばれてきた、神経症的性格を基盤にして、明確な心因(きっかけ)で発症するタイプがあります。「軽症うつ病」は、「適応障害・抑うつ気分を伴うもの」や「持続性抑うつ障害/気分変調症」「混合性不安抑うつ障害」などが該当します。

 

「軽症うつ病」では、悲哀、不安、焦燥、心気症状などの多彩な症状を訴えるものの、睡眠障害や体重減少、日内変動など、特徴的な症状は目立たず、環境の影響を受けやすいとされています。

 

「寝なおし」と似ている状態に、いわゆる「寝逃げ」があります。

寝ている間は、あれこれと不快な気分を引き起こす思考にとらわれないで済むため、現実逃避と考えられています。

 

「寝なおし」と「寝逃げ」の違いは、「寝逃げ」では起き上がっても気分の改善がみられないことです。

「小人閑居して不善をなす」のことわざ通り、身体活動が減るとあれこれと思考が活発になるため、ますます気分が滅入り、寝るしかなくなる悪循環が生じてきます。これが「寝逃げ」です。

 

さて、「うつ病/大うつ病性障害」で早朝覚醒が残っている間は、生活リズム(睡眠覚醒リズム)を安定させることと、午後から夕方に身体を動かすことを目標にしていきます。

しかし、「軽症うつ病」では休職直後から定時起床を勧めていきます。場合によっては休職翌日から、職場復帰支援プログラム(リワーク)を導入することもあるのです。

 

上で説明したように、「軽症うつ病」は環境の影響を受けやすい、つまり、嫌なことがあると気が滅入ってしまい、そのことばかり考え続け(反すう)、とらわれてしまいます。

「軽症うつ病」で休養や静養を過度に勧めてしまうと、回避行動が強まり、その状態から抜け出すことが難しくなって、回復が長引いてしまうのです。

 

回避傾向が強くなった「軽症うつ病」の方には、対処法とその長期的な影響を振り返ってもらいます。例を挙げると以下のように考えられるかもしれません。

○ 気分が滅入ることをストップするために行った行動:寝逃げ

○ その行動はどのような結果につながったか:気持ちが滅入った、あるいは気分は変わらなかった

○ その行動によって有意義な生活に近づいたかどうか:気持ちが沈むので、ますます寝る時間が増えた

○ その行動による代償や健康や仕事、人間関係の変化:一日を無駄に過ごして気持ちが落ち込んだ、復職できる気がしない

このようなセルフ・モニタリングを行うと、気分解消行動としての寝逃げが非効果的であることがわかると思います。

この理解にもとづいて行動を変えることができるかどうかが、「軽症うつ病」の方が、職場復帰がスムーズにできるかどうかを左右するのです。

 

院長

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