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リワーク(職場復帰)プログラムと自分の考えとの向き合い方

[2019.09.11]

友人でもある産業医の先生が、こころの健康クリニックに遊びに来てくれたときのことです。

こころの健康クリニックで行っているリワークプログラムの話になったとき、産業医の先生が 「リワークの中には、卓球やゲーム、料理などをやっているところもありますけど、復職とどう関係するんでしょうねぇ。休職中の従業員に話を聞くと、和気あいあいとゲームをやって復職できるとは思えない、やる気をなくしてしまう、と言うんです」とおっしゃっていました。

 

日本うつ病リワーク協会では

職場場面を再現するような様々なプログラムを利用者に提供し、ある程度継続的に身体的・心理的負荷が加わる中で、良好な体調を維持しながら業務が遂行できるのかを評価したり、対処法を学んだりするために行う。
特に対人関係でのストレスで体調不良に陥っていることが多いので、集団プログラムの比率を高くする。
レクリエーションの要素が強いプログラムなどは必要以上設けない。

とされています。

 

リワークは、復職するための予備校として私はとらえています。
症状もほとんどなくなった状態で、会社に出社する代わりに、リワークに出勤するのです。

リワークプログラムの中で、身体的・心理的負荷をかけ、レジリエンス(折れない心)を培っていくリハビリテーションとしての意味があるのです。

休職を骨折にたとえると、痛みがなくなった状態で、少しずつ筋肉に負荷をかけ、関節可動域を広げていくことで、これまでのようにジャンプしたり走ったりしても痛みもなく、再骨折することもないような状態をつくっていきます。 

  

自分がうつを発症したときと、全く同じ環境・状況におかれても、すべての人がうつを発症するわけではありません。ストレスに感じることは人によって違い、対処方法も異なります。ではなぜ、自分は休職に至ったのかーー。

これを振り返る自己分析によって、自分のものの考え方や困った状況での対処方法などの特徴を探ります。そこには自分の課題が隠れています。何が自分の課題なのか、それが分かって初めて、再休職しないための対処方法を考えることができるようになります。

五十嵐・ふくい『うつのリワークプログラム』日経BP社

 

「対人関係でのストレス」に対するリハビリテーションとしてのリワークでは、認知・行動療法を中心のプログラムをメインにしているところが大多数です。

こころの健康クリニックでは、社会リズム療法とともに、メンタライジングを組み込んだ対人関係療法の技法を中心にリワークプログラムを構成しています。

  

たとえばこういう状況を想像してみてください。

  • あなたが朝、出勤すると上司が不機嫌そうな顔をしていました。

人によってさまざまな反応が心の中で起きると思います。

 

  • Aさんは、私が何か怒らせるようなことをしたのかも?!と、ビクビクして自責感から上司と目を合わせられなくなります。
  • Bさんは、不機嫌な上司を見ているとイライラするので、上司の声かけを無視して仕事をしています。
  • Cさんは、仕事に私情を持ち込むなんて大人気ないと、呆れてため息をつきながら仕事を始めます。
  • あなたなら、どんな考え(自動思考)が浮かび、どんな気持ちになってどういう行動を取ると思いますか?

 

上司が不機嫌そうな顔をしているからといって、Aさんが上司の気に触る何かをやらかしたのかどうか、本当のことは分かりません。
そもそも、「Aさんが上司の気に触る何かをしてしまった」という考えは憶測にすぎないのです。

 

周囲の人が自分をどう見ているかを知る「外的自己認識(外的客我)」を得るには、相手や第三者から真実を聞く方法を学ぶ必要があります。

心の悪循環から抜け出すために、「上司を怒らせるようなことをした」という頭の中の想像(脳内劇場)から離れて、現実に戻って相手に確認しましょう!と、認知行動療法でも、対人関係療法でも勧められますよね。

そうはいっても、実際に相手に確認するのはなかなか難しいものです。

  • Aさんが勇気を振り絞って、「私が何かしましたか?」と上司に話しかけたら、どんな返事が返ってくるでしょうか?

  

こころの健康クリニックの対人関係療法による専門的治療、あるいは、リワークプログラムでは、さらに精緻な方法を教えていますよね。


セルフ・モニタリングの中で、そもそも上司が不機嫌そうな顔をしているという「考えそのものを吟味する」方法です。五感がキャッチした情報を、どのように解釈したのかを吟味するのです。

これには、「主語に注目する方法」、「他者の立場で感じてみる方法」、「考えの有効性を吟味する方法」など、こころの健康クリニックでは、いくつかの方法を教えていますよね。

 

非暴力コミュニケーションのセルフ・モニタリングでは、自動思考の主語に注目して、「私」を主語にして考えを再構築するように勧めていますよね。

上司が不機嫌そうな顔をしている」を「私は上司の表情を見て、不機嫌そうだと解釈した」と再構築するのです。この2つを比べてみて、心の中で引き起こされる反応の違いがわかりますか?

 

あるいは、「自分が上司と同じような表情をするとしたら、そのとき心の中では何が起きているのだろう?」と、自分の心を通して他者の行動の背景にある心理状態を理解するメンタライジング・スキルを使う方法もあります。  

 

また「上司が不機嫌そうな顔をしている」という思考は、「上司は不機嫌だ」という現実ととらえられています。バイロン・ケイティのザ・ワーク「人生を変える4つの質問」を使うと、こんな感じになります。

 

  • 「上司は不機嫌だ」は本当ですか?
  • 「上司は不機嫌だ」が絶対に本当だと、言い切ることができますか?
  • 「上司は不機嫌だ」という考えは、どんな役に立ちますか?
  • 「上司は不機嫌だ」という考えがなければ、あなたはどのように振る舞いますか?

 

認知行動療法や対人関係療法の技法だけにとどまらず、自分自身に対する理解である「内的自己認識(内的客我)」とどう付き合っていくか?が、こころの健康クリニックで最も大切にしている治療テーマです。

 

つまり、自分の心の中で起きることに対して、多様な視点を持つことができて、思考に触れつつ巻き込まれずに、心の柔軟性を高めていくことが、摂食障害や気分変調症の治療でも最も重要なテーマであり、これがこころの健康クリニックで行っているリワーク(復職支援)プログラムの骨子でもあるのですよ。

 

 院長

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