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リワークとリハビリ勤務と職場復帰

[2022.09.12]

厚生労働省から2004年に出された復職に関する『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』があります。

 

こころの健康クリニック芝大門の職場復帰支援プログラム(リワーク)参加者には、かならず目を通しておくようにと勧めていますよね。

 

精神科主治医は、第1ステップである「休職診断書」の提出、第2ステップである「復職可能診断書」提出に関わります。

 

しかしながら、復職した後すぐに再休職したり、退職してしまう労働者が少なくないことが問題とされています。

 

昔は主治医の診断書が出ればすぐに復職可となることも多かったが、再休職が多いなどの問題もあり、この手引きでは、第3・第4ステップで職場の産業保健スタッフが職場として(事例性を通して)復職可否を判断したり、その条件を検討したりすることになっている。

そのため最近は主治医が復職可の診断書を提出してもすぐに復職とならず、産業医面談などを理由に復職まで長い場合は数ヵ月かかることもある。

井上. 職場と連携するときに知っておきたい国の指針や手引き. 精神神経学雑誌 118: 40-46, 2016

 

つまり、病状が改善し体力が回復しても、それだけでは復職して就業継続することは困難なのです。

 

上記の引用に「事例性」という言葉が出てきました。

事例性」とは、仕事で問題が生じることで、勤怠・安全・パフォーマンスが遂行できず、給与に見合った労働力を提供できない状態のことです。

 

一方、病状(メンタルヘルス不調の症状)は「疾病性」と呼ばれ、精神科治療では「疾病性」の改善が目標とされます。

 

こころの健康クリニック芝大門のリワーク説明でお伝えしているように、精神科主治医が判断した病状の回復レベル(疾病性の改善)と、会社や企業が求める回復レベル(事例性の消失)との間には、大きな乖離があります

 

精神科主治医からの「復職可能」診断書が提出されたとしても(疾病性の改善)、事例性が消失していない場合は復職して就業継続することは困難で、復職しても再休職や退職してしまう労働者が少なくないことの原因になっているのです。

 

病状の回復レベル(疾病性の改善)をいかに、会社や企業が求める回復レベル(事例性の消失)に近づけるか、という目的で行われるのが、「医療リワーク」という心理社会的治療です。

 

「医療リワーク」では、「復職準備性評価スケール(PRRS)」を用いて、「疾病性の改善」がどれだけ「事例性の消失」に近づいているか、を評価していますよね。(『リワークのプログラムと復職準備性評価スケール』参照)

リワークのプログラムと復職準備性評価スケール

 

主治医から「復職可能」診断書が提出された第2ステップの次、『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』の第3・第4ステップでは、会社が作成した職場復帰支援プランに基づき、「リハビリ勤務」が行われます。

「リハビリ勤務」の目的は、「事例性の消失」の確認です。

 

医療リワークと慣らし勤務を組み合わせた職場復帰』で、医療リワークとリハビリ勤務を併行して行った事例を紹介したように、「疾病性の改善」と「事例性の消失」が復職の必須条件なのです。

医療リワークと慣らし勤務を組み合わせた職場復帰

しかし中には、リハビリ勤務の際に軽減業務と称して、元の業務と異なる軽作業のみを行わせる企業もあり、これで「事例性の消失」の確認ができるのか?と疑問に思うこともしばしばあります。

 

リハビリ勤務を行っていない会社や企業では、数回の産業医面談を通して、定時起床(勤怠)・疲労回復(安全)・集中力の持続(パフォーマンス)の改善(事例性の消失)を確認し、復職の可否を判断します。

 

左の図は、こころの健康クリニック芝大門のリワークで最初に提示している「職場復帰の流れサポート」のうちの1枚です。

 

このように、産業医面談までにかかる日数や、会社や企業によってリハビリ勤務の実施期間がまちまちなので、上記の引用にあるように「復職まで長い場合は数ヵ月かかることもある」のです。

 

また、[「完全に治してくれ」「再発しないことを主治医が保証してくれ」などという職場(上司)もまだ存在し、職場に対する基本的な疾病教育が必要になることも多い(井上. 産業現場に対し精神科主治医ができること、できないこと. 精神神経学雑誌 116: 697-701, 2014)と述べられているように、「事例性」と「疾病性」を混同されている場合も多いのが実情です。

 

それだけでなく、「復職可能」診断書に「現在の病状や実施可能な業務について記載して欲しい」と会社から要請されることがあります。

 

労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)に基づいて出された『労働者の心の健康の保持増進のための指針』では、「外部医療機関の主治医に対しては、直接事業者にではなく産業保健スタッフを介する」ように求めています。

こころの健康クリニック芝大門では、前述のような依頼があった場合は、「産業医の先生や産業保健スタッフを通してください」とお返事しています。

 

復職にまつわる問題の一つに、精神科主治医の病状の回復レベル(疾病性の改善)の判断と、産業医が行った回復レベル(事例性の消失)の判断が食い違う場合があります。

 

例えば、精神科主治医は「復職可能」と判断したのに、産業医が復職可と判断せず、休職期間が満了になってしまった場合、労働審判や裁判で争われることが多いようです。

 

これまでの裁判で、事業者は,産業医意見と精神科主治医意見のどちらを取り入れるべきか多くの議論がなされているが、産業医や嘱託医として職場と直接かかわっている精神科医の意見であればそれが最も信頼に値すると考えられている。

田中. 精神科医による職域メンタルヘルス活動-知っておきたい法務と対応の型-. 精神神経学雑誌 117: 788-795, 2015

 

全国の医師数は約32万人で産業医の資格保有者は約9万人ですから、医師の3人に1人は産業医資格を持っていることになります。

精神科専門医の割合は約3.6%とされていますから、精神科産業医は1300人前後と見積もられています。そのうち、実際に産業医としての実務経験がある精神科専門医は非常に少ないのが現状のようです。

 

逆に、主治医が復職可能の診断書を提出していないにも関わらず、産業医が休職期限が間近になった労働者を復職させたケースがありました。

もちろん「疾病性」も「事例性」も残存したままですから、会社は「産業医や嘱託医として職場と直接かかわっている精神科医」である院長の私に意見を求めてきて、対応したことがあります。

 

このように、こころの健康クリニック芝大門のリワークでは、精神科産業医の実務を続けている院長が復職までを直接サポートしていますので、休職中の方はぜひ参考にしてくださいね。

 

院長

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