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ストレス反応と適応不全と休職

[2023.04.10]

3月から4月は、さまざまな変化にあふれた時期です。

 

学生さんであれば進級や進学、社会人であれば入社や異動、あるいは引っ越しに伴う親しかった人たちとの別れと新しいコミュニティへの参入など、さまざまな変化への適応を迫られますよね。

 

ホームズとラーエは、ストレッサーとストレス反応の研究で「社会的再適応評価尺度(Social Readjustment Rating Scale:SRRS)」という尺度を作成しました。

「社会的再適応評価尺度(SRRS)」は、出来事が個人に及ぼす影響を「ライフチェンジユニット(Life Change Unit:LCU)」の大きさ(変化の大きさ)で表現し、変化が大きければば再適応までの時間がかかると考えたのです。(永岑『はじめてのストレス心理学』岩崎学術出版社)

 

たとえば、結婚:50、退職:45、仕事の再適応:39、仕事の責任(地位)の変化:29、子どもが家を離れる:29、本人の進学または卒業:26、生活状況の変化:25、仕事の状況の変化:20、住居が変わる:20、など、さまざまなイベント強度が点数化されています。

この「社会的再適応評価尺度(SRRS)」は1960年代のアメリカで作成されており、1993年に日本人に合わせた労働者版と学生版が作成されています。(永岑『はじめてのストレス心理学』岩崎学術出版社)

 

セリエの全身適応症候群(汎適応症候群)

ライフイベントに対して、生体は、ショックを受ける相と、ショックから立ち直り適応あるいは抵抗の段階へと進む変化を示す相(反ショック相)へと進むことが、セリエによって示されました。(永岑『はじめてのストレス心理学』岩崎学術出版社)

 

メンタル不調になるきっかけは、【業務でのストレス】や【家庭やプライベートでのストレス】などがあります。

業務のストレスは、業務過多や相談できる相手がいない、業務の進め方がわからないなどで業務遂行に困難を感じたり、異動して新しい業務になじめない、昇進して役割が変わったなど、変化への適応が難しいことなどがあります。家庭やプライベートでのストレスは、育児や介護との両立の困難や、夫婦や親子の関係、経済的問題もあります。

そのほか、20代から30代は精神疾患の好発年齢であることから、疾病による不調が少しずつ発現することもあります。

ストレスや不調をもちながらも、「もっとがんばらなきゃ」「みんなに迷惑をかけてしまう」「このくらいできなければ恥ずかしい」などと無理に業務を続けることで、【過剰適応】の状態になります。

業務が滞る焦りや不安からより多くの仕事を引き受けたり、抱えていた仕事を残業や休日出勤で乗りきろうとしたりします。一見、エネルギッシュで充実しているようにも見えますが、内面では不安や焦りを感じ、イライラして攻撃的な言動をとってしまうこともあります。

中村『復職のためのセルフ・トレーニング・ワークブック』金剛出版

 

この状態が「適応不全」であり、診断名でいうと「適応障害(適応反応症)」ということになります。

ショック相から回復し、反ショック相そして抵抗期に進むと、適応のための抵抗力も上がり適応できているように見える状態(過剰適応)になります。

 

この状態が続くと【疲弊】し、効率や正確性が低下してミスが増えたり、報告・連絡・相談ができずに情報共有ができない、計画的に行動できないなど、業務に支障が出てきます。

また、人との関わりを避けて孤立したり、不安・焦燥・イライラなどの感情の揺れが大きくなり、対人面での問題も現れます。

さらに、不眠や食欲不振、頭痛などの身体症状や不定愁訴などの【心身の症状】が顕著になって、これらを自覚したり周囲の人から指摘されることも増えてきます。

中村『復職のためのセルフ・トレーニング・ワークブック』金剛出版

 

抵抗の段階に達したとしてもストレス因が持続すると「疲憊期」という段階に移行し、生体からは抵抗力が失われてしまいます。

 

休職前には、困難な状況でも【がんばって乗り切ろうとする】のですが、だんだんとエネルギーがなくなり、出社しても仕事が手につかない【プレゼンティーズム】や、出社できなくなる【アブセンティーズム】の状態になります。

そして、いよいよ睡眠が乱れ、食欲が低下し、さまざまな身体症状を感じるほどに体調を崩して【治療・休養】が必要になり、休職に至ります。

中村『復職のためのセルフ・トレーニング・ワークブック』金剛出版

 

「疲憊期」では適応が消失し、最初の警告反応期のショック相の反応が再現されるのです。(永岑『はじめてのストレス心理学』岩崎学術出版社)

この状態は、以前は「疲弊うつ病」と呼ばれたりしていました。

 

ここで休息をとって業務の見直しができればよいのですが、休息をとれないと業務上の困難や心身の不調を回復できず、さらに無理をしてしまう悪循環が始まります。

その結果、遅刻が増えたり、半日休み、一日休み、数日休みを繰り返して、【会社に行けない】ほど疲れ切ってしまいます。

体の疲れや以上の症状を訴えて内科などを受診してもよくならず、会社から不調を指摘されて心療内科や精神科を受診する人も多いようです。

受診や服薬によって軽快すればよいのですが、積みかさねてきたストレスや心身の不調は、一朝一夕に改善するのは難しいものです

しっかりと治療と休養に専念する必要があると診断されて、ようやく【休職の判断】がなされます。

中村『復職のためのセルフ・トレーニング・ワークブック』金剛出版

 

休職するということ

労働者(被雇用者)が提供する労務に対して、雇用主(会社)が賃金を支払う労働契約の中で、労働者(被雇用者)には、労働契約に基づいて労務提供できるように、心身を健康に維持する「自己保健義務」があります。

一方、雇用主は被雇用者が健康で安全に勤務できるように配慮する義務(安全配慮義務)があります。(中村『復職のためのセルフ・トレーニング・ワークブック』金剛出版)

 

この配慮によって不調者を出さないことが理想ですが、さまざまな理由から、不調をきたす労働者が出てしまうことも事実です。

そこで、心身の不調を抱える労働者が、治療や休養に専念して不調を回復し、再び働けるようになるために、疾病休暇や休職といった制度が設けられています。

つまり、休職とは、再び働くために必要な猶予を与えるものであり、その制度に中で、休職者は回復に努めることが求められているのです。

中村『復職のためのセルフ・トレーニング・ワークブック』金剛出版

 

休職とは、私傷病(この場合は適応障害を例に挙げています)によって労働契約に基づく労務が提供できなくなった状態に対し、雇用主(会社)が解雇という手段を執らずに、再び働けるようになるために必要な猶予を与えるものです。

 

つまり労働者(被雇用者)が「自己保健義務」を回復するまで、会社から与えられた時間的猶予のことですから、休職期間は休養とともに復職努力をする期間でもあるのです。

こころの健康クリニック芝大門の職場復帰支援プログラム(リワーク)では、セルフモニタリングを柱として、セルフケアとコーピングスキル(ストレス対処スキル)を身につけるプログラムで構成しています。

 

「適応障害(適応反応症)」では、抗うつ薬や抗不安薬の有効性は認められていません。

私見では、「適応障害(適応反応症)」の診断で休職し、抗うつ薬や抗不安薬が投与されている人は、《ストレス因の遷延がなく6ヶ月を超えて遷延した類適応障害》に移行し、1年以上休職していらっしゃる人もかなりの数いらっしゃるように思います。

 

「適応障害(適応反応症)」の診断で残念ながら休職せざるを得なくなった人、あるいは「適応障害(適応反応症)」と診断されて抗うつ薬や抗不安薬を処方されていらっしゃる方は、今後の治療方針について、こころの健康クリニック芝大門のリワーク外来に相談してくださいね。

 

院長

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