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インナーマザーと愛着(アタッチメント)の対人関係療法

[2017.06.26]

過食症やむちゃ食い症など摂食障害から回復するための治療では、自分をふり返り、心の中でうごめく感情を真正面から見つめることが、最初に取り組むステップですよね。

そして、それらの感情を引き起こしたさまざまな自己批判的な考えと対話すること(対話型・思考記録)を通して、自分自身との関係を改善していくことに取り組んでいくことが、対人関係療法による治療の最初の課題になります。

 

心を開いて、感情の威力を正面から受け止めてはじめて、感情は乗り越えなければならない障害ではなく、英知や導きへの通り道であると理解するのです。そして、感情を抱かないようにするために、食べたり拒食したりする必要がなくなるのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

自分の気持ちときちんと感じることができるようになったら、ネガティブな感情を引き起こすきっかけとなった他者との関係を改善していくことが、対人関係療法による治療のもっとも大切なポイントになります。

 

思春期・青年期あるいは初期成人期の対人関係療法では、自分自身と向き合い、アイデンティティを確立していくことと同時に、親や交際相手などの重要な他者だけでなく、交友関係にも焦点を当てます。

思春期・青年期の愛着(アタッチメント)課題が、両親とは対等性をめぐる争い(反抗期)であると同時に、二者関係(パートナー関係)と、集団との関係の自分自身の固有性(アイデンティティ)を確立することだからです。

 

まだ幼い頃に、(外的な)母親が無関心だったり攻撃的だったり、理想の接し方をしてもられなかったりしたために、つながりのなさを感じた人もいることでしょう。
逆に、過保護で異常にコントロールし、何も決めさせてくれない母親を息苦しく感じ、飲み込まれているように感じていた人もいるでしょう。
このような経験をしたことで、適切な「インナーマザー」を育むことができなかったのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

インナーマザー(内なる母親)」、この耳慣れない単語は、愛着対象である母親への近接や情緒応答性などが「内在化された表象」のことで、愛着(アタッチメント)理論では「内的作業モデル」と呼ばれます。

この「インナーマザー」は愛着対象としての内的な表象であるだけでなく、「自己表象(自分とは誰か?=アイデンティティ)」の形成にも相補的な形で関与しつつ、成長に伴って変化していきます。

 

彼女たちのインナーマザーは若い母親のようにとても未熟で、自分に確信が持てていません。そのため、心の糧が欲しいというリクエストにうまく答えられず、逆に彼女たちを困惑させてしまうでしょう。甘やかしすぎると思ったら、次の瞬間には愛情を与えず批判的になる、というふうに。
そしてこの関係性が食べ物に反映されてしまうのです。食べ物は糧の象徴ですから。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

「母親表象(未熟なインナーマザー)」と「自己表象(インナーチャイルド)」との不安定な関係が、自分と食べ物との関係に反映されている、と重要な指摘がなされていますよね。

同じように、(未熟な)内的作業モデルと自己表象の関係は、『「自分は人間としてどこか欠けている」という感じ方』で解説した「基底欠損」と表現されることもありますし、『素敵な物語』では「心の空虚感(心や魂の飢え)」と表現されていますよね。

 

成人期以降の不安定型愛着スタイル(愛着障害)の治療では、「インナーマザー」の成熟を含む「自己表象(インナーチャイルド)」の変容を通して獲得安定型の愛着スタイルを目指していきます。

一般向けの本には、愛着の傷つきから回復するためには、親がカウンセリングや治療の場に同席するとか、親が変化して安全基地となる必要があるなどと書いてあるみたいですね。

しかし、親のサポートが必要なのは児童期から思春期まであり、青年期・成人期では自立やアイデンティティの確立がテーマになるため、親が手助けできることは何もありません。

青年期から成人期にかけては、パートナー(重要な他者)との関係やメンター(心の師 or 良き指導者)との関係、あるいは治療関係の中で、自らが自らの「内的安心基地〜自分自身に対する愛着関係〜」を発達させていく必要があり、「自己受容」と「協調性」にバランス良く焦点を合わせていく必要があるのです。

 

ある関係と別の関係では愛着の安定性が異なる可能性があることを示唆していますし、同じ関係においても時間の経過とともにカテゴリーの移行が生じる可能性があることを示唆しています。
(中略)
アセスメントは、この評定値ではなく、回答者の愛着に関する全体的な心の状態に基づいて行われます。
したがって、虐待とネグレクトの既往のある回答者であっても、トラウマの既往があるにもかかわらず、愛着関係を価値あるものと評価しており、自分の愛着関係について情緒豊かで首尾一貫した説明を行う能力があるなら、安定型の愛着(獲得安定型)を示していることになります。

アレン『愛着関係とメンタライジングによるトラウマ治療』北大路書房

 

愛着関係に関する「メンタライジング能力(自分と他者の心理状態を見わたすこと)」は、「内省機能(リフレクティブ・ファンクション)」とも呼ばれ、今年の国際対人関係療法学会でもトピックスとして取り上げられていました。

 

対人関係療法は、とりわけ愛着関係に焦点を合わせながら、対人関係における積極的な問題解決を促進する。要するに、対人関係療法は、「問題のある対人関係における患者の考え方、感じ方、行動の仕方を変化させようとする」(Klerman et al., 1984, p.15)。
それだから、対人関係療法は、いま・ここでの対人的問題に目を向けることで自己認識も促進しつつ、黙示的に他者の精神状態に関するメンタライジングに注意を向けさせるのである。

J.G.アレン, 他『メンタライジングの理論と臨床』北大路書房

 

青年期・成人期の「過食症」や「むちゃ食い症」、あるいは「気分変調症」や「不安定型愛着スタイル(いわゆる愛着障害)」の対人関係療法では、「自分との関係を改善する(心の状態の変化についての気づき)」と「行動の仕方を改善する(考え・感情・情動のコントロールについての気づき)」と呼んでいる「自分自身との対人関係(アイデンティティ)」の確立が治療テーマになります。

 

その中で、「発達課題(自分自身との関係/集団との関係)」と「愛着の力動的成熟段階(関係性・協調性)」をみながら、孤立やアイデンティティの確立に対する停滞性を扱うことで治療をすすめていくんですよ。

 

院長

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