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むちゃ食い症候群

[2013.06.17]

そもそも過食と呼ばれる状態は、精神医学的には「むちゃ食い(binge eating)」と呼ばれます。
「むちゃ食い」とは単なる食べ過ぎではなく、大量の食べものを短時間に詰め込むようにして食べてしまうことで、「むちゃ食い」や「過食」「気晴らし食い」「大食」などとも訳され、「binge」はどんちゃん騒ぎ、大騒ぎ、パーティ、耽溺を意味します。

 

失恋過食やストレス過食、淋しさ過食など、軽度の食べ過ぎは、一般の青年期・成人期の女性であれば割とポピュラーですが、摂食障害の診断を満たすのはそのごく一部にしか過ぎません。

このような正常範囲の一時的な過食と区別するため、ここでは「むちゃ食い」を呈する、「過食症・非排出型(BN-NP)」と「むちゃ食い性障害(BED)」に伴う精神病理を見ていきましょう。

 

「過食症・非排出型(BN-NP)」も「むちゃ食い性障害(BED)」も拒食症のダイエット群と同じように学校や家庭、社会での挫折体験や喪失体験が先行することが少なくありません。

注意していただきたいのは、「ダイエットそのものが摂食障害の原因ではない」ということです。

ダイエットをしようと思った動機が、空虚感の埋め合わせや傷心の癒しと感じられ、挫折や喪失体験を克服する努力になっており、これが摂食障害の誘因になる事が多いということです。

 

「過食症」では自己評価も体重や体型の影響を大きく受けており、体重が減ると活動的になり、体重が増えると引きこもりがちになるなど、慢性的な抑うつ状態にある場合が多いようです。

また「むちゃ食い性障害」では肥満恐怖は強くはありませんが、むちゃ食いをコントロール出来ないことによる罪悪感と自己評価の低さが持続するのが特徴です。

 

さてこの「むちゃ食い(過食)」は

・食事を食べはじめると止まらなくなり、むちゃ食いに移行してしまう場合
・帰宅後、就寝までの間に行われる場合
・外食時にむちゃ食いのスイッチが入り、帰宅後も続ける場合
・むちゃ食いをするために大量の食物を購入する場合

などがあり、診断基準では「2時間以内」と定義されているため、1日中「だらだら食い」するのは「むちゃ食い」とはみなしません

また「噛み吐き(チューイング)」は、小児では「反芻性障害」と診断されますが、成人では「特定不能の摂食障害」に分類されており、詳しいことはわかっていませんが、臨床的には強迫行為あるいは行為障害のような印象を受け、摂食障害のカテゴリーには入らないと思います。

 

健常人でもみられる失恋過食やストレス過食、淋しさ過食、あるいは非定型うつ病の症状である過食などでは炭水化物(甘いもの)や刺激物などの食べものを渇望することがありますが、「むちゃ食い」の特徴は特定の栄養物を渇望するということより短時間に食べてしまう食物の量の多さによります。

 

「過食症・非排出型(BN-NP)」と「むちゃ食い性障害(BED)」を合わせた「むちゃ食い症候群」の人たちは、自分の食行動を、恥ずかしいことで出来れば隠したいと思っているため、人目に付かないように行われます。

 

2005年の摂食障害の治療ガイドライン作成とその実証的研究班によるガイドラインでも

仮に拒食症の人全員が受診したと仮定しても、過食症は16%、非定型は0.5%しか受診していないことになり、過食症と(むちゃ食い性障害を含む)非定型の受診率がきわめて低い

とあるように、「恥」の感覚と、コントロールの喪失感という感覚を伴い、食べ過ぎて気持ちが悪くなったり、苦痛を感じるほど満腹になるまで続きます。
時には「むちゃ食い」の間のことをよく覚えていないプチ解離の状態になる事もあります。

 

このような「むちゃ食い」が起きるきっかけは気分が落ち込んでいるときがほとんどで、対人関係のストレス因子や体重や体型に関連した出来事、あるいは、食事制限後の空腹感の時に起きやすいことが知られており、「むちゃ食い」の後で自己嫌悪・自責感・罪悪感をともなう抑うつ気分に陥り、それが次の「むちゃ食い」エピソードの布石となりさまざまなストレス因子をきっかけに悪循環が進んでいきます。

 

ちなみに。
ダイエットの既往がなく「むちゃ食い」が始まったとおっしゃる方もいらっしゃいますが、これまでの臨床経験から、そのような場合は、ストレス因子の文脈や感情と「むちゃ食い」の関連が見られず、背景にアスペルガー症候群などの発達障害や、注意欠陥多動性障害(ADHD)などがあって衝動制御の問題を抱えている方が多く、摂食障害ではなく『習慣および衝動の障害』と診断される場合がほとんどでした。

 

このアスペルガー症候群などの発達障害や、注意欠陥多動性障害(ADHD)にともなう衝動制御の問題は、摂食障害だけでなく双極性障害と誤診されていることも多いのです。

アスペルガー症候群などの発達障害や注意欠陥多動性障害(ADHD)は、生来的な特徴ですから、定型的な対人関係療法は難しいようです。

院長

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